流星街とマフィアンコミュニティーの間には暗黙の了解というものが存在する。
確かに何を捨てても許される場所ではあるけれど、そこから奪うことはよしとされない。
マフィアたちがこぞって流星街に資源を流す一方、確かに貴重な人材がマフィア方面へと流れていく。
しかし必ずなにかしらの形でマフィアは流星街の議会の許可を得なければ『人』を拾っていくことはできない。
しかしここ何ヶ月かで流星街から突然子供達が消える事件がおきている。
狙われるのは傍に大人がいない流星街の中で一人で生きているような子供だったり、子供だけでグループになって暮らしている子供達だ。
どんなに流星街の中で目立たない存在といえど、流星街で暮らす為に必ず『登録』がほどこされる。
その『登録』済みの子供達が突然この流星街からいなくなっていくのだ。
この街の中で暮らしていると誰もが他人に干渉することをよしとしないのに、こと奪われることに関しては別の話になる。
たまたま子供達が数人のグループによって『拾われていく』のを見た人間が現れたのだ。
「だからといってそいつらを探して、尚且つ始末してくれっていうのはものすっごい大変だと思うんですがどう思われます、ムクロさん。議会のやつらはわたしのことを何だと思ってるんでしょうねぇ、便利屋でも議会御用達の人間でもないんですけどねえ」
『オレにふるな、さっさと探して始末しちまえよ。あんまり退屈だとオレは帰るぞ』
「いやーん、それは勘弁してください。一応目処はつけてますから〜好きなだけ暴れてくださいねー」
議会の連中に呼び出されたと思ったら、とりあえず他の住民達にばれる前に始末をつけてくれとジジイたちに口をそろえて頼まれた。
推薦なんて面倒くさいことをしてくれたミツヒデさんは本当にあとでギッタギタのけちょんけちょんにしてやることにして、今はぶっちゃけマフィアがどうのというよりもささやかながらに高笑いをキキョウの前でしてしまったことのほうが大事なのだ。
あー絶対あの娘はわたしが帰ってきたら笑い方がオホホホになっているとすっごい嫌ながらも確信にちかいものを覚えつつ、知り合いの情報屋から受け取ったネタを元にとあるビルにやってきた。
30階ほどの高さを誇るビルの持ち主は最近マフィアンコミュニティーでもメキメキと頭角を現してきている新興マフィアだ。
どうやら流星街から面倒なことに子供達を無断で『拾って』いったのはここの連中らしいということでやってきたのだが。
『血の匂いがすごいな、久々に興奮しそうな匂いだ』
「うーん、誰か先客が来てるってことですよねぇ。困ったなぁ、子供達生きてなかったらジジイたちが黙ってないと思うんだよね」
『まだ人間の匂いはするぜ?上と、下、だな。上の方が血の匂いがキツイ、ガキどもは下じゃねぇか?』
ふよふよと足があるくせに念の集合体だからか空中を浮かびながら隣を飛んでいるムクロさんに、まじっすか?と聞けばギロリと睨まれる。
「いえ、ムクロさんのお話ですもんね!信じてますよぉ、じゃあ下からちゃかちゃか探して帰りますかー」
『なら、オレは上にいってきてもいいか?こんなに血の匂いがする場所で何もするなとお前は言わねえよな?』
「えへ、どうぞどうぞ、遊びに行って来てくださいまし!あ、でも無茶しないでくださいよー、いくら念の集合体だっていってもムクロさん消えたらわたしが困るんですから!」
『困るのは自分の手を汚すことだろうが、この能天気女』
そういうとムクロさんはふよふよ〜っと天井に消えていく。
きっとあのまま床と天井を通り抜けていってそのまま上にいる先客に会いにいくつもりなのだろう。
本当無茶はしないでくださいよーといなくなった天井に向かって呟くと私は私でまだ子供達が生きている事を祈って地下へと続く階段を探し始める。
まぁ結果からいうと子供達は生きていた、ただ私の手元に残っている生きている子供はほんの3人で明らかにもっと多くの子供達が『拾われた』はずだから議会のジジイたちには報告しづらいなぁとガリガリ頭をかいてみる。
赤ん坊が二人とどうやら足の腱でも切られたのか、立ち上がれない子供とを落ちないように抱え込むと、ちょうど上からドガーンと何かが思い切り爆破されるような音が響き渡る。
地下にいるとその音はますますひどく伝わってきて、ぎゃー鼓膜が!と自分の耳は勿論子供達の耳の安全のためにも足早に地下室をでていく。
そのまま、とんとんとん、と軽やかに階段をのぼっていく、目指すはムクロさんと先客のいる階だ。
どうやらムクロさんたちは最上階の30階にいたらしく、私が階段をのぼりきったところでドカーンと真横に大きなコンクリートの塊が飛んでくる。
ガキんちょ達に当たったらどうすんの!と文句を言ってやろうとムクロさんのほうに視線を向けると。
「お前があの女の主人か?面白い念だな」
「そうですけどもー、えーと、先客さん?あら?なんでうちのムクロさん、少年とバトルってるわけ?ていうか主人とか言わないでー、私がムクロさんに殺されちゃう!」
『うるさいぞ、!なんだ?ガキたちはみつかったのか?』
「一応三人だけ。なんかあとは行方不明、本当に魂ごと行方不明って考えた方がいいっぽい」
壁際に私と同じように立っている私より少し背の高めの男の人が声をかけてきた。
ムクロさんはというと部屋の中で頭が痛くなりそうな予感満載の少年とそれはもう楽しそうにバトルしていて、さらに頭が痛くなりそうな予感満載の男の隣で私はぶすっと両頬をふくらませた。
「ていうかもう帰ろうよ、ムクロさん。なんか処理しなきゃいけない人たち死んじゃってるみたいだし、(なによりこいつらには絶対に関わっちゃだめだと私の本能が告げている!!)」
「軽く俺たちのことを無視していないか?」
「はい、なるべく視界にいれないように話しかけられないようにしてるつもりなんですけど。つか、先客さんのお仕事はどうやら終わってるんですよね?」
「まぁな、俺の息子がまだ遊び足りないようだから遊ばせてやってるが」
ニヤリと笑う銀髪男性に私はへらっと笑い返すと
「ムクロさーん、カムバーック!私たちは急いでここから離れなくちゃあいけない!娘の貞操の危機だ!はやくしてたもぉ〜!!」
楽しそうにバトルしてるムクロさんに向かって走り出す。
この銀の髪をなびかせる親子だけは絶対に近づいちゃあいけない、なにせ私の娘を奪っていくんだからな!!
ただそれだけ必死になってムクロさんに突撃するとちょうど繰り出された(恐らく)未来の銀髪ウェ〜ビ〜の蹴りをムクロさんの体を盾にして(あとで絶対に首をしめられる)いなすと、遥か下の明かりが思い切り見える窓ガラスの前に立つ。
『!オレを盾にするとはいい度胸だな、おい』
「すんませーん!つかもう仕事終わったんだから無駄な体力使う前に帰ろうよ!(そうじゃなきゃ娘の貞操が!!)」
真っ赤に染まった部屋の中央でこちらを睨みつけてくる少年とその後ろでどこか楽しそうにこちらを見ている男性とをなるべく視界にいれないようにしてムクロさんに謝りたおす。
あれは絶対にパドキアのお山に住むというとんでもない一族に違いないのだ、関わらないことに越した事はない。
な の に ! !
「親父、俺はあれがいい」
「あれ、か?どれだ?」
「どれもなにもあっちの女は念なのだろう、ならばあのガキどもを抱えている女のほうだ」
指を人に向けてさしちゃいけませんって親に教えてもらわなかったのか!とどなりかけそうになってその親が後ろに立っていることとこの一族にそんなことを教えるやつはいねぇということに気付き、言葉を飲み込む。
ぐうぇっと奇妙な音がもれたけど気にしない。
「そうか、そんなに気に入ったか」
「ああ、あの念といいあの女自身も面白そうだ。アレがいい」
「ふん、なら・・・そこのお嬢さん」
「げっ、私ですか?ムクロさんですよね?」
『明らかにお前だろう、この馬鹿女』
「俺の息子がはじめて気に入った人間だ、ついでだからこいつの嫁にならんか?」
あれ?キキョウちゃんの貞操の危機じゃなくて私の危機?
「どうやら基礎体力も念のほうもかなり上級レベルとみた、お前なら俺も俺の親父も文句を言わねえだろう。どうだ?」
どうだ?って、ねぇ。
言えることはタダ一つ。
「すみませーん、お断りさせていただきまーーーっす!!」
ガッシャンと後ろの窓ガラスを叩き割ると30階の高さから外に向かって体を投げ出した。
これくらいならまぁなんとか気張れば骨折もしないで着地できるはずだ、とゴーゴーと風をきりながら落ちていく。
『なんだ、断るのか。あのガキはなかなか将来が楽しみだぞ』
「私、さすがに娘の一応旦那になる人を食う趣味はないんで・・・その前に嫁がせないけどね!オホホホホ!!」
落ちて小さくなっていく女の姿を窓ガラスがはめてあった場所ギリギリに立ち眺めるのは少年の姿。
後ろの音もなく立った少年の親らしき男が、そんなに気に入ったかと口を開けば少年の口から小さく、あぁ、とだけ返事がかえってくる。
人に興味をもったことのなかった息子のはじめてのその行動に男は軽く驚きながらも、少しだけ息子を手伝ってやるかと落ちていく女には非常に迷惑なことに親心をだしていた。