「はい、いないないバー!!」
「ダー!キャァ!」
ってなんでやねん!なんで私がこんなベビーシッターもどきやらにゃあかんねん!!」

ついでになんで関西弁やねん、と自分で自分につっこみ。
そしてふと我に返ると非常に空しい、かなりむなしい。
というかもうむなしいを通り越して自分が可哀相な子になってきた気分だ。
どこまでも続くゴミの中で赤ん坊をあやす私―――誰がこんなことになるなんて想像できただろうか。
だってついさっきまで友だちと一緒にガン●ムスピーカーを狙って(しつこい私)クレーンゲームに夢中になっていただけなんだから。

「あー・・・だぁだー!」
「あーはいはい、嬢ちゃんだか坊ちゃんだかしらんがちょっとしばらく私の髪の毛で遊んでてねーはいはーい」

二つに結んである髪の毛の束を一つ赤ん坊の手に近づけるとそれはもう楽しそうにぎゅうぎゅう掴んで引っ張り遊び始める。
引っ張られるとそれなりに痛いのだけど今はそれどころじゃあない。
これから先どうするか、いやそもそもここは一体どこなのか、まずは現状把握からはじめなきゃいけない。
キャッキャ髪の毛を引っ張って喜ぶ赤ん坊をよっこらせとしっかり抱えなおすと、よくこんな汚い場所で座り込めたもんだと今更ながらに周りを見渡して感動する。
気付けば鼻のほうはもうどうやらあまりの匂いに感覚が麻痺してしまったのか、うんともすんともいわない。
いつでも中国に旅行にいけるなと一人感動しながら立ち上がり、誰か話し掛けれる人はいないかと辺りに視線を巡らせていく。
ぽつりぽつりと人影は目にはいってくるのだけれどそれぞれがみんなバラバラで結構距離がある。
ふとよく観察していると人影のうち何人かがパンパンに膨れ上がった袋を抱えあげてどこかへ帰ろうとしているのがわかる。
みんな同じ方向に向かって歩き始めたという事はもしかしてその先には町があるんじゃないかと思って、赤ん坊をしっかり抱え込むと私はゴミ山に向かって足を動かし始める。
前を歩く人たちの姿を見失わないように早足どころか駆け足でゴミの中を突き進んでいく。
普通のマラソンなんかよりもはるかに疲れる、ゴミに足元をすくわれてしまい思うように動かないのだ。

「だーチクショウ!絶対こんなことで私は負けましぇーん!!」

ふざけた言葉がでてくるあたり、人間死に物狂いになると人目のことなんてどうでもよくなってくるに違いない。
汗がだらだらでてこようが髪の毛がボサボサになろうが(半分は赤ん坊のせいだけれど)なんか鼻がツンとしてきて鼻水がでてこようが色んな感情がわっとでてきて涙がボロボロでてこようが、前を歩く人たちの姿だけを頼りにゴミの中を歩いていく。
もう私の外見から『女子高生』なんて言葉は見つからないはずだ。
それでも、置いていかれるか死んでしまうか、今の状態はそんな感じのような気がするのだ。

「あー?」
「へいへい、町に着いたら構ってあげるから。つかなんで私見知らぬ赤ん坊抱えて必死になってるんだァ!!ヒィ!!」
「だぁ、あー」

ゴミの大地は続く続く、線路が続く以上にゴミも続く。
一体どれくらい歩き、いや走っただろうか。
ふとゴミの向こうに白い建物がいくつも建っているのが目にはいってきた。
前を歩く人々は荷物を抱えながらその建造物が立ち並ぶ方へと向かっており、途中で彼らもまたつけていたフルフェイスマスクは外した。
そこでふと自分がなにかおかしいことに気付いた、今私が立っている場所から彼らが立っている場所、しいては建造物があるだろう場所までの距離が尋常じゃないことに。
そしてそんな尋常じゃない距離の先に立っている人間の顔かたち造作が全て手に取るようにはっきりと見えていることに。
建造物だってはっきりと窓やら模様やらはっきりと見えている。
それどころか一応赤ん坊抱えてここまでそれなりに全力疾走し続けてきたのに息一つきれていない。

「お、おかしくない?だって私の視力0.8だぞ・・・明らかにあの建物まで5キロ以上ありそうなんですけどー・・・あれ?」
「だー?」

私が首をかしげると腕の中の赤ん坊も私の髪の毛の束を掴んだままコテンと小さく首を横に倒している。
おーかわいいかわいいと頭を軽く撫でてやってから、視力のことも嗅覚の事もあとまわしだとばかりにここまで勝手に道案内してくれた人たちのあとを追うようにして建造物、いや街にむかって足を動かした。



















「う、おー・・・一面真っ白」

ゴミの大地を乗り越えると目の前に広がるのは白い建物が立ち並ぶ街並。
あまり白以外の色はこの街では好まれていないのか、本当に白色が多く太陽の光がぶっちゃけ反射してまぶしい。
なんて目に優しくない街なんだ。

「とりあえずここがどこなのかとか聞いて、赤ん坊のこともどうにかしなくちゃ。ねー?」
「きゃあ!だー!」

腕の中にいる赤ん坊に笑いかければ声をあげ腕もあげながら笑い返してくれる。
あーなんだか癒しだ。
クルンクルンと黒くて細い巻き毛に綺麗な綺麗な青い瞳、明らかに日本人ではないみたいだけどぶっちゃけさっきのフルフェイスマスクみたいなのがいる限りここはまず日本じゃあないことは確かだ。
とぼとぼと建造物一つ一つを吟味するかのように右へ左へ首を向けながらゆっくりと歩いていた私はどうやら広場のような場所まで歩いてきたらしい。
広場があるって事はここがちょうどこの街の中心ということにでもなるのだろうか。
相変わらず真っ白な街の中を歩く人たちの姿はどこか全体的に希薄だ、お互いにあまり顔を見ることもなくただ通り過ぎていくだけ。
立ち話をしている人たちなんて一人もいやしない。

「寂しい街だねぇ」
「うー?」

とんとんと軽くあやしながら誰に言うでもなく呟いた言葉に赤ん坊がまるで「なんのこと?」と返事をするかのように声をだす。
それに今日何度目になるかわかない胸キュンを感じつつ、広場の奥に立っている教会らしき建造物へと足を踏み出した。
とりあえず教会(もどき)だ、神父さまなら少しくらいは助けてくれるだろう、助けてくれなかった盛大に罵ってやると無駄に気合をいれながら。

「たのもー!」

ぎぃっと木製の扉が音を立てながら開いていく。
教会(もどき)のなかは薄暗く人の姿も見受けられない、本当に教会かここはと言いたくなるような湿っぽさだ。
奥に大きな十字架がステンドグラス前にたてられている、がイエスキリストの姿も聖マリアの姿もない。
ただ単に飾ってあるのはかざりっけの無い十字架だけだ。
うおーなんかすっごいあやしすぎるーでも背に腹は変えられない〜と勇気を振り絞って中に体を滑り込ませる。
静かな空間に腕の中の赤ん坊はきょとんとしたままただ静かに大人しくしている。

「すみませーん、誰かいませんかー?あ、日本じゃないんだっけ。イクスキューズミー!ついでにヘルプミー!」

ゴワンゴワンと自分の声が反響して幾重にも重なって耳に入ってくる。
それだけだ。
なにもかえってきやしない。
もしかして誰もいないんじゃないの!?え?神父不在教会!?まじ!?と慌ててパタパタとステンドグラスと大きな十字架の前まで足をすすめる。

「イクスキューズミィ!ヘルプミー!ヘルプーヘルプーヘルスー!!だー!誰かいねぇのかチクショウ!!
「だー!きゃあ!!」

声を荒げると腕の中の赤ん坊がそれはもう楽しそうに同じように声を出し始める。
遊んでもらってるとでも思っているのだろうか、勘弁してくれ。
がっくりと首をおとしたそのとき、カタンと奥の隅っこにあった小さな木の扉が小さくひらかれた。

『一体どなたですか?騒々しいですね』

現れたのは白い服に身を包んだ多分神父さん。
ようやく現れた人にほっと安堵の息をつきつつ、私は新たな問題にでくわしていることに気付いた。





このおじさんの喋ってる言葉がわからない!!