12年ぶりに帰ってきたというのに子供をぞろぞろと連れてきたのヤツは俺との話もそこそこに(こいつに戻って来いといったのは俺で実際仕事の話があったからそっちのほうが優先されてしかるべきなのだが、何も言うまい)金色の子供を抱きかかえたまま台所の方へと向かった。
恐らくあの金色の子供が今ここにいるガキどものなかで一番小さく、そしてここが一番重要なのだが、一番将来のビジョン的に優秀だからのヤツはあのガキを抱えたまま離そうとしないのだろう。
まぁあのキキョウもでっかくなっちまって(さすがに俺も最後に会った時は育て方間違えたなと気が遠くなりそうになったが)少し寂しいのかもしれない。

「ぎょえー!冷蔵庫ん中、からっぽじゃないのォ!!ちょっと、ミッチー!?」
ミ、ミッチー・・・?
「胡散臭そうな目で俺を見るな、ノブナガ!というか!お前もその名前で俺を呼ぶんじゃねぇって何年言やぁわかるんだ!」
「どうでもいいっつの、そんなこと!それよりも本当に空っぽじゃん!一体今この家に何人いると思ってんの!」

台所からひょいと顔をのぞかせるに俺は「だったら前もって連絡してこいよ!」と怒鳴り返す。
いつのまにかあの金髪の坊主はから降りていて、けれどしっかりとアイツのズボンを握り締めている。

「だー!こんなんじゃ何もできないじゃんか・・・って、仕方ない。あそこから盗も、いやいや、いただこう」
「おいこら、どこに忍び込むつもりだ」
「キキョウの家の厨房。あそこならたんまり食料くらいあるでしょ、いらない調味料という名のポイズンもあるだろうけど・・・

仕方ない、そういうとは坊主を足に貼り付けたまま廊下の奥へと歩いていく。
廊下の突き当たりに一つ扉がある、その向こうには部屋なんてものはないし(あったとしても壁かもしくは外だ)ノブもどんなに力をいれてもまわることはない。
ノブナガに今までも散々あの扉はなんだと聞かれてきたが、あれは『専用』のドアであって俺にもお前にもまったく関係のないものだとしか言いようがなかった。
今もノブナガのヤツは俺との背中とを交互に見ていて、あれはなんだとものすごく聞きたそうにしている。

「どうせだから一週間分くらい貰ってこ。おーい、力自慢のチビたち、ちょっとここで荷物受け取って台所に運んでいってちょうだいな〜」
「ほら、フィンクス、フランクリン。呼ばれてるよ」
「なんで俺が・・・」
「いいから早く行ってこい!」

女の子に背中をドンと蹴られて男の子二人が、特に一人は至極嫌そうにの方へと向かう。
俺も一応行っとくかとチビ二人のあとをのんびりと歩いていくと、何がどうなるのか気になるのかノブナガのヤツも、ついでに他のチビッコたちもわらわらと俺の後をついてくる。

「うおっ、全員来たの?そこまで荷物は多くないと思うんだけどなぁ、まあいいや。そこから動かないでね、この先は流星街にもいないようなすごい危険な銀髪の野獣とかていうか銀髪一族がいるから。シャルも私から離れちゃダメだよ?」

すぐ先頭にたっているフィンクスとフランクリンと呼ばれたガキどもに注意を促すと、はボフンと右手に鍵束を出した。

「行き先、ゾルディック一族本家の厨房!ていうかやっぱり食料庫!」

一本の銀色の鍵を取り出して鍵穴に差込みガチャリとまわすと、どこからともなくピーンとアナウンスに使われるような音が聞こえてくる。
そのままはノブを回しそーっと静かにドアを開けていく。
ノブナガが下で「開いた!?っていうか部屋があったのか!?」と驚いているがそれをわざわざ説明する気にもなれない。
いつか機会があれば勝手に知ることだ。
誰もいない事を確認したは坊主を足にくっつけたまま中に入り込み、ぽいぽいと缶詰やら野菜やら肉やらとにかく大量に俺たちのいる廊下に食料を放り投げてくる。
最初の缶詰はゴインと音を立ててフィンクスと呼ばれたガキの頭の上に落ちてきた。
次々と目の前に積まれていくたくさんの食料にガキどもは目を輝かせながら見つめていて、俺が「台所に運んでいってくれや」と言えばそれぞれ持てる限り腕の中に抱え込みながら廊下を戻っていく。

「ほら、お前もさっさと手伝え。良かったな、どうせ夜の飯はなかったんだ」
「げ!さすがに飯抜きは嫌だぜ!」

相変わらずドアの方を見つめて唖然としているノブナガに頭を軽く叩いて促せば、そう痛くもないはずなのにあてつけのように頭をさすりながら他のガキどもと同じように食料を抱えながら廊下を戻っていく。
廊下の天井に食料がつきそうになったところでが「いい仕事をした〜」と汗をかくふりをしながら現れる。
そのまま今度は急いでドアを閉め鍵を抜き取り、その鍵を鍵束に戻したところでボフンと音を立てて鍵束ごと消える。
すごーいと相変わらずズボンにしがみついたまま目を輝かせてをみつめるガキにはよしよしとばかりに頭をなでてやるとすぐに運ぶぞーと気合を入れ始める。

「シャルも手伝ってくれる?ほら、この缶詰持てる?」
「持てるよ!」
「うん、じゃあそれ持ってさっきのお部屋に運んでくれる?私もすぐに行くからさ」

わかったといって廊下を走り抜けていくガキの後姿を見送ってのヤツは、ミツヒデさんも早く持っていってよと俺に口を開く。
へーへーと答えながら両手で抱えれるだけ抱えたがまだかなりの量が廊下に残っている。
再びガキんちょたちが何人か戻ってきてさっきと同じようにキラキラ目を輝かせながら残っている食料を抱えていく。
それでも残った食料はのやつがあとから抱えて持ってくるだろうと俺は一足先に台所のほうに向かう。















「「「「「チャンチャラチャラチャラチャッチャッチャー!チャンチャラチャラチャラチャッチャッチャー!」」」」」

台所から何人かガキの声も混じっての鼻歌が聞こえてくる。
なんといったか、ピーキュー3分クッキングとかいうの世界のてれびなんとかだったかと思う。
昔もキキョウと二人でそんな曲をうたいながら飯を作っていた、今はしがみついて離れない金髪の坊主とさっきまで気絶していたガキと女の子二人だが。
見たこともないような食材にガキどもは(特に女の子二人は)目を輝かせてに詰め寄った。
あのライオンヘアーのガキは床に転がしておいたのに「肉の匂いがするー!」といって飛び起き、目の前に詰まれた食材に雄たけびをあげたほどだ。
そんなノブナガ以外のガキたちに(どうやらこのチビ助はまだのことを不審人物だと思っているらしい)は何を言ったのかは知らないが、ライオンヘアーと女の子二人が一緒に台所に消えていき他のガキどもも台所の入り口でこそこそと中を覗きこんでいる。

「はいはい、ライオン坊主!このボールの中のお肉、よーくかき混ぜてこねくりまわしてちょうだいな!あ、ボールは壊さないでよ?」
「おう!肉だ肉〜豚に牛に肉肉にくぅ〜
「こいつが肉をこねてる間に三人は手を洗っておいで、しっかりゴシゴシ洗えよー」
「はーい!」

ライオンヘアーの調子外れな歌とガチャガチャと久々に台所から食器やらなにやらがぶつかる音が聞こえてくる。
12年っていうのは長かったようで短かったのかもしれねえなぁとぼんやり椅子に座りながら、台所を覗き込んでいるガキたちの背中を見ていると床に座り込んでいたノブナガがふてくされた顔をして俺のほうを見ているのに気付く。

「なんでそんなだらしねえ顔してるんだよ、ミツヒデ!いや、もともと全部だらしねえけどさ!」
「そうかぁ?いつも通りだと俺は思うがね。まあ久々に聞こえてくる音やら声やらで懐かしがってるのかもしれねえな、らしくねえとてめえでも思うがな」
「・・・・・・やっぱりアイツ、ここに住んでたのか?も、もしや、お前のおくさ
「・・・・・・気色悪い想像はやめろ、みろ!思い切り鳥肌たったじゃねえか!」
「ちがうのか!?」
違う、ぜんぜんまったくもって違う!違うが、ここにアイツがずっと住んでいたのは確かだ。あともう一匹いたけどな」

頭の中に俺と離れてからすっかりたくましくなってしまったお姫様の姿を思い浮かべる。
ソプラノ声は思い切りキンキンと響いていて、というかあいつの旦那になったやつは人間じゃない、あんなに寒々しい結婚式ははじめてだ。
旦那の父親とは冷ややかな空気を垂れ流しているわ、ちっとも嬉しそうには見えない旦那と自前のフリフリウェディングドレスに身を包んだ花嫁、そして時々麓のほうから聞こえてくる人間の悲鳴・・・あれは恐らく人生ワーストワンの思い出として残るに違いない。

「はーい、じゃあみんな、手に肉を一塊もったらまるめてまるめて」
「丸めるの?こんな感じ?」
「そうそー、パクうまいじゃない!ん、マチもシャルもいいよ〜。ライオン坊主!あんた、肉取りすぎだから!」
「そう?料理するのは初めてだよ」
「えー!これは俺が食べるからさぁ、許してくれよー」

楽しそうな声が台所から聞こえてくるたびに、ノブナガが段々とそっちを気にするような仕草をとりはじめる。
仕方ねぇヤツだなと軽く背中を押してやるとノブナガは渋々みたいな表情を浮かべながら、その割には早足で台所のところにたむろしているガキたちの中に入っていく。

「あーでも、お前を拾ったのは俺じゃなくてアイツなんだけどな。まあどうでもいいか」

他のガキどもと一緒に騒ぎながら台所に結局駆け込んでいったノブナガの背中を見つめながら、俺はあいつと初めて会った日のことをぼんやりと思い出した。