最終試験が始まって、もうすぐ6時間がたとうとしている。
原作と違って一人イレギュラーな存在である『私』が最終試験にまで残っていることで、あのトーナメントにどういう影響がでるかわからなかったけれどとりあえず私は順調に『負けて』いっている。
面接であれほどハンターには興味なんてないからとアピールしまくったのにも関わらず、私のトーナメント初戦の相手はあのヒソカたまだった(先にヒソカたまはクラピカと手合わせしているけれど)
トーナメント表を見た瞬間、私の額にビキと青筋が走り思わず殺気なんてものをネテロのジジイに向けてしまったのだけれど、あのジジイ、口をとがらせて絶対に私と目をあわせようとしない。
あとでビスケに手伝ってもらってでもいつか絶対にしめる!と心の中で深く深く誓いながら、会場の上でヒソカたまと向き合ったことがつい先程のような感じだ。
ちょっと私が思わず放ってしまった殺気に挑発されてかすんごいことになってる顔に思わず引きそうになりながら、審判の開始の合図とともに「参った!!」と口を開く。
更にすんごいことになってしまった顔にヒィと思わず叫び声をあげそうになるが(さすがにたくさんいる子供達の中でもあんなにヤバイ子はいないんだもの)なんとかこらえて、我関せずとばかりにクールに試合会場をあとにした。
その後も原作どおりに話が進んでいって、唯一違うといえばヒソカが私との試合で勝ったことでボドロさんと試合することになったのが私になったっていうこと。
それから試合数が一つ増えた事で、可愛い孫同士の骨肉の争いというか?なんというか?まああの事件が私とレオリオの最終試合の前に『予定通り』行われたこと、だろうか。

本音を言うとボドロさんがレオリオとの試合で亡くなるのはどうでも良かった。
この世界、もとの現実世界なんかとは比べ物にならないくらいはるかに裏の世界が力を持っている。
私だってこの世界に捨てられて、40年、流星街なんてところにいたせいか裏の世界にいる方が表の華やかな世界よりも心地よいものになってしまっている。
力をもつものが全て、とは言わないけれど恐らくボドロさんがこのハンター試験をクリアして資格を得たとしてもそう長いこと生きれないんじゃないかとはずっと思っていた。
そのときはそのときでしょ、とボドロさんと対峙してすぐに『参った』と言った私にとってボドロさんという存在はそんなものだったのだと思う。
資格を得た後は自分次第、そこで生きながらえようがあのポックルのように殺されてしまおうが、この世界じゃ人っていう存在はそんなものなのだ。
まあでも私がボドロさんに『負けた』ことで最終試験はしっかりとキルアがイルミに負けた後に行われて、尚且つその試合が私とレオリオなわけだから殺されちゃうのは私ってことになる。
相変わらずムクロさんの姿のままなのでキルアもイルミも私が誰だかは気づいていない。
二人が目の前でジリジリと会話を続けているのを聞きながらこの後のことをのんびりと考えてみる。

あーにしても、やっぱりイルミは生まれた時から猫のようだったけれど20年経っても猫のままでばあちゃん可愛くて仕方ないよ。
キキョウの育て方とキルアへの愛情の注ぎ方を思い切り間違えてるけれど、でも可愛いから許しちゃうよ。
ただ、やっぱりキルをそこまで追い詰めちゃったことはばあちゃん怒ってるからあとでお仕置きだけどね。

「まいった・・・おれの・・・負けだよ」

キルアがイルミの伸ばされた手の先で俯いたまま小さな声を発したのが耳に入った。
ついでにキキョウもシルバの野郎もお仕置きだ。













「最終試合始めます、レオリオとムクロ、前へ」

自分の試合が始まろうとしているのに先程のことがよっぽど納得いかないのか、険しい顔をしたままレオリオ少年(っていうとなんだか変な気分だ、自分よりもふけて見えるから)は石畳の上にあがっていく。
ちらっとクラピカの隣に立っているキルアに視線を向ければ、本当に感情も思考も何も持たない人形のように、何もうつさない目でぼんやりと床を見つめているのが視界に入る。
時々クラピカが何か声をかけているようだけれど、反応を示さないところをみるとよっぽど先程のイルミとのことがショックらしい。


でも待ってなさい、キルア。
あのどうしようもねえ馬鹿娘と馬鹿婿のいる家からお前を引っ張り出してくれる存在がいるから。


「準備はよろしいですか?」
「ああ、俺はいいぜ!」
「こっちもいいよ」


ついでにあの馬鹿夫婦に私からしっかり説教もしておいてやるから。


「それでは、第8試合!レオリオ対ムクロ!」


だから、キル、私の可愛い孫、その手を赤く染め上げるのは私で最後になさいな。


「開始!!!」


まだまだやり残した事あるから、ばあちゃん、お前の攻撃くらいで死にやしないよ。


審判の号令と同時に私の後ろに小さい気配が一瞬にして入り込んだのがわかった。
自分も一瞬に少しだけ立ち位置をずらせば、自分の腹に何か熱いものを感じる。
あーこれが刺される感覚かよ、と今まで40年、ムクロさんがいたからこそ一度も味わった事のない感覚をはじめて受ける。
手を突き出したキルアもキルアで、心臓を狙っていたのにいつのまにか心臓じゃなくて腹に手を差し込んでいることに少しだけ驚いている。
目の前じゃあレオリオが私のお腹から突き出たキルアの真っ赤になった手を呆然と見ていて、自分もレオリオを真似てゆっくりと顔を下にさげてその赤くなった手を見下ろす。
うーん、スプラッタもいいとこだと結構頭がクラクラしているのをなんとか踏ん張ってそのお腹から突き出ているキルアの小さい手をぎゅっと左手で握り締めてやる。

「なんで・・・?心臓ねらったはず・・・」
「いやあ、確かに普通の人間じゃ心臓一直線コースだったわよ。キルア」

ムクロさん、戻っていいよと自分の体に憑依させたままのムクロさんに心の中で言えば、無理するなよとあのハスキーボイスが頭の中に響いてくる。
ああやっぱりムクロさんってば素敵、と心の中で思えば今度は沈黙が返ってくる。
同時にジジジジとまるで幻影が晴れていくかのようにぐんにゃりとムクロさんの体が歪んで、私本来の体に戻っていく。
焼け爛れた皮膚もなければむき出しになった目もない、まあ多少腹から手がにょきっとでていてスプラッタだけれど、金色の短い髪から赤茶けた私本来の髪の色に戻っていく。

「あ・・・あ・・・な、なんで」
「ごめんねー、避けようと思えば避けれたんだけど避けたくなかったんだよね。ついでに今まで黙っててごめんねえ」
「なんで・・・」

ぎゅっとキルの小さい手を握り締めてやったまま、顔を少しずらせばたいして表情は変わっていないように見えるけれどかなり驚いているらしいイルミの姿が目に入る。

「うん、さすがに自分の腹を通して孫を抱きしめるのは変な感じだからさ。キルア、ばあちゃんの体から一回手を抜いてくれる?」
「・・・・あ・あぅ・・・」
「落ち着け、落ち着け。ゆっくりでいいからさー」

そっと手を離してやれば少しずつ自分の腹から手が抜けていくのがわかる、じんわりとじんわりと熱いものが体を焼き付けていくようなそんな感覚だ。
ガクガク震えながら私の腹から手を抜いたキルアはそのまま呆然と膝から力を抜いて床にへたりこみそうになり、慌ててそれを腕で支えてやる。
いや、どっちかっていうと支えて欲しいのは私なんだけど、そこはそこ、おばあさまの底力ってヤツよ(あとシルバを殴るまで死ねない)

「な、なんで?なんでばあちゃん、ここに・・・」

キルアの縋るようにしてしがみついてくる腕に好きなようにさせてやり、よしよしとばかりに頭を撫でてやる。
ばあちゃん発言二回目にしてようやくレオリオたちが「ばあちゃん!?」と声を張り上げだす、ハンゾーのやつなんかはイルミとキルアと私とを順番に見ていって「んな馬鹿なぁぁぁ」と頭を抱えてまでいる。
「んな馬鹿なぁ」なのはお前のそのつるっぱげと名刺だけだっつのと心の中でネチネチ言いながら、よっこいしょと声を出しながらキルアをしっかりと立たせる。

「キルア、馬鹿猫兄貴に言われたからってわざわざ負けるのに殺す必要はないでしょう?」
「おばあさま、馬鹿猫兄貴って俺?俺だよね?」
「本当に銀色一族の子育ては間違えてるよね、やっぱりあの筋肉馬鹿が小さい時に殺しとけばよかったかな」
「ば、ばあちゃん。腹、大丈夫?俺、俺、思い切り捻じ込んだから」
「大丈夫大丈夫!安心せろ〜馬鹿娘を一発殴ってやらないと死ぬに死ねん!それよりも、キルア。ばあちゃんとの約束、一つ目の方覚えてるね?」

離れたところにたっていたイルミの声は思い切り無視、可愛いけどお前は当分馬鹿猫兄貴で充分だっつの!
ジクジク痛む腹をとりあえず気にしない方向で(結構無理があるけれど)キルアと視線を合わせる為にしゃがみこみ、約束のことをきりだせばキルアは半泣きの顔のままこくりと一つ頷いた。
あーやっぱり私にそっくりでなんて可愛いのと思い切り抱きつきたくなるのを押さえ込んで、にっこりと笑いかけてやる。

「なら、どうするの?」
「家に、帰る・・・」
「そうね。迎えっていえるかわからないけれど一応馬鹿猫兄貴に見つかっちゃったもんね、一度おうちに帰りなさい」
「ばあちゃんは・・・ばあちゃんはどうするの?」

え?私?そりゃあ勿論

「後から家のほうに行くよ。やらなきゃいけないことがあるから、少し遅れるかもしれないけどね。とりあえず家にはイルミからもう連絡がいってるだろうから飛行船の一等船室使って帰りなさい、思い切り食事も食べて使えるだけお金使ってやりなさい。ばあちゃんが許す、どうせ溢れるほど金があるんだからあの家」
「え、いや、そんなことしな」
していいのよ、キル。あ、ついでに家に帰ったらシルバに伝えてくれる?『20年越しの鬼ごっこ今度は私が鬼になります、せいぜい逃げ回るがいいわ』ってね」

そういってそっとキルアの背中を会場の入り口に向かって押し出してやる。
押し出されたまま歩き出したキルアだけれど名残惜しそうに私のほうに振り返る、その姿のなんてかわいいことか!なんでカメラ持ってないんだろう私!!用意しておけばよかった!
バタンと音をたててドアがしまるのを見届けてから審判じゃなくてネテロのジジイの方にくるりと振り返る。

「つうわけで、あの子が一応失格者ってことで宜しくお願いします。ジジイ、てめーこれで満足か!?トーナメントのこと、あとで覚えてろ
「おぬし、本当にオブラートってもんを知らんのか・・・まあ良い、確かに99番が一人失格になったことでレオリオとムクロの合格を認めよう」
「オ、オイ!あんた!腹からすっげえ血がでてるけど大丈夫なのか!?つかマジであのキルアのおばあさんなのか!?とてもそうは見えないんだけどよ」

駆け寄ってきたレオリオに体を支えられる、いや助かった、ちょっとフラフラ本当にしてきたとこだったのよ。
ありがとう、と彼に言えばレオリオくんは少しだけ顔を赤くして(これはこれでかわいいよね)気にするなと口を開く。

「いやぁ私が綺麗で美人でナイスバデーなのは本当だけどぉ」
いや、俺そこまで言ってねえから
「まあ本当にキルアくんのおばあちゃんではあります。ついでにそこに立ってるイルミくんのおばあちゃんでもあります。ね、イル?」

そう言ってドア付近にたっていたイルミに顔を向けてやれば、会場にいた人間が全員イルミのほうに顔をむける。
審判の人たちまで興味津々にイルミのほうを見ているのだ、ハンゾーなんてのはまだなにか頭を抱えこんでいる。
ヒソカたまだって面白そうにイルミのほうを見つめている。
そんなみんなの熱い視線を向けられながらもイルミは猫顔のまま、こくんと一つ頷いた。


「うん。その人正真正銘俺のおばあさま。ところで俺、猫じゃないよ?」








そこで私の意識はブラックアウトした、銀色一族の子育てはどこまで子供を馬鹿に成長させるのだろうか。
ただ非常に心残りなことは、猫じゃないよと言いながらコテンと首を横に倒したイルミの姿をカメラにおさめることができなかったことだ。
ガッデム!!!