目を開けると、なんだかボインな揺れる豊満な胸が二つ目に飛び込んできた。
おいおい羨ましいなと思いつつ、このバストサイズはどう考えてもマチじゃあなくて

「・・・パク?」

もう一人の娘の名前を呟いた、いや更にもう一人娘はいるけれどあれはもう家を出たも同然だ。
珍しい横乳見せてないのね今日はまる見せだなんて太っ腹すぎるわよお母さん羨ましくてないちゃいそうよ。
ぼんやりと視界にはいってくる豊満な胸に両手を這わそうとしてその手をバシンと叩き落される。

「あう、ひどいパク・・・一緒にお風呂入ったじゃない・・・」
「あたしはパクとかいう女じゃないわよ!起きたんならしゃきっとしなさいよ!」
「あう、マチならともかくパクはそんな冷たいこと言わない子なのに。お母さん悲しいわ・・・」
「だからあたしはパクじゃないっつの!いい加減起きろ!!

大きな声が耳元で聞こえてきて同時に頭に衝撃が走る。
ぐうぇ!なんて蛙がつぶされたときのような音が自分の口からでてきて、ジンジンとする頭を両手で抱え込む。
あうあう言いながら思わず襲ってきた痛みにつぶってしまった両目を開けてみると、明らかにパクとは違う胸がバーンと目に入る。

「違う、パクの胸じゃない」
あんたさっきから胸胸胸胸、人の胸ばっかり見てるんじゃないわよ!ちょっとは顔を見なさいよ、か・お・を!

そういわれて顔をあげればそこにはやっぱりパクじゃない女の人、私が間違ってさえなければ彼女はハンター試験の二次試験でお会いした試験官じゃないだろうか。
えーと、たしか名前は

「ミンチ」
メンチよ、このヤロウ!人を肉の塊みたいな名前で呼ばないでちょうだい!
「いやその胸は充分肉の塊ですよ、本当羨ましいくらい。私の見てごらんなさいよ、歳の割りには垂れてないからいいけどでもやっぱりこうもう少し」
「いい加減胸から離れてよ・・・あんた、本当にあの影の薄かった女なわけ!?」

ビシっとメンチの指先が私の顔に突きつけられる。
まぁ確かに最終試験でムクロさんの姿を解除するまでひたすら静かに大人しくひっそりと行動していたのは認めるけど、なにもそこまで驚かなくてもいいのに。

「仕方ないでしょ、影薄くしてないともしもの時困るじゃない。キルアはともかくイルミには見つかりたくなかったし」
「ふーん、最終試験はあたしも見てたけどあんた本当にあの二人のばあさんなわけ?どこをどう見てもあたしより年下に見えるわよ、肌もしわしわじゃないしさ」
「イルミも認めたでしょ、私は正真正銘二人のばあさんよ。あの子達の母親を育てたのは私なんだから」

首をすくめてそういえば、メンチはふーんと口をつきだしながらマジマジと私を頭のてっぺんから順番に見ていく。
そういえばキルアに腕を突っ込まれたお腹はどうやら寝ている間に絶状態になっていたのか結構治っている。
とはいえ体を動かすのはちょいとばかしキツイ、少しでも胴体を動かそうとするとぴりぴりと引き攣った感じと痛みが体を走り抜ける。
早めにマチを呼び寄せないと傷の治りが遅くなってその分キルアに会いにいくのが遅れてしまう。

「はう!ちょいと試験官のミンチさん!」
「メンチだっつの!」
「私がぶっ倒れてからどれくらい経ったの?もしやもうここに残ってるのは私一人とか?うわん、イルミにおいていかれたぁぁ!!」
「ちょっと泣かないでよ!まだ最終試験が終わってから半日ほどだから、誰も帰ってないから、あんたの孫とかいう男もまだいるから!」

うーん、メンチさんって口は悪いけどとってもいい子だ。
なんだかんだで面倒見がとってもいい、なんというかフィンクスタイプだ(本人に言えば真っ赤になってどなってくるだろうけど)
これが逆にフェイタンとかだと私が寝てる間に必ず私の体を使って何か実験している、確実にあいつはニヤっと笑って何かする。

「信じられないわ、腕を折られた子と同じくらいしか寝込んでないのにもうこんなに元気なんだもの」
「腕を折られた子?ああ、ゴンくんのこと?ってあら、あの子が起きてからそんなに経ってないの?」
「ほとんど経ってないわよ。ねえ、サトツ?」

そういってメンチが首を横に向ければ確かにゴンくんに付き添っていたサトツさんがひっそりと隣のベッドの足元に腰掛けているのが視界にはいる。
私が寝ているベッドの隣にはもう一つベッドが置いてあって、めくられたままのベッドカバーがそのままにある。
飛び起きましたーってのがよくわかる。

「そういえばゴンくんにも伝えたのですが、ハンター試験合格おめでとうございます。はい、こちらが貴方のハンターカードになります。一応あなたとゴンくん以外の合格者たちは今説明を受けています、あとであなたも話を聞くといいでしょう」
「あーうん、ドーモネ」
「あまり嬉しそうじゃありませんね、といっても別に嫌そうにも見えない。会長から聞いてはいましたが貴方は本当にハンターという仕事に興味がないのですね」
「うっわ、それ本当?勿体ないわねえ」

手を振ればカードがベロンベロン揺れる、至ってそこら辺にあるキャッシュカードと同じっぽい。
こんなたかがカード一枚の為に命落とすやつも落とす奴だけど、受けに来るやつも受けにくるやつだわねと表、裏と確かめながら考え込む。

「は!それどころじゃなかった!ちょいとお二人さん、悪いんだけど私をみんなのいるところへ連れて行って!」
「は?あんた、お腹に穴あいてまだ塞がってないのよ?」
「そんなのわかってるわよ、ちょっとでも動けば声が出そうなんだから。でもとにかくみんなのところに行きたいのよ、だから連れて行って!」

メンチとサトツさんが二人して顔を見合わせる。
仕方ないわねと首をすくめたメンチにワオと手を叩いて喜べば「調子が良いわね、ホント!これであたしより年上だなんて信じられないわ」と片手で額を覆う。
その後ろでサトツさんもイルミ並に表情を変えていないけれど、微妙な髭の動きからしてどうやらメンチと同じ気持ちらしい。

「いいじゃない、お年寄は大切にしましょーってね。んじゃ、よろしくね、ミンチ!」
「だーかーらぁ、ミンチじゃなくてメンチだっつの!ほら、仕方ないわね・・・」
「あ、お姫様抱っこでよろしくね!目指せ、宝塚!!そういうわけだからサトツさんは我慢しておくれ」
「なんであたしが!・・・はぁ・・・もう好きにしてちょうだい」

ため息ばっかりつくと幸せ逃げるよ?と教えてあげれば、余計なお世話だと怒鳴られる。
うーん、この子は優しい子ではあるけれどどうも堪え性とかいうものが少々足りないような気がするね。













「もしも今まで望んでいないキルアに無理矢理人殺しさせていたのなら、お前を許さない」

メンチにお姫様抱っこしてもらって何故か開け放たれたままの大部屋の敷居をくぐると、ちょうどゴンがイルミの手首をギリギリと握り締め言い放ったところだった。
ゴンの背中ごしにイルミのやっぱり猫みたいな顔が見える、あれはどう見ても猫でしょう、一体誰の血やねんといまだに不思議でたまらないゾルディック七不思議のひとつだ。

「許さないか・・・・で、どうする?」
「どうもしないさ。お前達からキルアを連れ戻して、もう会わせないようにするだけだ」

イルミの淡々とした言葉にはっきりと言い返すゴンに私は思わず笑みを浮かべてしまう。
あの子は漫画を読んでときからずっと思っていたけれど、本当にまぶしい子だと思う。
なにもかもが新鮮で、だからこそ引き付けられる。
キルアも、ヒソカも、ノブナガも、裏の世界で生きてきた人間には眩しくてたまらないのに憧れる。

薄っぺらい紙の上に描かれていたキルアは自分にとっていまや紙の上の薄っぺらい存在じゃない、たとえ血が繋がっていなくてもあの子は私の大切な家族だ。

だからこそ、ゴンがゴンであることに私は幸せを感じずにはいられない。
シルバやキキョウの言い分もわかるといえばわかるけれど、あの子の好きなことを好きなようにやらせてあげたいと思うのは間違ってはいないはずだ。

オーラを纏わせた左手を伸ばすイルミにゴンくんは何か嫌なものを感じ取ったのか後ろにバッと下がり距離をとる。
メンチの腕の中でハァと一つため息をこぼした私は降ろしてもらっていいかと小さくメンチに問いかける。
あんた歩けないんでしょうがと言うメンチにニッコリ笑って、かなりビキビキと痛みの走る体をなんとか動かしてメンチの腕と胸から離れる。
あぁあの胸はパクよりも大きくてパクよりも弾力性があって・・・何も言うまい。

「さて諸君、よろし」
ちょっとそこの馬鹿猫!とぷりてぃゴンくん」
「・・・おぬし、そんなにわしが憎いか、わしの言葉をとぎらせ」
「二人だけで会話するのはやめて私も参加させてくれる?どっちにも言いたい事があるのよ、私。ついでにちょっと黙っててジジイ
「・・・そうかお前もネチネチ系か・・・地味な嫌がらせでわしを苦しめ」
「えーと、お姉さん、だれ?」
「・・・・・会長、ファイト!」

ささやかな姿のマーメンのささやかな応援がささやかな声でネテロのジジイに届けられる。
なにもかもがささやかずくしだ。

「ぷりてぃゴンくん、君がこの馬鹿猫に話したいこととか怒りたいこととか多々あるのは重々承知の上でなんだけどちょっとだけこの馬鹿猫、借りてもいいかしら」
「猫?猫なんてここにはいないよ」
「いやーん!この子家に持って帰りたーいってハッ!こんなところで昔の悪い癖を出しちゃいかんいかん。とにかくね、少しだけ君の目の前に立ってる男を貸してもらえる?お姉さん、ちょっとだけ言っておきたいことだけあるのよ」
「え・・・あ、うん。少しだけなら」

そう言って階段を降りてきた私にゴンくんは素直に位置を譲ってくれ、私は猫男の目の前にジクジク傷む腹のことを頭から消し去って毅然と立つ。
心配そうに、というよりも信じられないものをみたとばかりに私を見ている最終試験の状況を知らないゴンくん以外の受験生の視線がビシビシと私に突き刺さる。
部屋の隅っこでネテロのジジイがマーメンに慰められているのをいいことに、私はとりあえずまずこのお馬鹿なお兄さんに言ってやらなきゃいけないことを言うべくビシっとイルミの鼻先に指先を突きつけた。




内心、誰も私の『お姉さん』発言に何も言わなかったことにほっとしながら。