さぁびぃしさぁにぃ まけたぁ
いぃえぇ 銀髪にまけたぁ
この樹海も追われたぁ
いっそきれいに死のうかぁ
力の限りぃ 育てたから
未練などないわぁ
花さえも咲かぬぅ あたしは枯れすすきぃ
「いかん、こんな歌しか出てこない・・・しかもしっかり替え歌になってる・・・」
がっくりとうなだれる。
一番に思い出す曲が『昭和枯れススキ』ってどうよと思う、平成ベイビーがわんさかいるのに『昭和枯れススキ』。
しかもしっかりと替え歌にして流れてくるっていうのは余裕があるのか、それともまったく余裕がなくて頭の中がヤバイことになっているのか。
お母様嫌いとキキョウが私のところから旅立って、はや数日。
ぶっちゃけこの数日をどう生きてきたのか記憶がない。
ただ、もしかしたらキキョウが帰ってくるかもと思ってキキョウが私に別れを告げた場所に5日間ほどいた記憶はある。
その後はプツリと記憶が途絶えている。
そして何故か私は秘境だか樹海だかにいた筈なのにフカフカのベッドの上で目覚めた。
真っ白なシーツ、スプリングのきいた豪勢なベッド、窓から見える景色は最高ときたもんだ。
「はう・・・あまりのショックに夢遊病にでもなったのかね・・・」
「起きたか?」
ぼーっとしながらベッドで上半身を起こしたまま窓の外に広がる景色を見ていると後ろから突然声をかけられる。
寝起きっていうのもある、勿論奴が絶状態だったこともある。
部屋に自分以外の誰かがいたことに気付かなくてビクっと体を揺らせば、クックックッと意地の悪そうな笑い声が耳に入ってくる。
「俺がお前を見つけてから丸々3日寝続けていたたぞ、さすがに今日起きてこなかったらナニをしてでも起こしてやろうと思ってはいたがな。残念だ」
「ちっとも残念でもなんでもないしね、つかナニをする予定だったのか超聞きたくないんですけど。んで、なんであたしゃこんなところにいるんでしょうかね、シルバ」
「、お前俺が見つけてなかったらあのまま衰弱死してたかもしれないんだぜ?感謝しろよ、だから嫁に」
「いかねえっつの」
ドスンと音を立ててもう一人の部屋の住人、シルバ=ゾルディックが私が横になっているベッドに腰掛ける。
はじめてこの青年に出会ったときはまだ相手は9歳で私よりも微妙に身長も低かったというのに、いまや巨漢。
元の世界に戻ったらこいつなら確実にK−1選手だなとゆらゆら目の前で揺れる銀色のポニーテールを見つめながらなんとはなしに思う。
小さい頃から態度はかなーりでかかったけれど、今もかなーりでかい。
ついでに嫁になれ攻撃も年々活発というか激しくなってきている、そういうことを考えると今のこの状況ってかなりヤバイんではないだろうか。
お前の未来の花嫁は外の世界でお前を待っているぞと声を大にして叫んでやりたい。
そうだ、そんなことしなくても私がお見合いをセッティングしてあげれば万事オッケーなんじゃないの。
キキョウは王子様に出会えて万々歳、シルバも嫁がみつかって万々歳、ついでに私も嫁になれ攻撃からさよならできて超万々歳。
一石二鳥どころか一石三鳥じゃないの。
「お前、娘に捨てられたんだってな」
「ガーン!!!」
あえて口にしなかったことをコイツは今さらりと言ってのけた。
あえて口にしたくなかったことをコイツは遠慮もせずにさら〜と言ってのけた。
「大嫌いといわれたんだって?」
「ガガガガーン!!」
くいちがう時はぁいつも 娘が先にぃおれたねぇ
ソプラノな声がぁ さおさら愛しくさせたぁ
One more chance 記憶に足をとられてぇ
One more chance あの場所から動けないぃ
もう一度うなだれた。
今度は山崎さんだ、まさよしさんだ。
本当に離れてしまえばあのソプラノ声のなんと愛しいことか!!キンキン声が愛しくてたまらない。
「うわーん!なんで私を捨てるのぉ!!ちゃんとお風呂にも毎日入ってたしスキンシップも欠かさなかったし欲しいって言ってたドレスだって嫌々だったけど買ってあげたのにぃ!」
「・・・・・」
「しまいにはお母様大嫌い、キライの上に大がつく大嫌い。私が何をしたっていうの、覚えがちっともないじゃないの!!」
「・・・よしよし」
「秘境がイヤだって言うならもっと早く言ってほしかった・・・そしたらデパートでもゴスショップでもゴスショップでもなんでも付き合ったのにぃ!うわーん」
「俺が慰めてやる、だからこのまま身も心も」
「それは遠慮する」
さりげなーく自分の体にのばされていた両腕をペチンペチンと叩き落す。
お前、そのすんごいいかつい顔でとんでもないことを口走るけどそれは素か?素なのか?
だって原作でキルアとお話していたあんたもクロロとバトっていたあんたもユーモアのかけらもない感じだったのに。
「俺の嫁になれば新しく娘ができるぞ?」
「いや、あんたの子供は全部息子にしかならない気がするから遠慮する。第一、その娘作りに協力する気はこれっぽっちもないからね」
「つまらん。もう10年だぞ、は俺がかわいそうとか思わないのか?」
「これっぽっちも思わんよ、だいたいねあんた私もう32だよ32!あんた19でしょうが、もっと若い子にしなさいよ、んでバッコンバッコン子供産んでもらえ。あたしゃ高齢出産なんかしたくないよ」
しっしっとばかりに目の前で軽く手を振ってやる。
10年間言い続けてきたことは確かに賞賛に値するけれどなんで私なのかがわからない、ゼノの野郎もなんだかんだで乗り気でそれもまたわからない。
ぶっちゃけシルバとどうこうなるくらいだったら年齢的にはゼノとのほうが普通なんだけど、それもわかってて10年間言い続けてきているこの親子にある意味脱帽といえば脱帽だ。
「つかなんで私、あんたの部屋にいるの?確か私どこぞの秘境で、キキョウが戻ってくるのを、うっうっ、待ってた・・・うわーん!」
「・・・・はぁ。ムクロのやつがお前が餓死か衰弱死しそうだといって俺のところに来たからな、本当によくできた念だな」
「よくできた念なもんか、人のいうことは聞きやしないし、我が侭だし、ノロケがたまにはいるし。それに助けを呼ぶくらいならムクロさんが助けてくれりゃあ良かったんだ」
『いいたい放題だな、オイコラ。助けてやったのに文句しか言えんのか、テメーの口は』
「あん、ムクロさん!とんでもない、感謝感謝の気持ちでいっぱいですわよ!ただ、できるならシルバじゃなくてもっと他のキキョウちゃんとかキキョウちゃんとかせめてビスケとかさ・・・」
突然ボフンと現れたムクロさんに驚くまでもなくころっととりあえず態度だけ変えて謝っておく。
でもまったく本当に何故シルバに助けを求めるのさ、一番やっかいじゃんか。
『キキョウなら嫌だといって断ってきたぞ、ビスケは面倒だと言っていたな。あとコイツにしたのは俺が遊びたいからだ』
「正直な答えをどうもありがとう、ムクロさん!!!ものっすごい嬉しいわ、アハハハハ・・・・キキョウちゃん・・・そんなに嫌だったのか・・・・」
本日三度目のがっくり。
だめだ、もうこのままいっそ誰か殺してくれ。
「死にたい・・・娘に捨てられるなんて・・・死にたい・・・」
「だから俺の嫁になって娘を作れば良いだろう、まぁその前に息子だけどな」
それはそれでキキョウにさらに嫌われるか、殺されちゃうから勘弁してくれ。