「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」
「「「わぁ・・・」」」

居間にあるテーブルとそのテーブルだけじゃ全員の皿がのらないからと昔誰かがが使っていたとかいう子供用の机を引きずり出してきて、その上に空から落ちてきた女の人ができたての料理がのっかった全員分の皿を載せていく。
湯気が立ち上っているそれは今まで誰も見たことのないそれこそ『料理』ってやつで、パンだとか果物だとかばかり口にしてきて調理されたものを食べるのは勿論、見るのもはじめてな俺たちはそれこそワクワクドキドキしながら並べられていく皿の中を見つめていた。

「ほら、ガキんちょども。どこでもいいから席につきな。あ、手を洗ってない奴は今すぐ洗っておいで。じゃなきゃ食べさせないよ」

女の人の一声にフィンクスが一番に廊下へと駆けていき、その後を俺やフェイタン達が続いていく。
ウボォーさんは料理を手伝っていたからかもう既に席についていて目をキラキラどころかギラギラさせながら皿を見つめている。
まだ食べちゃだめだよっていう女の人の声にえーと不満そうな声をあげていたものの、一番にフィンクスが戻ってくると大人しく待つことにしたようだ。
といってもそんな様子なのはウボォーさんだけじゃなくて既に席についているパクやシャルは勿論、マチなんて早くしてこいやぁとばかりに俺たちの背中を睨みつけている。
そういえば俺たち今日はまだ何も食べてないんだっけ。

「ん、よし。全員席についたね、じゃあどうぞおあがりなさい」
「「「うおぉぉぉ!!!」」」

思い思いの場所に座って(何故かシャルだけ女の人の膝の上だけど)熱々の料理に向かう、ウボォーさんやフィンクスたちはよっぽどお腹がすいていたのかガツガツと食いついていてちょっと恥ずかしい。
なんていう料理かは知らないけど、ソースとお肉の味がとっても合っていてなんだか嬉しい。
女の人に切り分けてもらいながらシャルがなんていう料理なのか尋ねると、みんな興味津々って感じで女の人のほうに顔を向ける。

「これはね、ハンバーグステーキ。今回は野菜入り、あんた達ガリガリなんだもん。もっとしっかり太らなきゃダメだよ」
「はんばーぐすてーき・・・おいしい」
「うん、すっごくおいしい」
「お、女の子達には好評みたいだね。そっちにいる坊主達もおいしいかい?」
「「「うめぇ!!」」」

口に大量に含みながら大きな声をだしたものだから肉のかけらが飛び出してフィンクスたちの目の前に座っていたフランクリンやフェイタン、俺たちのほうに飛んでくる。
それに腹を立てたフェイタンがノブナガとフィンクスの皿から大きな肉の塊を素早くフォークで突き刺して自分の口に放り込み、とられた二人はギャーとあられもない声をあげている。
こんな楽しい食事って久しぶりだなと思う。
いつも食べるものを探すのだけで一日が終わったりする日もあって、食べるっていうことに無頓着になりそうな時期もあった。
ウボォーさんはシャルがいたからいつも必死になって探していたけれど、別の家に住んでいたパクやマチ、フェイタンなんかはそれこそ2,3日ご飯を食べない日もあったという。
女の子二人にしてみればこうやってご飯を食べられるだけでも幸せなんじゃないかとさえ思う。

「あの・・・」
「ん?どうしたパク?おかわり?」
「そうじゃなくて、お姉さんのお名前聞いてないと思って。あたし達の名前はシャルから聞いたみたいだけど・・・」

パクが頬をそめて恥ずかしそうに名前を尋ねるとまたまたみんなが興味津々とばかりに女の人のほうに顔を向ける。
そう、女の人たちは俺達の名前を間違えることなく一発で覚えたみたいで、普段いつものメンバーにしか名前なんて呼ばれないのに女の人はにっこり笑って俺達の名前を呼んでくれる。
たまに「ライオン坊主」とか「でっかいの」とか名前云々どころじゃないので呼ぶけれどでもそれも新鮮で、いつもお兄さんなフランクリンが名前を呼ばれて照れてる姿なんてはじめて見たのだ。

「ブッ!!」
「うわっ!!きたねぇな、ミツヒデ!なんで俺の方に向かってお茶ふくんだよ!!」
「わりぃな、ノブナガ。しかしお嬢ちゃん、あんた本当にこいつのことお姉さんだなんて思ってんのか?」
「「だってお姉さんでしょ?」」

マチとパクの疑問の声が重なるも、その答えを聞いて再びミツヒデがブッとお茶をこれまたノブナガにむかって噴出した。
ノブナガもギャーと叫び声をあげてボタボタと顔にかかったお茶を自分の服でゴシゴシと拭き取っている、悲惨だ。

「あのなぁ、お前らみんなコイツのことお姉さんだなんて思ってんのか?いやぁ・・・
「なによ、ミッチー。どこからどう見てもお姉さんでしょうが!」
「コイツ、これでももう40だぜ?オバサンもいいとこ、ガキもいれば孫もいる、お姉さんなんてキャラじゃねえんだぞ?」

そういってミツヒデがハァとため息をつく。

「「「「「「・・・・・40?え?」」」」」」
「ちょっと!まだ40じゃないわよ失礼な!まだギリギリ30代ですぅ」
「たいしてかわらねえよ。ほれみろ、純粋なガキどもが放心しちまってるじゃねぇか!!かわいそうになぁ、ノブナガ、生きてるか?おい、ノブ?」
「・・・・ハッ!つかさっきガキもいるって言ったよな!?やっぱりお前のおくさんなんじゃ」
「「気持ち悪いこと言うな!!」」

ノブナガの声にミツヒデと女の人の声が重なる、それはもうキレイに。
ついでに二人してむき出しの両腕を何かをこらえるかのように摩っていて、そんなに嫌なことなんだろうか。

「つか別にお姉さんでもいいじゃん、老けてないんだし。あぁ、パク、私はねっていうのよ。、別に隠す事でもないから言うけど年齢は確かに39歳、12年ほど前まではこの家で自分の子供と一緒に暮らしてたよ。その子はもう大きくなってよそに嫁いでいいったけどね。まぁ今回はどうしてもって五月蝿いジジイがいたから半分仕方なくとどこぞのバカジジイに飛行船から突き落とされてこれまた仕方なくこの流星街に戻ってきたってわけ。そこのミツヒデさんとはフーフとかじゃなくて寧ろ私の親父みたいな感じ、実際うちの娘は爺さん呼ばわりしてるくらい」

ペラペラと口を動かすかたわらで器用にシャルの口の周りと手についたソースを布巾で綺麗にしていく。
まぁ子守になれてるといえばなれてるように見える、けど。
本当に40手前のオバサンには見えない、流星街にもオバサンなんてゴロゴロいるけどみんなしわくちゃだったりシミだらけだったりでこんなに綺麗じゃない。

「さて、私のことは追々話すとして。先にあんた達のこと考えなきゃねぇ、議会のジジイどもが五月蝿いんだわ」
「おーおーそうしてくれ。じゃなきゃまた議会のヤロウが俺に文句言ってくるだろうが」
「ミッチーは黙ってて、いっつもいつも人に仕事押し付けるばっかりなんだから!」

ガチャガチャとテーブルに乗っているみんなの食べ終わったお皿を重ねていくって人はそう言うと別テーブルに座っていた俺たちのほうを見てニッコリと笑う。
そうだ、この人は議会に言われて俺たちを捕まえに来た人だったんだ。
思わずあったかい食事とで忘れてしまっていた事に気付いて舌打ちしそうになる。

「いやいや、そんなに警戒しないでくれる?ただ、話は聞いてほしいのよね」
「話?」
「そう、どうやら登録していないのはそっちにいる4人とシャルだけみたいなんだけど。君ら、登録のこと誤解してない?」
「誤解?だってそれに登録したりしたらどこかに売られたりとかしちゃうんだろ?」
「売られる?それだけはありえない、そんなの流星街中の人間が許さないさね。登録ってのはただの『流星街専用住所録』みたいなもんよ、それがなくちゃここの住人としては認められない。他の子達は既に登録を済ましているみたいだから『流星街出身』にはなるけれどまだ登録を済ましていないあんた達は流星街の人間ですらない、下手したらそこらへんのゴミと一緒さね」

ミツヒデが積み重ねられた皿とコップを慎重に台所へと運んでいく。
って人はシャルを連れて俺たちのいるローテーブルへとやってくるとドッカリと床に腰をおろし俺たちと視線を合わせる。

「どうやらあんた達の周りにゃ大人がいなかったみたいだね、登録のことも議会のこともあまり知らないみたいだし登録には証明してくれる流星街の人間が必要だから」
「フェイタンは同じ民族のやつらと一緒に別のところで暮らしてる、パクとマチも気のいいばあさんが二人の面倒を見てくれてる。けど俺達はガキだけで今までずっと生きてきた、これからもそうだと思ってた。大人なんて今まで近づいた事もないし、寧ろ怖くて逃げ回ってきた」
「フランクリン、正直に話してくれてありがとね。まぁこういうゴミ捨て場な世界ですから、大人とか自分が知らない人間っていうのは確かに恐怖の対象だわね。君達まだまだ子供だし」
「俺はもう10だぞ!」
「充分ガキんちょです。うちの娘だって私から離れたのは15の時よ、それまではずっと一緒にいたもの。お前達には何かを教えてくれる大人が必要だよ、ルールやマナーとかそういうのもそうだけどもっと根本的なもの」

胸をはって自分の歳を告げたウボォーさんの額にコツンと拳が当てられる。
そのままぐしゃりとボサボサの髪の毛に手を這わすとさらにぐしゃぐしゃと撫でじゃくり、今度は真剣な顔をして俺達のほうを見つめてくる。

「よし、じゃあこうしよう!お前たち、私の子供になればいい」
「「「「・・・は?」」」」
「登録には私が立ち会ってあげるよ。私がいたら面倒なことは全部省けるし、お前達に色々と教えてやることもできる。どうだい?」
「どうだいって・・・」

考える事が大嫌いなウボォーさんとフィンクスは困ったように俺とフランクリンのほうに顔を向けてきて、俺とフランクリンもどうするべきかと二人で顔を見合わせる。
なにもかもが突拍子もなくて、頭の中がグルグルしている。
だってって人に出会ったのはほんの3、4時間ほど前のことで、なのに俺達に『私の子供になればいい』と言ってくる。
流星街は基本的に治安が悪い、殺しも気付かないところでひっそりと行われるし(一応あまり表では行われない)盗みなんてのは日常茶飯だ。
騙しあいなんてそれこそしょっちゅうで、俺達みたいなガキはとくに狙われやすい。
だからこそ今まで子供達だけで色んなものから逃げたりしながら生きてきた、マチやパク、フェイタン、ノブナガと出会ってからも住む場所は時々変えて暮らしてきた。
騙されるのは嫌だ、ゴメンだ。

「あなたの『子供』になることで俺達にはなんのメリットがあるんですか?」
「うわお、メリットなんて言葉知ってるの?ちょいと聞いた、ミッチー!キキョウでもこの頃そんな難しい言葉使えなかったよね?」
「ガキだけで暮らして今まで生きてたんだ、普通のガキと比べるなよ。それからお前ら、のガキになったらメリットなんてわんさかあるぞ」

居間から片付け終わったらしいミツヒデが他の子供達を伴ってやってくる。
パクとマチは俺達が食べ終わった食器を片付けてくれて、ノブナガはソファに座ったミツヒデの隣のスペースに腰掛ける。

「わんさか?」
の存在は流星街でも特別だからな、議会の連中もこいつにだけは頭があがらねぇ。勿論、昔からの住人もな」
「だからさっき広場で色んな人が頭さげてたの?」

膝の上に座っていたシャルが首をあげてって人に尋ねると、まぁそうかもしれないね、と微妙な回答を返してくる。

「本人はそんなつもりはねぇけどな、ここの治安は基本的にこいつがいたからまだマトモでいられるんだ。まあお前らがコイツのガキになったら騙される事もなくなるだろうし、本人がやる気になってるから食事にも困らなくなるだろうよ。それになにより」
「あんた達を強くしてあげることができる」

強さがほしいんだろう?
の視線が俺を射抜く、なんでわかったのかはわからないけれど。

「流星街だけじゃない、外の世界に出て行っても生きていける力と賢さをあんた達に教えてやることができるよ。ここで生まれて育ったガキは大概外の世界に憧れる、お前達も外の世界に憧れてるクチでしょ?」
「外に俺も行ってみたい!お姉さんの子供になれば外に行けるの?」
「別に私の子供にならなくても外には行けるよ。でも私が言ってるのは外に行って生きることさね、外はそんな生易しいモノじゃない」

さぁどうする?
まるでそう言ってるかのような目で俺達四人を見つめてくる彼女に、俺は一番に首を縦に振った。
そんな俺を見てフランクリンが息をのんだのがわかる。

流星街で生きていく、そんな力も欲しい。
外の世界で生きていく、そのための力と知識も欲しい。

って人の傍にいれば全てが手に入る予感がした。
この人の傍にいればあのどんよりとした曇り空から飛び出せるかもしれないと。

「なら俺はあなたの子供になる、あなたの傍にいればきっと欲しいものが手に入るような気がする。あなたを母と呼ぶだけで欲しいものが手に入るのなら俺はあなたの子供になる」
「俺もお姉さんがおかーさんってやつになってくれるんならいいよ?ギカイとかよくわかんないし」

クロロォ!?シャルゥ!?
フィンクスとウボォーさんの驚愕に満ちた声が耳に入ってくるけれど、もう決めた。

「ならそれで登録しちゃうよ?」
「それでいいよ、お母さん。あ、お母さんって呼んでいいの?」
「・・・・できればママがいいかなぁなんて」
お母さんって呼ぶ、絶対にお母さん以外呼ばない
「俺が呼んであげるよーママーって」
「はうーん!シャルナーク、超カワイイ!なにこの子なにこの子!!もっと呼んでー!!」






それとあなたの傍はとてもあたたかくて、曇り空しか知らないけどきっと太陽のようなポカポカしたぬくもりに近いんだと思うから。
だから、俺はあなたの子供になる。