「どれがいい?決めた?」
「ん、あれがいいわさ」
「私も決めた。じゃあ一緒に言ってみる?・・・せーの、」
「「156番!!」」

ビスケと私の声がキレイにはもる。
これで3回目だ、3度目の正直とかそんな格言、まったくもって関係ない。
こればっかりはビスケと同じ答えしかでてこないのだ。

「あの足の筋肉のつきかた、なかなか理想にかなってるわぁ」
「それを言うなら腕もだわさ」
「「なにより顔がいい(わさ)!!」」

私とビスケの目の前に1キロ単位で壁によって区切られている島がある。
といっても私とビスケが歩いているのはその区切りである壁の上なのだが、その壁の下では野生の超危険指定のどでかい猛獣やらがゴロゴロといて更に番号札をつけた人間もいる。

「お!、ちょっとあの387番見るわさ!顔もいいし動きもいい」
「どれどれ・・・おお!確かに!でも個人的にはもう少しがっちり筋肉のほうが」
「あれくらいがちょうどいいに決まってるでしょうが、ムキムキは嫌だっつの」
「いやぁ、私も流石にムキムキは嫌だよ」

時々色んな区画から「ギャー!」だの「食われるぅ!」だの「殺されるー!!」だの悲鳴が聞こえてくるけれど無視。
下々にいる諸君、頑張りたまえ。そして自分の運の悪さを呪いたまえ。
なんせ今年はクイーンオブ悪女のビスケがハンター試験の試験官なんだから。

「ちょっと!悪女ってどういうことだわさ!あんたに言われたらおしまいだわよ、!」
「ちょっと聞き捨てならないわね、私のどこがどう悪女だっつのよ。どこからどう見ても優しい天女様みたいな女でしょうが、私は!」
「ハッ!ぬわぁにが天女様よ、自分で言ってりゃ世話ないわさ!」
「なによ!文句でもあるわけ!?!?」

バチバチと私とビスケの睨みあってる視線の間に火花が散る。
私達が立っている壁に私達を中心にしてビキビキとヒビがはいりはじめ、慌ててその真下の区画を担当していた予備試験官がビスケの名前を大声で叫ぶ。

ビスケット=クルーガー試験官!あなたが壁を壊してどうするんですか!!試験にならなくなるじゃないですか!!!勘弁してくださいよッ!!
「・・・仕方ないわね、この件はあとでじっくりと話し合うわよ!」
「のぞむところだね!ビスケ!」











一人ブラリ旅(別称:銀髪から逃げる旅)をはじめてからもう一年になる。
この一年、そう約365日、ほとんど秘境で時を過ごしたように思う。
秘境に閉じこもっていればあの銀髪筋肉はやってこない、時々近くまできてる時があるみたいだけれど探し当てるまではいかないようだ。
おかげさまでこの二年、モンスターハンターでもないしUMAハンターでもないし幻獣ハンターでもないのに知らない動物(動物もどきも含む)はいないまでになってしまった。
まあこいつらも懐けば可愛いのよ、順番にお手からお座り、チンチン、グルグルとか教えていってそれをさせていくのがこれまた楽しいのよ。
まぁ少し前にあまりに図体がでかいヤツにゴロゴロ転がる芸をやらせたところ森が半分ほど消えてしまったことがあってそれ以来ゴロゴロ芸だけは一応封印しているけれど。
次の日、調査団が森にはいってきたときにゃあ焦ったね。
私ってもしかして自然破壊者としてお尋ねモノになったりするわけ!?とか。
そんな私の元にビスケから電話がかかってきたのは、ちょうど3週間ほど前。
ハンター試験の試験官を無理矢理押し付けられたらしいのだがむしゃくしゃするから徹底的に受験生を痛めつけてやる、その手伝いをしろってな話だ。
まあ調査団の中に腕利きのハンターがいたみたいでちょうど逃亡中の私としては願ったりかなったりで痛めつける方法もろくに聞かずにOKをだしたわけだけど、その手伝う内容にプチンときたのは公然の秘密ってやつだ。

「ぬわぁにぃ!?危険ランクの猛獣やら魔獣やら幻獣を20匹連れて来いだとぉ!?」
『そうだわさ、こんなのあんたにしか頼めないからさー。んでその中に受験生放り込んでやるのさ、一体何人残るかねぇ。ウケケケケ』
「・・・・つかぬことを聞くけど、あんた担当してるのは最終試験とか4次試験とかなんでしょうね?」
『ハァ!?1次試験の試験官もぎ取ってやったに決まってるわさ!思いっきり篩いにかけてやるわよ、にょほほほほ!!!』

しょっぱなから全員落とす気なのだ、この女は。
今年のハンター試験、合格者を0人にする気満々なのだ。












「本当あんたって女は性悪だねぇ、今年の受験生がかわいそうだわ」

壁に腰をおろして下を覗き込むとちょうどシブサワ君(南アイジエン大陸超危険指定猛獣)に3人ほど受験生が押しつぶされたのが目に入る。
「ぎゃー・・ぷち」ってのの「ぷち」って部分がこれまた哀愁漂うというかなんというか。
その隣の区画ではベジータ君(ネバスカ名物黒いたてがみが全部逆立っている危険指定魔獣)の吐いた炎に受験生が2人ほど巻き込まれている。
あの技に個人的に『ギャリック砲』と名づけてみたのだけれど、ちょっとギャリック砲には程遠いかもしれない。

「そういう割りにあんたもよくこんだけ危険指定動物集めてきたわね。しかも全部変な名前ついてるあたり、あんたの趣味の悪さがよぉくわかるわ」
「変な名前とは失礼な!ちなみにあっちの全身白い毛で覆われてる象みたいなヤツ、あれ銀さんっていうの。一見ラブリィなんだけど見境なく吸いこんじゃう癖があってさ、銀さんの尻尾を思い切り引っ張らないと止まらないんだよね」
「・・・・吸い込まれたあと、どうなるか気になるわね。あ、5人ほど吸い込まれた」
「で、後ろの区画にいるのがキッドくん。ころころ姿変えて隠れちゃうんだよね、動体視力に優れてないと見つからない」
「あ、石ころに姿が変わった・・・ってなんであれが危険指定猛獣になるわけ?」
「キッドくんは幻獣だわよ。ちなみに尻尾の部分に針があるんだけどあれに指されたら鯨でも1秒もしないうちにコロリよ」
「・・・・・・あんた、そんなのばかり集めてきて・・・あたしよりえげつないわさ・・・」

ビスケが集めて来いって言ったんじゃないの。
だいたいいい男ウォッチングもできるわよって言われたからわざわざ銀髪筋肉に見つかるのを覚悟して手伝いにきてやってるっていうのに。

「あ、あそこにいるのがヴォルデモード卿。全身毛がなくてつるつる、目つき最悪、性格も最悪。気に入らないものはたとえ同じ種族だろうが違う種族だろうが徹底的に排除していくとんでも魔獣。ちなみにこんなとこに連れてこられたせいか只今最高に不機嫌だったり」
「・・・あ、受験生が・・・」
「んで、あれがサウロン。あの大きな目には不思議な力があってあれをつい見ちゃうと変な電気が脳を支配して向かう先は廃人ってか」
「・・・あ・・・・」
「それからあっちが」
もういいわさ

折角だから全員紹介してやろうと7匹目を紹介しようと指差したところでビスケがげっそりした表情でつぶやいた。
つまらないわね、私の可愛いペットちゃんたちをたっぷり自慢しようと思ったのに。

「これじゃあ本当に合格者が0になりそうだわさ、いや生きてる人間か・・・」
「なによー、それが目的だったんでしょうが。あ、ビスケビスケ!あの39番もなかなかいいわよ」
「え?どれどれ・・・あら本当!なかなか目もいいわさ〜」
「でしょでしょ?」
「あ、ちょいとあれはどう?187番、あの体つきは好みじゃないの?」
「おお!!ありゃあ確かに。うーん、今回はなかなか好みのタイプが多いわねぇ。これならもう一回くらいはハンター試験手伝ってあげてもいいよ」

―――オホホホホ。
―――にょほほほ。

私とビスケの笑い声が響き渡る高い高い壁の下、試験官補佐が「早く止めてくれなきゃ俺達も死んでしまうー!!」と泣き叫んでいたなんて誰が知ってようか。










1973年度ハンター試験受験者数:428名
一次試験通過者:2名(他死亡もしくはリタイアもしくは行方不明)
二次試験通過者:0名(全員衰弱死)

1974年度ハンター試験受験者数:104名

ハンター試験ガイドブックによると『1973年は史上最悪、地獄を見ることのできる試験だった』と記されている。
その歴史にまさかまさかのあの性悪女二人が絡んでるとはハンター協会も公にできなかったようだ。