そのメールが私の携帯にはいってきたのは、ヨークシンの五つ星ホテルのレストランで昼下がりのランチをいただいているときでした。
「ブホォッ!!」
「お、お客様!?いかがなさいましたっ!?し、支配人!お客様がッ!お客様がぁ!!」
一瞬にして私の意識は途切れました、それほど強烈なメールだったのです。
「ど、どうした!?」
「お客様が突然咳き込んだと思ったら胃の中のものを吐き出してっ!」
「な、なに!?しかもこの方は最上階のスイートルームのお客様・・・もしや毒なんてことは・・・」
「ヒィ!!どうしますか、支配人!!い、今なら他にお客さんも見当たりませんし、いっそのこと隠蔽してしまえば」
「よ、よし!知り合いにマフィアのやつがいる。そいつに頼もう!」
傍で好き勝手に言われてるとは露とも思わずに。
そして、目が覚めればまたまた流星街の端っこのゴミ捨て場でした。
私は何度ここに捨てられればいいのでしょう、蝿がブンブンと私の周りで飛び回っています、呼吸をしようと下手に口をあければ自然と口の中に入ってくるので要注意です。
どうやら一緒に捨てられたのは私の携帯だけのようです、他の荷物やお財布やらはどうやら勝手に処分しくさったか使いやがったかのどっちかなのでしょう。
そのへんは後で取り返して尚且つこんなところに捨てくさりやがったレストラン連中への報復も後回しにして、私は一緒に捨てられた携帯をゆっくりと持ち上げました。
まだ電池は残っていて電源もしっかりはいったままです、電波もばっちりオッケーです。
メールボックスを「さっきのメールはどうか夢でありますように」と願いながら開くものの、受信箱の一番上にあるメールの送信者はしっかりと『キキョウ』になっておりました。
「ギャビーン!!」
一人で叫び声をあげたところ周りにいたらしいフルフェイスマスクな住人達がビクっとしながらこちらに視線をむけてきます。
それも叫び声をあげたのが私だとわかった途端、ここには何もいなかったとばかりに視線をそらしていくのです。
「さっきのメールは夢じゃなかったのか!?こんなのって・・・こんなのって・・・」
メキっと手の中の携帯が音を立てました、ついでにその直後バキッバラバラ・・・と何かが砕け散る音も。
―お母様、近々会っていただきたい方がいるのです―
「いかん!そんなのお母さんは許しません!あの銀髪ストーカーがいなくなるのは心嬉しいけどキキョウちゃんを嫁に出すのは絶対にッ!!許しまへんでぇ・・・!!!」
思わず食堂のおばちゃんのようになってしまいましたが、どうせ誰も見てないフリをしているのです。
構いません。
こうなったらまずは銀髪野郎よりもなによりもキキョウちゃんから逃げなければいけません。
あの子は義理堅い子、きっと私の承認なしでは結婚なんてしないでしょう。
な の に !!
「あら、お母様。お爺様に会いにいらっしゃったの?」
ミツヒデさんの家にとりあえず帰ってお金をいくらか調達しようと玄関をくぐろうとしたその時、家の中からなんだか見覚えのあるふんわりドレスをきたお姫様がススススっと瞬間移動かってな感じで居間の方からやってきたのです。
「まぁお母様、なんてお顔をしていらっしゃるの!どこかで絶望でも見てきたような」
(今見てる最中だよ、ベイベー)
「まるでもう生きる望みがないような」
(まったくもってその通りだよ、ベイベー)
「それよりも早くあがってらして!お爺様にもちょうど報告しようと思っていたところですの!」
ぐいぐいとお姫様に腕をひっぱられて居間の方へと引きずられていく私。
なんとか理由をつけてこの場を離れなくては、ああ腕がもげちゃうとかはどうだろう、もしくは(銀髪野郎を殺すっていう)仕事がはいってるから急いでるのとか。
まあどうせ聞きやしないでしょうけども、このお姫様は。
そして引きずられていった居間にはどことなく見覚えのある背中をもった男・・・しかもどことなく哀愁が漂っていたり・・・がいたりして。
「なんであんたがここにいるわけ、シルバ・・・」
「、お前こそなんで・・・というか来たくて来てるわけじゃねぇ・・・」
「あら!パパとお母様、お知り合いなの?それは良かった、じゃあお爺様にだけお話すればいいのね」
ちょっと待った、と声をあげたのは私だけじゃありません。ミツヒデさんもです。
たった今のキキョウの言葉の中に聞き捨てならない言葉がありました。
「「パパってなんだパパって!?」」
「オホホホホ、お母様!来年にはおばあちゃまになるんですのよ!お爺様はひいおじいちゃまに!オホホホホ」
ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
流星街中に私の叫び声が響き渡ったそうです、1974年のことです。
私はというと叫び声をあげたまま気絶してしまい、目覚めたときには既にキキョウとシルバの姿はありませんでした。
携帯電話を探そうにも私が今まで持っていた携帯電話はゴミ捨て場で屑どころか塵になってしまい、使い物になぞなりません。
ミツヒデさんの携帯をかっぱらうとあまりにもしつこくかけてきた為覚えてしまったシルバの携帯の番号を早打ちもかくやというスピードで押していきます。
『・・・誰だ?』
「誰だじゃぬぇよこのウェービー野郎が!!なに人の娘に手ぇ出しくさってんねんゴラァア!しかも妊娠中だとぉお前まじで今すぐその首かっきりにいってやろうか、あぁ!?」
『か・・・あれは、不可抗力だ』
「んなもん聞こえてこねぇえよゴラァ!つかてめぇ人のケツ追い掛け回しておきながら駄目だとわかったらその娘なんかい、えぇゴラァ!!」
『お前の娘だとは知らなかったぞ!だいたい寝たのは一回だけなんだぜ?しかもアイツがしつこいから仕方なく』
「聞く耳もたぁぁぁん!!お前の写真をハンターサイトにばらまいてやる!そのお金で遊び歩いてやる!つかキキョウを泣かしたらまじでククルーマウンテンごと爆破してやる!!」
『ちょっと待て!泣きたいのは俺のほうだ!俺はお前がいいって昔から』
「しらーーーーん!!てめぇ、覚えてろぉ!こんの浮気もんがぁ!」
『ちょっと待て!どういう意味だそりゃあ・・・ブチッツーツーツー・・・』
私とシルバの頭の中にキキョウの『計画妊娠』なんてものは思いつきもしなかったのです。
愛と自分の王子様の為にならなんでもする娘、キキョウ。
計画妊娠の話を初孫イルミが生まれてから聞かされ、顔面蒼白になったのは私は勿論、一番はシルバだったような気がします。