「個人的に迷子だと思っていたのですが」
「迷子でここまで来たつもりか、お前は」
「いや、なんていうか途中から見たこともない植物がいっぱいだなぁとは思ったんだけど」
「ここに植物なんて見当たらないだろうが」
「人がたくさんいるっぽいから迷子センターあるかなと思って。でも、こりゃダメだね」
だって人なんて見当たらないんだもの・・・・・
『ただいまよりCブロックにて三回戦がはじまります!Aブロック、Bブロックはいまだ二回戦の試合が終了しておりませんッ!!』
「えーと、なにが起こってるんでしょうか。さん、さすがになんか場違いもいいとこ・・・」
「見てわからんか、魔界統一トーナメントだ。キサマ、本気でどうやって迷子になってここへ来たんだ?」
ヒエイさんの冷たい視線がビシバシと下から突き刺さってくる、そんなのこっちが聞きたいよ。
あたしゃ普通にちょっと樹海探検してただけだっつの、段々変な植物が増えてきたからちょっとドキドキしちゃって更に奥へ奥へ進んじゃったなんてのはナイショだけど何も変なものは拾ってないし触ってもないっつの。
だいたいね、喋って動く植物なんてのが目の前にいたらつい追いかけたくなるのが人間の本性ってもんでしょ?
「んなもん追いかけるな!それよりもどうするつもりだ、人間界に行ってもお前の場所なぞないぞ」
「だよねぇ・・・ていうかどこに行っても私の帰る場所はないような気がするよ・・・」
「フン、お前一人なら躯のやつが」
「なんだぁ!?飛影、お前彼女いたのかよ!!」
バシンと誰かの手がヒエイさんの背中に振り下ろされ、ガクンとヒエイさんの姿がつんのめる。
おお!と思わず声をあげそうになったのは仕方ない事だ、だって目の前にいるのは私が小さい時からのヒーロー、浦飯幽助だ。
れいがーんとか叫びながら指先からドカーンと霊力とやらを飛ばすヒーローだ。
さらに、その隣には赤い髪のこれまた有名な蔵馬の姿、やっぱり美しい。
「サ、サイン・・・・」
「やるなよ?言うなよ?言ったらぶっ飛ばすぞ!!」
「オイオイ、飛影!水臭ぇなぁ、カノジョいたんなら俺らにも紹介しろよーコノコノ!!」
「幽助、あまりそういう風に言っては飛影がかわいそうですよ。それに飛影の彼女はあの躯ですよ。ね?」
「違う!!・・・・チッ!!」
あー生身の憧れのヒーローたちが目の前に三人も!!もう一人いたら完璧なのに!!
やっぱりサインをもらうしかないとばかりにゴソゴソポケットをあさりだせば、ギロっとヒエイさんが睨んでくる。
ああ、ここではヒエイさんじゃなくて飛影さん、だ。
なんせ、どうやら私が今いるのは『幽☆遊☆白書』の世界のようだから。
「ネーチャン、こいつのカノジョじゃねえの?」
「ネーチャン・・・・久しぶりに聞いたその言葉・・・いやぁやっぱり私ってどこいっても可愛くてプリティでキュートなのよねえ、ケケケケ!」
「コイツはキサマよりババアだぞ、幽助。お前もいつまでケラケラ腹の立つ笑い方してやがる!」
ガツンと思い切り脛を蹴り上げられる、なんてことをするんだコイツは。
骨が砕けちゃうでしょうが、普通だったら。
「お行儀が相変わらず悪いですこと、フェイでもいきなり蹴り上げてくることはないのに!」
「いちいち腹の立つ女だ!」
「へへーんだ、それよりも浦飯さんと蔵馬さんですよね。はじめまして、飛影さんがいつもお世話になってます」
「へ?」
「ワタクシ、と言いましてこの飛影さんの飼い主とでも申しま「死ね!貴様今すぐ死ね!!!」ギャボーン!!」
人が喋ってる最中に切りつけてきやがったよこのフェイタン並にちっこいヒト!
改めて、みなさま、こんにちは。スーパーばあちゃんことでございます。
話をさかのぼりますとおよそ5時間ほど前、とある国にある国立公園に指定されている樹海で一年に一度だけ採取できるとある石をゲットするべくフラフラとさ迷っていたわけですがちっとも見つからないわでイライラしておりましたところ、ふい〜っと目の前を根っこの部分を器用に動かしながら「えっさほいさ」と声をだしながら動く植物が横切ったのです。
思わず不思議の国のアリスのごとくその後を追いかけてしまったのですが、アリスと違ってどこぞの穴に落ちる事もなくひたすら歩き続けてふと気付けば熱帯雨林も真っ青な奇妙な植物ばかり生えた場所に突っ立っていたのです。
もしやこれが噂の迷子とやらではとちょっとドキドキしながら、とりあえず誰かいそうなところまでいけばいいかと円の範囲を広げてみたところ今私が立っているこの場所に異常なほど生きものの反応があったので迷わずここへとやってきて。
「そして飛影さんと感動の再会!!ん?運命の方がいいかなぁ」
「飛影、あなたもう少し友達は選んだほうがいいですよ?」
「いやん、蔵馬さんなかなか辛辣!うちの爽やか王子を思い出すわ!ところで、ムクロさん知りませんか?魔界トーナメントやってるんならムクロさんもいるよね?」
「なんだぁ?、お前躯のやつとも知り合いなのか?」
あぐらをかいたまま興味深々とばかりに体を乗り出して尋ねてきた幽助にチチチと目の先で指を振ってやる。
「ムクロさんは私のボディガー「なんでここにいる、!!」ギャボーン!!」
後ろの頭にムクロさんのローキックが見事に決まった、思わずヒーロー幽助のほうにもたれかかりそうになっちゃったじゃないの。
あ、いや、それはそれでおいしいかもしれないけど。
ていうかなんだろう、私の体ってのは妖怪にしてみれば蹴りやすいというか蹴りたくなるような体型でもしてるんですか。
「ムクロさん、1週間ぶり!早速なんですが迷子になったらしいのでしばらく養ってあげてください」
「・・・・誰をだ?」
「勿論、あ・た・し!もうねー捨てられるのには慣れたんだけど、実は迷子になるのってはじめてだったりするんですよね!もしくは鍵付のドア、ください。自力で帰ります、帰れそうだったらの話だけど・・・」
「迷子でどうやってあそこから魔界に来るんだ、お前は!ガキどもは?孫は?」
「・・・・・・・・最近ねぇ、みんな冷たいんだよねぇ・・・キルはキメラアントとかいう蟻退治に行っちゃうしぃ爽やか王子達もゲームに忙しいらしいしぃキキョウちゃんはシルバをこの間ぼこったことを根に持ってるらしくて口もきいてくれないしぃ・・・家族揃って私に孤独死しろっていうんだよ!きっとそうだ!ムクロさん、どう思う!?あの子達私が死んだ後ちゃんと泣いてくれるかしら!?泣いてくれそうなのが一人も思いつかない私は一体どうしたらいいんだと思う!?ねえ聞いてるムクロさん!!ねえ「うるさい!」ギャボーーーーン!!!」
ムクロさんの踵落としが私の頭にきれいに決まったらしい、らしいってのはそこで私の記憶がプツリと途切れてるからなのだけれど。
ハンターの世界に投げ捨てられて40年、今度はそっちにも投げ出されて幽白の世界です。
躯に踵落としをキレイに決められて床に沈みこんだって飛影と躯の知り合いらしい女は、俺がつんとつついてもピクリとも動かない。
むしろあの躯にここまでされておいて生きてるだけならまだしも、血すら流れてないのはすげえと思うんだけどよ。
「飛影、このアホ人間をオレのベッドにでも放り捨てておいてくれ」
「・・・・フン」
俺がんなこと言うもんなら嫌味つきの返事を返してくるに違いない飛影のやつはあっさりとってのを肩にかつぐときびすをかえして俺達の前からいなくなる。
そんな飛影の姿に俺は勿論、蔵馬も珍しいものを見たとばかりにホゲーとアイツの後姿を見送っている。
「邪魔をしたな」
「あ、躯!さっきのってやつ、人間なのか?お前さっきアホ人間って言ったよな?こんなとこにいて大丈夫なのかよ?」
「・・・・一応アレでもは人間だ。だが心配するな、アイツはオレと遊んでも死なないタフなヤロウだ。そのぶん頭がスッカラカンだがな」
それだけ言うとさっさと躯のやつも消えちまう、飛影が向かった先と同じ方へ歩いて行っているから恐らく後を追ったんだろ。
「頭がスッカラカンでタフっていうのはまるで君みたいですね、幽助」
「喧嘩売ってますか、蔵馬サン」
「まさか!」
次の日、カノジョの姿はどこにも見当たらなくて俺と蔵馬は恐らく『帰った』んだろうと勝手に思うことにした。
たとえ、その日一日躯と飛影のやつの姿が見えなくても。
―――ちなみに二人は言うまでもなく再び魔界統一トーナメントの優勝を逃した