最近どうも癒しと潤いとドキドキとムネムネとハラハラとあとムフフが足りない。
パドキアのキキョウのところに久しぶりに顔をだしてみればあろうことかシルバしかいなかった(ミルキは部屋に閉じこもっていて出てくることはない)
キキョウも含め他の家族はみんな仕事で出払ってしまっていたらしい、といっても最近カルトは出奔してしまったらしく家にいない。
カルトさえも家から出て行ってしまってキキョウはそれはもう・・・・・・あれが「落ち込んでいる」という言葉で表現するのは無理だろというくらいとにかく叫んで叫んで叫んでシルバの鼓膜がとうとう破れたらしい。
さらにいうとゼノとイルミの鼓膜もビリといってしまったらしい、恐るべしキキョウの叫び声。
まあとにかくだ、癒しと潤いとドキドキと
『いつまでもうるせぇぞ』
「ギャン!」
頭を殴られた。
「なにするのさ、ムクロさん!だからボコボコ人の頭を殴るのはやめてっていつも」
『だったらそのこうるさい口を閉じろ、お前がそんなだからオレは殴りたくなるんだ。それよりもなにかないのか、最近暇だ』
「うっうっうっ、暇なのはこっちだよ・・・ていうか暇なら魔界に帰れ、呼び出してないぞあたしゃあ」
痛む頭を両手でさすさすしながら涙目になりながらムクロさんを睨みつけてみた、けれどあっさり睨み返されエヘと笑ってみる。
それがナニかに触れたらしい、今度は思い切り蹴られる。
なんだろ、私って多分ムクロさんの主人にあたると思うんですけどいつのまにか主従逆転してますか?
『暇だな、どこかへ行くか・・・』
「なら癒しと潤いとドキドキとムネムネと」
『うぜえ。そういえば最近お前のお気に入りの孫にあってねえな・・・』
「猫坊主?銀髪坊主?貞子ちゃん?」
『銀髪だ、カルトのやつはクロロたちのところにいるんだろう?フェイタンから新入りがはいったってメールがきたぞ』
え、ごめん。ムクロさん、携帯持ってたの?ていうかなにフェイタンとメル友ですか?
私フェイタンからメールなんてきたことないよ?電話もかかってきたことないよ?
なんか例えフェイのアドレス帳に私の連絡先が登録されていても名前が「実験体」とかになってそうなんですけど。
『フェイタンが母の日に買ってくれたぞ』
「フェーーイ!!お前の母親はムクロさんじゃなくてこのさんじゃボケェ!!」
『誰がボケだ誰が』
「ごめんなさい、ボケなのは私です。お許し下さい」
とにかくだ。
「そんなに暇暇言うなら旅に出ましょう!!」
『あ?』
「目指すはNGL!ネオグリーンライフ!タイトルもつけますか?」
『・・・・・ネコ狩り』
「イエッサー!じゃあいざ出発、『よし、ネコ狩りに行こう!!』」
多分サブタイトル、『よし、ネコを飼おう!』。
ムクロさんの中ではネフェルピトーはネコにしかすぎないらしい。
ネフェルピトーは自分の縄張りに『エモノ』がかかったことで鬱々した気分がようやく上向きになったきたことに自分では気付いていなかった。
後を頼むといって城をでていったネフェルピトーのしっぽがゆらゆらと揺れてなければ恐らく誰も気付きやしなかっただろう。
かかった『エモノ』は大きい、自分の新しい力を試すには絶好だ。
突出した岩に手をかけ『エモノ』がいるほうに目を向ける、じーっとこらせばクリアになっていく視界、視界、視界。
そして『エモノ』の姿。
思わずペロリと舌で唇をなめてしまう、高鳴る高揚感。
「みーーーーっけ」
ああはやく刈りたい。
ああはやく試したい。
視線の先にいる人間をこの手で―――
「った!!!」
―――ギタギタにしてやりたい。
ネフェルピトーが城からでてきたと同時に彼の存在に気付いたカイトは後ろに従う二人に慌てて声をはりあげた。
でてきたやつは格が違いすぎる、アレはダメだ、危険だと脳みそがガンガンに告げる。
わかっていない様子のゴンとキルアにそれでも早く離れろと声を張り上げ、少し腰を浮かした瞬間にカイトは自分の肩に熱いものを感じた。
アレが飛び込んできて、ゴトと自身の腕が地面に落ちた音と同時にゴンが唸り声をあげた。
あのバカと思わず叱咤しそうになって―――
「あれ、一足遅かった?」
『でもネコ狩りはできるぜ?ある意味グッドタイミングってやつだ』
一触即発のこの場所に明らかに場違いな二人が現れた。
大きなリュックサックを背負った女と手ぶらで顔の半分が焼け爛れてしまっている女の二人組み。
ピクリと耳を動かしたネフェルピトーに気付いたカイトは暢気に現れた二人に「逃げろ!」と口にしようとして
「!!!」
―――やめた。
リュックを背負った女ではなく、隣の手ぶらな女から嫌なオーラがじんわりとあたりを侵食しはじめたから。
禍々しいオーラは城からでてきたカイトの腕をもぎとったネコのようなやつから。
そして手ぶらの女から滲み出るオーラはその禍々しいオーラすらも上回る
(絶対的王者の・・・としかいいようがない・・・)
ボタボタと零れ落ちる鮮血を残った左手でとめようと切り口を押さえるが止まらない、零れ落ちていく。
ポチャンポチャンと静かな森の中に自分の血の流れ出る音が響き渡る。
その音が響くたびにネフェルピトーの体はビクリビクリと震えた、高揚感からじゃなく恐怖から。
城を出る直前までネフェルピトーの縄張りにこんな二人組みは引っかからなかった、突然湧いて出たように現れた二人に彼のセンサーはかすりもしなかった。
戦う前から敗北を味わったような形で二人組みと真正面からにらみ合うことになってしまったけれど、その敗北感はジャリっと一人の女が足を一歩踏み出したところでますます大きなものになった。
女王からは感じなかったもの、今まで味わったことのなかったもの。
生まれて間もないネフェルピトーはその足の底から這い上がってくるモノの名前を知らず、そしてどうするべきかなんてことも知らなかった。
「えー、お楽しみのところ申し訳ありませんがムクロさん」
『なんだ?』
「私、キルア連れて一足先に戻ってマース。ネコ狩り楽しんでくださーい、ちなみについでなのであそこに見えるお城の中も全部ドカンとしてもらえると助かりまーすウフ」
『・・・・・ジジイからいくら巻き上げるつもりだ?半分寄越せ、いや10分の9寄越せ』
「え、私取り分たった10分の1しかないの!?ありえなくない!?」
『だったらお前が行け。わざわざオレにあんなところまで行かせるんだ、それくらい当たり前だろうが』
二人の緊張感のない会話がたんたんと進められていく、そんな会話を聞いても女の絶対的なオーラは広がる一方でネフェルピトーは勿論、カイトも子供二人も動くことができない。
「チッ!わかった、わかりましたよぅ。それで手を打ちますぅ、じゃああとはよろしく〜!」
『ああ、せいぜい楽しませてもらうぜ』
「ってなわけで行こうかキルア、久しぶりにそのプリティフェイスとボディを堪能させておくれ」
なんでどうしていつどこからなんで、言いたい言葉がキルアもゴンも口から出てこない。
久しぶりに会ったに促されるまま二人はカイトを支えながら一人女を残してその場を離れていく。
カイトは子供達二人組みの表情から突然現れたこの女性が二人の知り合いだということに気付きはしたがどういう知り合いなのかまでは勿論の事わからなかった。
子供たち二人にしてみれば半年以上ぶりに会ったにこんな場所ながらも思わず飛びつきそうになって血をボタボタと流すカイトの存在があったことでぐっとその欲求をこらえた。
しばらく歩いて森を出たところでガクリとカイトの膝が折れる。
「「カイトッ!!」」
「オレは大丈夫だ、一応止血もした。ただ少々なくなった血が多すぎたか・・・知り合いの気配が近づいている、もう少し歩こう」
「でもでも!カイトふらふらだよ!?」
「ばあちゃん、なんとかならない!?カイト、オレたちのせいで・・・」
キルアの女に向けて言った言葉にカイトははじめて自分の耳を疑った、ばあちゃん、そんな単語が聞こえてきたような気がするのだがどこの誰がキルアの祖母だというのだ目の前にいるのはどう見てもオレより若い女で・・・とカイトが目を開いたところでゴンが落ち着きを取り戻したのか「ああ!」とポンと手を叩いた。
「カイト、この人ねムクロさんっていうんだ」
「違う違う、ちゃんだって。ムクロさんはさっき一人でネコ狩りしたくて残ったもう一人のほうさね、ぷりてぃゴンくん」
「そうなの!?」
「ばっかゴン!オレがずっとそう言ってるのに聞かなかったのはお前だろぉ!?カイト、この人オレのばあちゃん。オレが一番信用できてオレが知る限り一番強くてカッコイイ人・・・・・・多分」
最後の多分という小さな声がやけにでかく聞こえたのはカイトだけではなかったはずだ。
ムクロという女性がとにかく強いということは一瞬でわかったが、目の前のキルアの祖母だというこの女性も一筋縄ではいかなさそうな女だとクラクラする頭によぎる。
カイトのその判断はある意味で正しくてある意味で間違ってるのだが、キルアもゴンも彼女のことはあまり知っておらず(ムクロの存在も念というのものを習った後でしかもビスケに教えてもらったくらいだ)その間違いを指摘できる人間はこの場にいなかった。
間違いを指摘できる人間が現れるのはもうすぐ、ただそのやってくる三人組に申し訳ないとカケラも思うことなく「無駄足さね〜」とのほほんとは笑っていた。