女王の佇む城のすぐ傍にある森はいまやムクロさんの『ネコ狩り』真っ最中の舞台になっていた。
キルアたち三人をあとからやってくるというカイトの知り合いたちがやって来るまで森の外に放置し、私はというとカイトの吹っ飛ばされた右腕を取りにこの森へと戻ってきた。
時々森なのにクレーターらしきものがちらほら。
時々森なのにミステリーサークルがちらほら。
時々なぜか私に助けを求めてくるキメラアントたち。
ムクロさんはやるといったらとことんやる人、いや妖怪だ。
今頃心の中で高笑いしながらネコ狩りを楽しんでいるに違いない。
発見したカイトの右腕を抱えると、元の世界にいたときにはこんなもの見ただけで絶対に卒倒するかなんかしてたわ〜とか独り言を呟きながら歩いてきた道を戻り始める。
確かこの世界にやってくる直前にも街のど真ん中で切断された体とかが発見されたとかのニュースが流れていたはずだ。
あのころは怖い世の中になったよねとかみんなで言っていたけれど、こっちじゃそれが日常茶飯だ。
もげる時は頭だろうが体だろうがもげる、考えてみれば私ってばすごい世界でよくこれだけ生きてきたもんだとさえ思う。
森がようやくあけるころ、キルアたちを置いてきた大きな一本の木に一台のバスが止まったのが遠目に見えた。
降りてきた三人にやれやれとばかりに首をゴキゴキと右左と鳴らすと、私は三人のキルア苛めをとめなきゃねとカイトの腕を脇に抱え近くにあった小石をオーラで覆うと思い切り振りかぶって

ギャー!!
「「か、会長っ!?」」

飄々としたクソジジイに向かって投げた、これぞ一球入魂!
横っ面にもろに小石をくらったネテロの爺さんは私の方に顔を向けるや否やヒクヒクと頬をひきつらせた。
ヒソカたまじゃないけれどあの爺さんの嫌がる顔はどうやら私をゾクゾクさせてくれる、ハンター試験を受けていたときからなんとなくジジイいじめが楽しくて仕方ない。

「なぜおぬしがここにおる!」
「孫を愛でに。つか、なにしにきたのジジイ。ついでに人の孫なに苛めくさってんですかこの陰険眼鏡野郎」
「メ、メガネ!!??陰険!?」

眼鏡をスッと押し上げながら男がジジイと同じように頬をひくつかせ、その隣の時代遅れのようなサングラスをかけたでっかいオッサンはそんな男を見ながらゲラゲラと笑い出した。

「ていうか今わしに石を投げたのはおぬしじゃろ!?なにがやりたいんじゃ!」
「ジジイ苛め?」
「ば、ばあちゃん・・・・」

即答でかえした返答にキルアが今度は頬をひくつかせたものの、さっぱりと無視すると荒い息をついているカイトに向かって拾ってきた腕を放り投げた。
カイトではなくゴンがその腕を受け取ると、私にむかってありがとうとあのぷりてぃ笑顔で感謝の言葉を述べてくれる。

「ぎゃー!かわいいーーーー!ほしーーーーー!!」
「ばあちゃん、ダメだってば!!」

思わずゴンくんに抱きつこうとしてキルアのストップがはいる、いいじゃん抱きつくくらい、減るもんじゃないのにさ。

「えーい!いいからわしの話を聞け!!」
「うるっさいねぇ。なんですかぁ、さっさと用件言ってくださーい」
「お、お前!ネテロ会長にむかってなんて言葉を」
「ちょっと黙っててよ、陰険眼鏡」
「わ、私は陰険眼鏡なんて名前じゃなくてしっかりノヴという名前がありますっ!!」
「わかったわかった陰険眼鏡」

しっしっとばかりにノヴにむかって手を振って、額に青筋浮かべたネテロの爺さんに顔を向ける。
ついでにまあそこに座りなさいよとばかりにちょいちょいと地面を指差せば、じいさんはため息をつきながら私の目の前に腰を降ろした。
残りの二人も会長の少し後ろに仕方ないとばかりに腰を下ろし、陰険眼鏡は気がすまないのか私のほうを睨み付けてくる。
うーん、そんなに睨まれてもウイングと一緒で眼鏡萌えしないタチだからちっともウフンな気持ちにはならない。

「どっちかっていうともう少しガッシリ系が」
「ばあちゃん、自分の世界にはいりすぎ」
「おっといけない、んで?爺さんたちは何しにここへ?」
「そりゃあこっちの台詞じゃと何回言えば・・・だいたいおぬし、ここへどうやってそのカメラやらお菓子やらビデオやらを持ち込んだ!?検問にひっかからなかったのか!?」

そういって爺さんはもしゃもしゃとお菓子を食べていたキルアに向かってビシっと指先をつきつけた。
キルアのためを思ってわざわざ大好きだって言ってたお菓子を持ってきてやった孫思いの私にケチつける気か、この野郎。

「東ゴルドーに抜け道があるの、ただし私専用。むかーしむかし、ちょいとこの子の爺さんと一緒に東ゴルドーにお邪魔させていただいたことがありまして」
「いつの話じゃ!」
「年をとると忘れるのも早くってかなわないんだからウフ」

べっと舌をだしてやるとネテロの爺さんが目の前で頭を抱えこむ、その姿を見てヒソカたまのようにズキューンとはこないけれど胸がきゅんとしてしまう。
いかん、コレは本当に癖になってしまいそうだ。

「カイトら三人はともかく、お前はここへ何をしにきたんじゃ。ここはいまやキメラアントの巣窟となっていて厳戒地域の一部じゃぞ」
「ばあちゃんに厳戒地域もなにもないような気がするよ、オレ」
「あっはっは、その通りさジジイ。あたしゃ単にキルアに会いにきたのと、ネコ狩りをしにきただけさね」

ネコ狩りという言葉に首をかしげた三人にカイトがゆっくりと体を起こしながら先程の出来事を説明しはじめる。
ゴンくんがしっかりとその体を支えていて、あぁなんて甲斐甲斐しいのかしらと一人感動を覚える。

「オレの腕をこんなにしたヤツのことかと。ただ会長、そのキメラアント・・・今までみてきたキメラアントの中でもかなり特殊です」
「特殊、とな?」
「ええ。あんなに気味の悪いオーラ・・・・随分と見かけたことがない・・・・」

うなだれるカイトにゴンがオレのせいで・・・と小さく呟いた。
まあ力がなかったのはしょうがないとして時には運っていうのもあるさとポムポムとゴンくんの頭を軽く叩いてやる。

「ふむ、新たなキメラアントか」
「でも爺さん、多分今頃キメラアントたち、女王も含めてあの世かも・・・」

首をすくめがら私がそう口をひらけば爺さんたちはなんじゃと!?と大袈裟に三人揃ってこっちに振り向いた。
いやんそんなに見つめないでと口を開きそうになってキルアにぎりっと腕をつねられる。
くそう、このプリティボーイは大分学習してきたらしい。

「だからね、今ネコ狩り真っ最中なの。ついでにお城のアリ狩りも真っ最中なの」
「誰が?」
「ムクロさん」
「ムクロ・・・とな?誰じゃそれは一体・・・」

爺さんの言葉に思わずフッと笑みがこぼれる。
よくぞ聞いてくれましたとばかりに私は顔をあげるとベラベラとムクロさんに関して思いつく限りの言葉を言い始める。

「ジコチューここに極めりって感じの女ですいやでも自分のことオレとか言ってるんですけど声がなかなかにハスキーなんで似合ってるからいいんですよそれでね本来私のほうがご主人様だっていうのにあの人を食ったような態度いやもう食いまくりなんだけど実際しかも人のこと奴隷かなにかと勘違いしてませんかって思わず言いたくなるっていうか実際ヤツはそう思ってるに違いないんだろうなうんまあそれでねあの人ものすごいSなんですよドSわかります?まあ女王様だしらしいといえばらしいんですけど私にまでSっていただけないと思わない?ていうかいい加減人の話を聞いてくれよって感じなんで」
『誰の話をしてるんだ、?』

後ろから聞こえてきたハスキーボイスに思わず

「くいーんえりざべす、です・・・あはは・・・」
『ほぉ、そうかそうか、お前はそのクイーンといつから知り合いになったんだ?ん?』
「ギャーース!許してムクロさーん!このジジイがムクロさんの悪口を思う存分吐くがいいとか言うから」
「なっ!わしを巻き込むな!」
『死んでしまえ、

ドカンとムクロさんの華麗なる踵おとしが私の頭に決まった。













『会うのは二度目だな、ハンター協会とやらの爺さん』
「おぬしがムクロかの?」

突然現れたあの顔が半分焼け爛れた女にばあちゃんは踵おとしを食らってホゲ!と女にはあるまじき言葉を吐きながら意識を飛ばした。
そのまま倒れふしたばあちゃんの背中にぐりぐりと足をねじこみながらムクロ(ビスケの話からして多分彼女がムクロなんだと思う)はネテロ会長に向かって口を開いた。
ぐりぐりと足をすればするほどばあちゃんの開いた口からなにかが飛び出てる気がするんだけれど、オレは何も見なかったことにする。
あのばあちゃんをこうやって足蹴にするほどだ、きっとこのムクロって人は真性の女王様なんだとオレは考えた。

『そうだ、一応こいつの念とやらをやってる。どうやらこの先に用があるらしいが、一足遅かったな。オレが遊んでしまったぞ?』
「遊ぶ?」
『ああ、こいつも最近ペットが欲しいとか言っていたしな。オレも暇だったからこの先にあったアリたちの城で遊んできた、だから今行っても何もないぜ?』

そういうとムクロはぽいっと肩にかついでいた何かを地面に降ろした。
ゴロゴロゴロと転がり落ちてきたのは、オレの見間違いでなければカイトの腕を引きちぎったあの恐ろしいほど気持ち悪いオーラを放っていた猫みたいなキメラアント。
落とされた衝撃で目が覚めたらしく、そいつは『ひぎゃっ』と目を大きく開くと素早く体勢を整える。
ネテロ会長と一緒に現れた二人の男もそれにつられるかのように慌てて構えをとるものの

お座り

ムクロさんの一言でそいつが大人しくへちょっと地面につっぷしたことで拍子抜けしてしまう。
ていうか、お座りってのは犬に対して使う躾じゃなかったっけ?

「にゃー・・・」
『ま、そんな感じでな。とりあえずこいつはオレが貰う、城の女王どもも腹の子供もろとも潰した。おそらくキメラアントがこれ以上はびこることはないだろ』
「おぬしが、か・・・」
『当たり前だ、オレ以外に誰がやるんだ。まあコイツでもできたんだろうがな、そこのヤツが孫もろとも心配だったようだしな。上の空で一緒についてこられても迷惑なだけだ』

恐らくばあちゃんのことを褒めてはいるらしい、けれど足のグリグリはとまらない。
ひたすらグリグリグリグリ、そしてばあちゃんの口からでてくる何か。
見なかったふり、見なかったふりと口にしながらオレはゴンとカイトの傍に近づいていく。

ちゃんは大丈夫?」
「ゴ、ゴン・・・・お前、ばあちゃんのことわざわざちゃんって呼ぶ必要ないんだぞ?」
「だってちゃんがそう呼んでって言ってたから。いいよって約束しちゃったんだ。それで、ちゃん大丈夫?なにか口から白い気体みたいなものがでてるよ?」
「・・・オレが見なかったふりしてたものをお前はあっさりと口にしちまうんだなゴン・・・」

そんなゴンが大好きだぜと思わずオレは親指をぐっとつきたてた。