最近視線をよく感じる。
朝起きてから。
歯を磨いている最中。
ご飯を食べている時。
遊びに出かけている最中。
風呂に入ってるとき。
寝ようと部屋に向かっている最中も―――とにかく、視線を感じる。
決していい視線じゃない、なんというかどっちかっていうと憎しみというか怒りというか、とにかくいい視線じゃないのだ。
誰がそんなものを向けているかなんて・・・簡単な話だ。
いつの間にか俺の家に住みつくことになった5人と、いつの間にか俺の家を自分達の第二の家か別荘かと勘違いしてるんじゃないかとつっこみたくなる3人、その8人だ。
腹を立てているのはどっちかっていうとオレのほう、オレの許可なく人の家で我がもの顔しやがってオレの部屋を取り上げられることはなかったからいいものの風呂に入る時間は限られるわ飯は死闘を繰り広げなきゃ食べられねえわ。
なんであいつらがオレにそんな視線を向けてくるのかサッパリだ。
オレが顔を向ければそろってフイっとそらすくせに、オレが別方向を向けばコソコソと固まって内緒話。
またまたオレが顔を向ければそろってフイっとあらぬ方向に顔を向ける。
いくらあいつらといえども腹が立つといえば腹が立つし理由がわからないだけに気になって気になって仕方ない。
「ごにょごにょごにょ」
「うんうん、そうだよね!ごにょごにょごにょ」
なんだよ、ごにょごにょごにょって。
言いたい事があるならオレに正々堂々言えばいいんだ、と廊下の向こうでコソコソ話しているパクとマチに舌打ちするとそのままイライラを抑えきれずにドンと自分の部屋のドアを蹴り上げた。
メキっと音を立てて古いドアの蝶番が外れてドアが斜めに傾き、思わず慌てて両手を差し出してドアを支える。
「あー・・・ついてない。ついてないったらついてない、いつまでこうやってドアを支えてりゃいいんだよ」
「なにやってんの、ノブナガ」
「・・・・ますますツイテネー」
家の一番隅っこにあるオレの部屋に訪れる人間なんていない、いてもせいぜいウボォーギンとかフィンクスくらいでクロロに五月蝿いと部屋を追い出されたからとかくだらない理由でしか近寄ってこない。
ミツヒデだってオレに用事があるときは声を張り上げてオレを呼ぶくらいだし、ましてこの新しい住人・・・実は違うらしいけど・・・ってヤツがオレの部屋にやってくることなんてなかった。
のに、どうしてこんな日に限ってこの女はオレの前に現れるんだろう。
「なんもやってねー」
「ふーん、ドア抱えちゃってソレ新しい遊びかなんか?」
「・・・我慢ごっこだ、ほっとけ」
あぐらをかいて背中でドアを支えるようにして座るオレに合わせてしゃがみこんだにオレはフンと顔をそむける。
なんだってオレがこの女と口をきかなきゃいけねえんだ、そもそもこの家が狭くなったのだって飯の場が戦場になったのも全部コイツのせいなんだから。
けれどオレが顔をそむけたとたん
「・・・!?!」
オレに突き刺さる視線、視線、視線。
なんだってんだって慌てて視線の方向に首を向ければ、阿修羅を背負ったマチを筆頭に顔が般若になってるクロロにパクノダ、頬をふくらませているシャルナークにものすごーくイライラした目をこっちにむけるフィンクスやらウボォー。
「まじで何だってんだ・・・」
「ねーねー、どうしたの?何やってるの?お姉さんに教えてよー」
「お姉さんって歳かよ、ババア」
とそこまで口をひらいて、シュっと何かがオレの頬をかすめる。
ツーと冷や汗がオレの背中を流れる、顔を動かすことなく目の玉だけ横にぐぐぐっと向ければビヨンビヨンと縦に揺れるドアに突き刺さったむき出しのナイフ。
オレの記憶が正しければこれはクロロのお気に入りじゃなかったか。
「ねーねー、なにやってるの?ほんとに我慢大会?」
「うるっせぇなぁ、このクソバ」
そして今度は反対側の頬に何かが風をきってつきささる。
カッと音を立てて突き刺さったものはいつも食卓で並べられるナイフとフォーク、ついーと視線を横に流せばニヤリと笑うパクノダの姿。
これはもうあれだ、普段静かなやつほどまじでキレると何をするかわからないってやつだ。
なぜならパクの両手にはまだナイフとフォークがこれでもかというほど握り締められている、ちなみにマチもナイフとフォークを構えてはいるのだが・・・力加減ができていないようでポッキリと折れて床に転がっている。
「・・・ド、ドアの蝶番が外れたんだ。支えがないとドアがかたむくから仕方なくこうしてるんだよ、これで満足か?」
「ふーん、じゃあさっさと直さないと。ちょっと待ってて、意外とエステメルダが日曜大工好きだから頼んできてあげる。彼女が来るまで我慢できる?」
「・・・・・フン」
鼻息荒く、フイっと顔をそむければクスクスとが笑う。
そのままぐしゃぐしゃと頭を撫でまくられてその手が嫌で嫌で頭を振って逃げようとしればさらに笑われて、もう少し待っててよと言い残すとオレの前から立ち去った。
あーやっといなくなった、と安堵のため息をこぼせばフッとオレにかかる影。
なんだと思って顔をあげれば、オレに絶対零度の目を向けるクロロとパクノダ、その後ろに残りのメンバー。
「・・・・な、クロロ、なんだよ」
「ノブナガ」
「・・・な、なに」
「オレたちは今日このときお前に宣戦布告する!」
「・・・・・は?」
「ノブナガ!わたしたちと勝負よッ!!」
「・・・・・は?」
「ノブナガ、お前のことトモダチだと思ってたが今日からは敵だぜ!」
「・・・・・ウ、ウボォー?」
「ノブナガなんてキライ」
「シャ、シャルナーク?っていうかお前ら一体なに・・・」
次の瞬間、ガスンとオレが背中で支えていたドアが吹っ飛んだ。遥か後ろに。
オレの顔のすぐそばにはつきだされたマチの左足。
「ノブナガ・・・・お前、贅沢だよ!!あたしと変われ!!」
「へ?」
「あ、マチずるい!おれも!オレもノブナガと変わりたい!」
わけのわからないことを叫ぶマチにズルイコールを連発するシャルナーク。
俺の頭には?マークしか浮かんでこない、ていうかクロロもパクノダも、ウボォーも一体なにに怒ってるんだ!
「マチやシャルにとってかわられるくらいならあたしがノブナガになるわ!」
「パクには無理だよ、俺がノブナガになる!」
「クロロにだって無理だぜ!髪が同じ黒色ってのしか共通点ねえじゃねえか!俺がノブナガだ!」
「馬鹿言ってんじゃねー、ウボォーなんてなんにも接点がねえじゃねえか!それくらいなら俺がノブナガになる」
わけがわからないまま俺の目の前ではノブナガになるのは俺だあたしだ喧嘩が勃発している。
マチの拳が唸りウボォーの叫び声が耳につんざくように響きパクノダの足が空を切りフィンクスの頭がふっとんだ。
シャルナークはいつのまにかその場を離れてクロロの後ろに隠れてひっそりと「マチがんばれー」と応援している。
「ク、クロロ」
いつまでもとまらない騒動に俺はクロロに一体何が起きているのか問いただそうと口を開く。
名前を呼べばギロリと絶対零度の目で見下ろされたものの、一応振り返ってはくれる。
「お、お前ら一体なんなんだ?オレになるだの宣戦布告だの」
「その言葉の通りだけど?」
「だからそれがわからねえんだって、オレお前らになにかしたか?この間からオレの事みんなして睨んできてただろ?コソコソ隠れて内緒話もしてただろ?」
「あ、ノブナガ寂しかったんだ!」
「うっせーシャル!」
図星をビシリとさされて思わずシャルに大きな声をだしてしまうものの、相手はガキ相手はガキと自分に言い聞かせる。
そうでもして黙らないと後々シャルを苛めただのとマチとウボォーにどやされるのだ。
「オレに言いたいことがあるならはっきりオレに言えばいいんだ!こそこそやるくらいならいつもみたいに正々堂々と面と向かって言いやがれ!!!」
「ノブナガ、鼻水でてるよ」
「だーーー!!お前はマジで黙ってろシャルナーク!!」
クロロの足の後ろに隠れてオレの顔に指差すシャルに今度こそ叫んでオレはキッとクロロを睨んだ。
のだけど
「じゃあ言ってやる!!」
と、クロロにさらに睨み返される。
そのうえ
「がお前のお母さんだなんてズルイ!!!ミツヒデは隅っこにおいといて、本当のお父さんとお母さんがいるなんて・・・・ノブナガだけズルイ!!」
そう叫んで右ストレートを俺に向かって放った。
ガツンと思い切りクロロのストレートが顔面に決まって頭がクラクラする中、さっきクロロの言った言葉を思い返しては反芻する。
クロロはなんていったなんていったがお前の母さんお前って誰だってオレだオレだよなじゃあそのがオレの
「かあさんんんんっ!?!?」
信じられないとばかりに叫び声をあげれば、さっきまで馬鹿みたいなことを言いながら勝手に騒動を起こしていたマチたちがピタリと動きを止めてオレのほうにそろって顔を向ける。
「ちょっとまて、クロロ。そりゃあどういうこと」
「オレ、この間夜中に聞いたんだ。お前がとミツヒデの子供だって。はお前に親だって名乗るつもりはないって言ってたけどでもお前のお母さんなんだぞ、折角オレたちにも母さんができたのに・・・」
「がノブナガだけのママになるくらいならオレがノブナガになるんだから!!」
そう言ってシャルがビシリと俺の顔にむかって指をつきつけた。
直後、再びノブナガになるのはオレだあたしだ騒動が起きるわけだが。
がエステメルダを呼んで帰ってくるまでオレはいまいち頭がついていけず、クロロに殴られてから流れっぱなしの鼻血をぬぐうこともせずに呆然と扉のなくなった部屋の入り口に座り込んでいた。