その日の私はチョーご機嫌だった。
なにせまちにまった
「ゴンくんとのデートですからー!!ひゃっほーい!!」
そうなんです、キルアの監視をかいくぐってかいくぐってようやくぷりてぃゴンくんとのデートにこぎつける事ができたのです!!
これを喜ばずにいられようか、いや喜ぶしかぬえぇ!!
気合充分しゃーんなろーとばかりに両手を上につきあげたところで、遠くから自分の名前が呼ばれた気がしてくるりと振り返る。
振り向いた先には手をブンブン振り回してくれているゴンくんの姿、あああの子はどうしてあんなにもかわいいのか。
あの『ぷりてぃ』要素を誰でも良いからうちの子供たちにもあってほしかった、とはいえあの『ぷりてぃ』要素がウボォーとかフィンクスにあったって困っただけだろうからせめてマチとかシャルナークとかフェイタンとか・・・とかとかとか、想像して絶対に無理だと自分で諦めた。
おかあさんあのね、とかいうフェイタン。
キモイ。
おかあさんだいすきーとかいうマチ。
超絶キモイ。
あははママあははとか笑うシャルナーク。
昔が昔だけに悲しい寂しい、キモイ云々の話だ。涙が出てくる。
「ごめんね、ちゃん!待った?」
「待ってない待ってない、そんな3時間も前から興奮してここにいたなんて言わないから安心してよ」
「えへへ、そう?今日はどこに連れて行ってくれるの?キルアには内緒っていうからキルア黙らせてくるのに手間取っちゃった」
えへへと笑うゴンくんに胸がキュンとときめいたものの、途中でん?と首をかしげる。
キルアを黙らせる、とこの子はいわなかっただろうか。
なんだろう、ちょっとときめいてしまったけれども詳しく聞いちゃいけないと頭の中でアラートが鳴り響いている。
その笑顔がまぶしい。
「う、うふふ」
「えへへ」
「おほほ」
「えへへ」
「・・・・・・・いこっか・・・」
「うん!」
なんだか何もかも負けた気分だ、なぜ!?
「それでねーキルアがね」
「うんうん」
デートなのに二人共通ということで何故か孫の話で盛り上がる私達。
ゴンくんが甲斐性なしとか私が孫馬鹿とかそういうわけじゃあなくて、たんに散々二人して遊びつかれて近くの海辺でゆったりまったり時間をすごそうってことになっただけで決してそんな普段のキルアはどんな感じなのかしら〜って抜き打ち参観みたいなつもりじゃあない。
波が音を立てて打ち寄せてくる岩場に二人して腰掛けてあーだこーだとひたすらキルアをネタにして笑いあう。
今頃あの子はくしゃみをしているか、もしくはいまだゴンくんに『黙らされて』いるかだ。
「ねえちゃん」
「なぁに、ぷりてぃゴンくん」
「オレたちって海岸にいたよね?」
「そうだねぇ、二人で夕日を眺めながらウフフなひとときを過ごしてたよね」
「だよね、じゃあさなんでオレたち今崖の上にいるのかなぁ」
は?
ゴンくんのその言葉に慌てて足元を見てみると、確かに・・・・打ち寄せる波がいつのまにか足元どころか遥か真下、しかもかなり激しく打ち寄せている。
ザザーンじゃなくてザッパーンザッパーン、まさしく葛飾北斎だ。
足で蹴り上げれていた砂浜はいつの間にか消えて足元はすかすか、ぶらぶらするだけ。
座っていた岩場もいつのまにかしっかりがっしりした岩の崖になっていて、振り返れば広大に広がっているはずの砂浜がなくなっていて何故か鬱蒼と茂る森。
「あ、あれ?ここどこよ」
「ねえちゃん」
「んあ、なぁにゴンくん」
「あそこに変なものがいるよ・・・あれってどう見ても骸骨・・・だよねぇ?」
くいくいと服の裾をひっぱられて引っ張られた方に首を向ければ・・・何故かこちらに向かってきている骸骨の群れ群れ群れ。
しかもよくよーくみてみれば、骸骨の格好、私の正しい『故郷』の遥か昔の人間が来ていた服装というか・・・衣装というか、博物館だとかこどもの日とかに見るもので。
「あー・・・・もしかしてやっちゃったか?」
「やっちゃった?ちゃん、なにかやったの?ていうかあれって生きてるのかな?誰か操ってるのかな?」
「ごめん、ゴンくん。もしかしたら私の最悪な体質に巻き込んじゃったかもしんないや・・・」
「え?どういう意味?ちゃん、ここがどこか知ってるの?」
あーうんまあ知ってるといえば知ってるような気もするけど時間というか時代が違うというかていうかそもそもこんな動く骸骨いないっていうか。
はっきりとした言葉を言う事ができず口の中でむにゃむにゃむにゃとごまかしていれば、がちゃこんがちゃこん、いやがちゃがちゃかな、とにかく骨を鳴らしながら近づいてきていた骸骨がそれはもう間近にまで迫ってきていて。
私とゴンくんはなんとなく二人揃ってその場を動くこともせずに近づいてくる骸骨を眺めていた。
「あれって何かなぁ?念かな?ちゃんわかる?」
「あーいや、どうだろねーあはは。多分ねー念じゃないんだよ念じゃ」
そうこう言ってるうちに目の前にまでやってきて骸骨の集団はそろってこれまた私の記憶違いでなければ錆びてボロボロにはなっているけれど確実に『日本刀』らしき日本刀をふりかざして―――
「待て!!怨霊め!!」
金属音がぶつかる音が私とゴン君の上から聞こえてきた。
ふわりと広がるオレンジ色の長い髪が私達の視界を奪う、更に広がる白い布。
「九郎さん!!襲われてた人たちは無事ですか!?」
「望美、遅いぞ!なんとか間に合ったようだ。弁慶、景時、金剛撃を頼む!」
おやおやおやと思ううちに一人二人、ばらばらと人が駆け込んでくる。
ゴンくんと二人どうしたものかとぽかーんとしたまま私達の前に現れた人たちが骸骨集団を何か変な技らしきものを使って追っ払っているのを眺めていると、ぎゃぁぁぁとなんというか悲惨な叫び声とともに骸骨たちが一斉に前の前で消えてしまったのを目の当たりにして。
そこでようやく現れた人たちの格好をまじまじと見ることができた、というか意識してみることができた。
「ごめん、ゴンくん。まじで巻き込んじゃったわ・・・」
「え?なにに?」
「あのあの!大丈夫ですか!?怪我、してないですか!?」
がっくり項垂れながらゴン君の頭を抱え込んで情けない声で謝罪の言葉を述べていると、ばたばたと足音軽やかに淡い紫色だか桃色だかの髪をなびかせながら女の子が駆け寄ってきた。
ゴンくんの頭を抱えたまま(役得役得なんてそんないけない感想を抱いてるわけじゃないわよ)顔をあげれば、女の子とばっちり目が合う。
何か言わなきゃいなぁと口を開こうとしたところで女の子がカッと目を開いて呆然と私たちの方をみつめてきた。
もぞもぞと私の腕の中からゴン君が顔を出し、どうしたの?と目の前の女の子に声をかけるものの女の子はなにかひどくショックを受けたように私達を見つめている。
「あのぉ・・・」
「ジーンズにティーシャツ?どうして・・・ここは鎌倉時代で・・・」
「は!?!?」
女の子の呟いた言葉に聞き捨てならないものがあったことに私は思わず大きな声をだしてしまう。
「鎌倉!?なくようぐいすかまくらばくふぅ!?」
「それは平安京です」
眼鏡をかけた弓筒を背負った男の子が冷静に口を開いた。
「そうともいう。ちょっとまってよ、鎌倉時代とかありえないから!日本人がこんなにカラーバリエーション豊富な髪色してるわけがないじゃん!?」
「「そっちかよ!!」」
ボサボサの藍色の髪をした青年と目の前でひざまずいている女の子が二人揃ってつっこんできた。
この二人、なかなかやるな。
「あなたも未来からやってきたの?平成知ってる?小泉○一郎って知ってる!?」
「先輩、どうしてそこで小泉○一郎なんですか・・・」
「ちょっと黙っててよ譲くん!だってこの人たち、私達の同士かもしれないのに!見てよ、ジーンズだよジーンズ!こっちの男の子なんか普通にタンクトップ!もしかしてユニ○ロ!?」
女の子はベラベラと口をとじることなく私やゴンくんの服をべたべた触ったりひっぱったり触ったり・・・
ほらそこまでにしろと藍色の髪の青年が女の子の体を後ろに引っ張るまで女の子はひたすら喋り続けた。
「ちゃん、オレよくわからないんだけど」
「わかんなくていいよゴンくん、あー・・・キルアをはぶにしたことの罰かなぁこりゃあ・・・お嬢さん、お嬢さん」
「はい!あたしですか!?」
「うん、あなた。ここは日本であってる?アメリカとかそんなんじゃないわね?」
「違います、ここは日本・・・えーと鎌倉時代ですけど・・・場所も鎌倉近辺です。あ、鎌倉ってわかりますか?」
「大仏があるところ」
「おお!その通り!ほら、譲君、この人もやっぱりあたし達と一緒で未来から来たんだよ!!」
「あー・・・いやちょっと違うような」
またまた女の子は喋り始めて、今度は男の子が止めようとしても止まらなくなってしまった。
どうしよう、なんかこの子、ビスケに似てるかもしれない。