なんだかよくわからないけれど私とゴンくんは中身がビスケに似ている女の子たち一行に拾われたらしい。
のだが―――

「腕に縄が食い込むんですけどなにこれ、SMプレイ?SMやっちゃうわけ!?ていうかなんで私だけ!?」
「ねー、譲くん。この人SMとかって単語も知ってるんだし絶対未来人だよ」
「えすえむ?将臣、なんだそれは?」
「え?オレにふるわけ?譲に振ってくれよ九郎、あいつならマニアック専門だから。ていうか弁慶、その女の子達どうもまじで俺らと同じ世界からきたっぽいから離してやって欲しいんだけどよ・・・」

なぜか私だけ縄でぐるぐるに縛られてゴンくんはその横でポツンと体育すわりだ。
ああ!ここにカメラがあればこの体育座りなゴンくんも激写しちゃうのに!!
思わず両腕に力がこもってしまって縄がブチっとか音を立てたけど、あくまで『かよわい女の子』を演じなくちゃいけないから慌ててちぎれた部分を両手で握り締めて隠してみる。
弁慶と呼ばれたショールみたいなものを頭からすっぽり被っている男の人が藍色ヘアーの少年になにやら色々言われて、フムとばかりに顎元に手をやって私とゴンくんの目の前にしゃがみこんで目をのぞきこんでくる。
薄い茶色の髪の毛に瞳、顔の作りを一言でいうならそれは―――

「(表面だけ)優男だ
「九郎、この方はいっそのことここで処分していきましょう」

心の中の言葉を読めるのか、思い切り頚動脈のところに薙刀の刃の部分をおしつけてきた。
あわてたのはゴンくんじゃなくてあのビスケっぽい女の子で、ワタワタと弁慶と呼ばれた青年のところまでやってきてグイグイと薙刀を私から遠ざけようとしてくれる。
のだけど、微妙に力が加わったり加わらなかったりで刃がピリピリと私の首の皮を刺激する。
勘弁してちょうだいよ。

「で、結局なんなんですかね、あなたたち。別に私達海岸でまったり愛を語り合ってただけなんですけどなんで私だけ束縛プレイされなきゃいけないんでしょ?」
「そくばくぷれい?将臣、それはなんだ?」
だからそういうマニアックなのは譲に聞いてくれって
「えー!!なになに!?二人ってばそういう関係なの!?」

女の子が興味津々とばかりに私に詰め寄ってくる、その際思い切り弁慶と呼ばれた青年をドンと突き飛ばしていたけれどどうやらこの一行のボスは彼女らしいので問題なし、だろう。
にしても女の子はやっぱりこういう話が好きだよね、うんうん。

「あ、あたし春日望美っていうの。今はこんな格好してるけどちゃんと鎌倉の高校二年生なの。あなたは?」
「私はっていうの。(外見だけは)高校三年生よ、(生まれた場所は)東京のネ。こっちはマイダーリンのゴンくん!えーと、13歳!」
「13歳!?すっごーい、さんてばロリショタ!?

ズケズケと直球で言う子だなこの子。
後ろで顔を真っ青にした藍色ヘアーの男の子がムンクの叫びになってるよ。

「ロリショタ・・・このズバズバ言う物言いとかものっそいビスケにそっくりだわよ」
「ビスケ?っていうか『こうこう』とか『ろりしょた』ってなぁにちゃん」
プリティでキューアキューアってことよオホホホホホ!!まっくすはぁとぉーなんてね、オホホ!アハハ!」

痛々しい視線が眼鏡の少年から寄せられる、しかし痛い視線を寄越すということは眼鏡青年はプリティでキューアキューアがわかってるってことだ。
こっちこそ痛い視線を送ってやるぜ畜生!!
まあとりあえず隣のゴンくんは理解してないからヨシとしようじゃないか、ここにオタクがいようが眼鏡がいようが私にとっちゃ知ったことじゃない。
大事なことはゴンくんとのランデブータイムをいつまで続ける事ができるか、そしてキルアが生きてるかどうかだ

「望美さん、その方々があなた達と同じ未来から来たのはその方の口からでてくるわけのわからない言葉でよくわかりましたが・・・どうなさるおつもりですか?まさかこのまま一緒に連れて行かれるおつもりですか?」
「え?だってこんな場所に二人とも放っておいてたら怨霊にやられちゃうじゃない!寝るとこもないのに弁慶さんてば二人を放っておけって言うの!?ヒドイ!!」
「・・・・この二人なら放っておいても平気なような気がするのですが、僕だけでしょうか」

ううん、きっと正解だ。
ていうか寧ろ放っておいてくれよ、ゴンくんと二人っきり、たまらんじゃないか!

「弁慶さん!!違うの!この男の子がいろいろ危ないから連れて行ってほしいの!なんだかあたしの勘がビシビシ告げているの、この男の子の貞操の危機を!!」
「え?オレ?」
「ちょっと、ちょっとちょっと!ゴンくんが危ないってどういうことさね!私も危ないだろ、えーやだよぅこんなところでゴンくんなしで一人で暮らしていくなんて考えられない!プリーズギブミーゴーン!!

痛々しい視線が何故かいたるところから私に突き刺さる。
ちょっと、鎌倉時代だってさっき女の子が言ってたんだから英語なんて知らないんでしょうがよ!なんでそんな痛々しい目で私だけが見られなきゃいけないのよ!

「いいもんいいもん、こんないたたまれない集団と一緒に行動だなんてこっちからお断りだね!ケッ!眼鏡に腹チラにスパッツに腹黒に腹黒に腹黒」
「腹黒ってどなたのことをさしていらっしゃるんですか?」
「お前だこのやろう!外見が爽やかでも私の目はごまかせないんだからね、うちのシャルナークにある意味そっくりでも私の目はごめかせないよ!爽やかに毒を吐くところとかもうクリソッ!違うとこは髪の色と髪の長さと筋肉質じゃないところ!!

いつの間にかしっかりと両手で握っていたちぎれた縄を離していて思い切りビシっと指先を弁慶と呼ばれた青年につきつけていた。
私が指をつきつけたと同時に腹チラと九郎と呼ばれた男が声を大にして「みんな避難だぁぁ」「緊急退避ぃぃ!!」と叫び始める。
望美ちゃんが慌ててゴンくんの手をとって腹チラ男たちのほうへと逃げていく。
いったいなんだっつのと思って体に絡まっていた役目を果たさない縄を地面にたたきつけたところで、ビュンと風をきる音が顔スレスレ横で聞こえる。
と同時にゴンっと地面に何かがたたきつけられる音。

「女性に手を出すのは僕のいたすところではないのですが、どうもあなたのことは性別不詳といいますか・・・なんだかそういうものを超えたところで腹が立ちます」
「私もなんだかシャルと被ってるようで被ってないあなたを見てると腹が立ちます、ウフフ。おあいこですね!!」
「ふふ・・・」
「オホホ・・・」

地面にめりこんだ薙刀を目の前の男が引き抜く、オイオイ地面が抉れちゃってるよ。
私と弁慶と呼ばれた男から結構離れたところで避難民たちが顔を真っ青にしてこっちを見守っている。
ああゴンくん!私はこの目の前の男を倒して君を救いに行くよ!そして二人で逃避行といこうじゃないか!

「弁慶さん!なんだかさんのオーラがちょっと危険だから思い切りやっちゃってくださーーーい!!」
「えぇ!?望美ちゃん、私達って初対面じゃなかった!?」
「任せてください、望美さん。しっかりとその任務、果たしてみせます」
「コノヤロウ!なんかこの人たち全員見た目からして腹が立ってたけど中身も腹が立つゥ!!ゴンくん、応援しててちょーだい!私はこの目の前の男を倒して君を救いに行くわッ!!」
「なんかよくわからないけどガンバレーちゃーん!!」
「だめだよごん君!!応援するなら弁慶さんを応援しなくちゃ!!」
「そうなの?じゃあベンケイさん、ガンバレー!!」

ゴンくんの応援のベクトルの向きがグルンと変わった。

「おのれぇぇ似非爽やか王子めぇぇ!マイダーリンの愛を受け取るとは許すまじッ!!」
「ふ・・・あの少年にとってあなたがその程度の人間だったということですよ」













「あああああ!景時、弁慶を止めてこいっ!そうでなければここら一帯が荒地と化してしまうぞ!?」
「ええっ!?俺ぇ!?俺じゃ無理だよ、せめて望美ちゃんじゃないとあの中には入れないっていうか
「兄上っ!あの弁慶殿が本気になってしまっているのですよ!?早くしないとあの女性が大変な事になってしまうではないですか!」
「ええっ!?だから朔までなんで俺に言うのぉ!?望美ちゃんじゃなきゃ無理だって
「ヒヒヒヒノエ!!べべべべ弁慶殿の周りの小石が浮き上がっているぞ!?」
「オレに振るなよ敦盛、オレは今この瞬間あのオトコと血縁的にも無関係になりたいと熊野の神々に祈りをだなぁ!」
「神子ぉ、あの二人なんだかとても怖いよ?風が音を立ててふぶいているよ?」
「あの弁慶さんにあそこまでたてつける人は今までいなかった!!将臣君っ、あの人絶対に一緒に連れていこう!!あたし達に必要な人材だよ!!」
「・・・・・人身御供にするつもりだろ、お前・・・・・」
「ああ先輩・・・」
「・・・・・」











離れた場所で盛大に罵られている、明らかに罵られている。
私だけじゃない、目の前の弁慶と呼ばれた男もだ。

「ふふん、あんたも一緒じゃないのさ。どうやら相当お仲間さんたちにバケモノ扱いされているようね」
「おや、ご存じないのですか?人を束ねるのに一番手っ取り早い方法は『恐怖』ですよ、ふふ・・・」

ああどうしよう。
目の前のこの優男、本当にシャルナークにそっくりだ。



―――特定の人間にだけSからドSになるところが(ちなみに特定の人間は今のところ私だけだけど)