俺の名前はミツヒデ、漢字という日本独自の言葉で書くと光秀。 漢字なんて言語を知っている通り俺は日本生まれの日本人だ、育ちは他の国だが。 それなりに親に愛され、それなりに勉強して、それなりに働いて、それなりにいい生活を送ってきた。 それが大体15年ほど前の話。 そんな『それなり』生活を送っていた俺がこんな『なんでも捨てても許される街』流星街で余生を過ごしているのには訳がある。 まぁ訳といっても簡単に言えば捨てられたのだ。 誰にかって言うと当時付き合っていた彼女の関係者に、なんだが。 金髪美人、超ナイスバディの彼女と付き合い始めて一年、ピンク色な同棲生活が始まる予定だった。 のだが、突然ある日見知らぬ連中が家に現れあれよあれよというまに俺は縄でぐるぐるまきにされて飛行船の中へ。 そしてしばらくすると男達は『恨むならお嬢さんの婚約者を恨めよ』と俺にニタリと笑いかけ、問答無用でそのままぽーんと蓑虫状態のまま空中に投げ捨てられた。 ―――目覚めた場所はゴミ捨て場、ていうか島。 運が良かったといえるのはゴミ捨て場に捨てられたところを流星街で暮らしてながいことになるジジイに拾われたことだ。 なにもかもが突然の出来事だった俺に、この街が一体どういう場所でどういう人間が住んでいるのか、そしてどうやって生きていくのかをみっちりと教えてくれたのがジジイだ。 生きていく為の手段として『念』とやらを俺に叩き込んでくれたのもジジイだ。 おかげでしがないサラリーマンだった俺は今じゃ念を使える元サラリーマンだ。 10年ほどしてジジイがぽっくりと逝ってしまい、それまで色々教えてくれたことにも一応感謝はしていたのでジジイがやっていた仕事は俺が引き継いでやっている。 流星街における情報屋と仕事の斡旋所を経営していたジジイの跡を継いではじめて知ったのだが、俺が当時付き合っていたあのグラマラスな彼女は某有名なマフィアの愛娘だったらしく(しかも他ファミリーの婚約者付)俺はそれを知った途端、命があるだけ助かったと心底安堵のため息をついたものだ。 まぁ店にやってくる連中をそれなりにあしらいつつ今までやってきた俺だが、まさか他人に仕事を斡旋する俺に仕事を斡旋してくる奴がいるとは今まで露とも思わなかった。 「で、お嬢ちゃん。名前はなんていうんだっけか?」 「って言います、ミツヒデさん。プッ!」 「オイコラソコー!人の名前で笑わない!」 「す、すみません、プッ!だってミツヒデだって、プッククク!」 「腹の立つ娘だナァおい。何も教えてやらねぇぞぉ」 人の名前を聞いても笑い、口に出しても笑う少女(しかも赤ん坊付)をしばらく預かって世話してやってくれとそれなりに世話になった教会の神父に頼まれてしまったのだ。 聞けば気付いたらいつのまにかゴミの中に突っ立っていてガン○ムを取りそこねてしまったのだ、とかフルフェイスマスクの女に赤ん坊と自分の持っていたバックとを交換に置き引きにあったのだ、とかとりあえず5キロほど前にいた人たちのあとをついてきてこの街にやってきたのだ、とか話を聞いてやって。 そして、簡潔に俺はと名乗った少女に言ってやった。 「ここは流星街、何を捨てても許される街だ。まぁお前も誰かに捨てられたクチだな」 「えー・・・私誰もイジメしたこともされたこともないんだけど、ミツヒデさんと違って」 とりあえず腹が立ったので頭を軽く殴ってやった。 「とりあえず一応神父に頼まれたから面倒は見てやるが、何よりも先にお前はまずハンター語を覚えろ。読めるようになれ、書けるようになれ、話せるようになれ。まずはなんにせよそこからだ」 「ハンター語?なに、それ。つかさっきから聞いてりゃ流星街だのなんだのとハンターハンターの世界みたいじゃないのさ。つかなに、ここもしかしてテーマパーク?他にもナルトとかのテーマパークとかあったりするの?」 「ハンターハンターってお前、なんでハンターの職業を二回続けて言うんだ?第一ハンター語を本当に今まで知らずに暮らしてきたのか?ハンター語を知らないのにハンターっていう職業は知ってるのか?」 テーマパークだのなるとだの訳のわからない事ばかりいう少女に質問を続けて投げかけると、少女は「え」と一度言葉を発したきり黙ってしまった。 心なしか顔色も悪い。 「ミツヒデさん、ヨーロッパ大陸だとかアメリカっていう国だとか知りませんか?」 「よーろっぱ?あめりか?大陸だったらヨルビアンってのはあるが、あめりかって国は聞いたことネェナァ」 「も、もしやパドキアとかいう国とか東ゴルドーとかいう国はありますか?」 「お前日本語しか喋れねぇわりには東ゴルドー共和国なんて国、知ってるのか?あそこの国の情報はほとんど表にゃ出回ってねぇはずなんだがなァ」 えらい変わったお嬢さんだなおいと椅子の背もたれにぐったりともたれかかり首をゴキゴキ言わせながら目の前に赤ん坊を抱えたまま座るお嬢さんに目を向けていると、先程から段々と悪くなってきていた顔色がここにきて本当に真っ白というか真っ青になってきた。 顔が少しうつむき加減だがその状態のまま目の玉も右へ動いたり左へ動いたり、口も無駄にパクパクとまるで金魚が空気を求めてるかのように動かしている。 「お、おい。っつったっか、どうし」 「ミツヒデさん、私ものすごく大変なことになりました。ていうかヤバイ、今度こそ本当に泣いちゃいそうかも。なんだこれ、ありえねぇだろうがよオイ。誰が私をこんなところにやりやがった、よりにもよってハンターハンター。どうせどっかに飛ばされるんだったらそこそこ危なくないコナンだとかの世界にしてくれよ。しかもさらによりにもよって流星街、ありえなくない?捨てられた、そう捨てられたのね私。つか誰に捨てられたかっていうともうなんちゅうか神様?みたいな?」 「喋りきって満足したかよ、オイ」 「ちょっとまだ喋り足らないんですがとりあえずもういいです。ところで私の話、聞いてくれます?ちなみに聞いたら問答無用で色々とお世話になりますからよろしく頼みます」 「いや、ちょっとまて。なんだその不吉っぽい言い方は!待て、聞くかどうかは俺が決め」 「いやぁそうですか、聞いてくれますか。良かった良かった」 「俺の話を」 「あのですね、実は私普通の人間じゃありません」 人の話を聞かない、自分が満足するまで喋り続ける、人の話は思い切り途中でもぶった切る、あぁお前は充分普通じゃねぇよ、このジコチュー女! 俺の話をまったく聞こうともしない目の前のやつの話はとりあえず突拍子もなかった、とだけ答えておこう。 信じる信じないだのはどうでもいい、と青い顔してやがったくせにそう言う少女に「知り合いなんて誰もいないんだろう。独りぼっちのくせに何故そう言えるんだ?」と問えば、アイツは青い顔したままうっすらと微笑んで俺にこう言い放った。 「ここは何でも捨てても許される場所、私も赤ん坊もとりあえずもうゴミの一員。帰る方法なんて知らないんだし、所詮もうミツヒデさんと同じゴミ扱いだからね」 こいつ、今まであってきた奴のなかでも度胸の度合いが飛びぬけてやがると瞬間に悟った。 それだけじゃない、頭の回転の速さ、生きていくうえでの根性、どれもが飛びぬけている。 異世界の女だから?違う、こいつは生まれつきこういう性格なんだ。 「うんまぁそういうわけだから、この赤ん坊と一緒にお世話になります(下手したら一生)」 前言撤回、こいつ度胸があるんじゃない、単に図々しいだけだ。 |