「あ・つ・も・り・くん、あたしと一緒におデートしない?」
梶原景時邸の屋根の上、そこは今までにあたしが出会ったことのない『儚げボーイ』そのものである平敦盛くんの定位置だ。
望美御一行様はとにかく面白おかしいメンバーで構成されていて、今まで遭遇したことのない類の人間が多かった。
某腹黒はさておき、とにかく女を見たらくどかずにはいられなくなるらしいスパッツに恐らくあたしで言うところのシルバの位置に存在するのであろう眼鏡ストーカー、そしてそんなストーカーを自身の視界から排除しようとするその兄、妹の尻にしかれっぱなしで将来性ナッシングな腹チラ、ちょっとその重たそうな頭じゃ身軽に跳ぶことはできないんじゃないのと本物かどうか疑ってしまいたくなる歴史の英雄、体は好みだけどあまりにも無口すぎてこっちがいたたまれない気持ちになってしまう金髪。
いつぞやかによくそんなメンバーで今まで旅してきたものだねとこぼしたとき、朔に笑顔で握手を求められた。
そしてぶっちゃけこの望美御一行の紅一点だと信じて疑わない平敦盛くんはとにかくメランコリックな感じがそこはかとなく漂う食指が思わずもぞもぞと動いてしまいそうな美少年だ。
ただ彼はスパッツや腹黒なんぞとは比べものにならないくらい恥ずかしがり屋さんのようで、二人きりになったことがなければ皆がいるところで話しかけても望美の後ろに隠れられてしまうという徹底振りだった。
ちょっとロンリーな気持ちにさせられる彼の行動が望美の助言によるものだとは露知らず、今まで果敢にアタックしては無残に散り続けていたあたしに今日、とうとうチャンスがやってきた。
望美は朔やそのほか諸々と一緒に坊主に呼ばれたのどうのとかで出かけていき、さらにお留守番組のメンバーは各自勝手に散り散りになっている。
同行の誘いに首を横にふった敦盛に対して最後まで望美は心配そうな顔をむけていたが、彼女がいない今、あたしの前に立ちはだかるものはいない!
「っ殿!?」
「はいな。ねえ、敦盛くん、おデートしようよ。望美たちもいないしゴンくんもいないし時間あるでしょ?」
屋根に腰掛けていた敦盛くんの隣にストンと腰掛けて首を傾げればやはりいつものように困った顔をされてしまう。
といっても今日はいつもの逃げ場所、望美の背中はないからあたしから逃げることはできないようだけど。
「お、おでぇとっていうのは一体・・・いや、そもそもあなたはどうやってここに・・・」
「おデートっていうのは男と女が一緒に二人で遊びに出かけることかナァ、ああホラ、逢引ってやつ?」
「あ、あ、あ、逢引!?私とあなたがか!?」
「うん、君とあたし。いくらあたしでもスパッツとか腹黒とはおデートしたくないもん。ね?一緒に行こうよ」
心底驚いてる顔も可愛いナァと見ていれば顔の色が真っ赤になってそしてすぐにいつもの青白い色へと戻っていくのがわかる。
おやと不思議に思ったところ彼は俯いてしまい、とても言いにくそうに口を開いた。
「あ、あ、逢引は私とではなくゴン君と行くべきではないだろうか?」
「やだなぁ、敦盛くん。ゴンくんに遠慮なんてしなくていいのよぅ」
「え、遠慮など・・・ただあなたとゴン君は、その、愛し合っているのだろう?なのに私となんか・・・」
ゴーンリーンゴーン。
頭の中にチャペルの鐘の音が響き渡る、ついでに白い鳩たちがバッサバッサとはばたいていく、もちろん地面はお花畑。
これぞ、メルヘンゲットォってやつじゃなかろうか。
しかし、鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス、頷かぬなら頷かせてみよう儚げボーイってなもんだ。
「敦盛くん、君は知らないんだね。あたしや望美の世界では男が女を囲うんではなくて女が男を囲うのよ!!」
「え・・・」
「一妻多夫は常識中の常識!かのタリア・グラディス艦長だって緊急発進のミネルバの中で昼夜堂々息子までいるっちゅうのにかつての恋人と愛を交し合っていたのよ!沙織お嬢様なんて常に超度派手な男たちが周りを固めていたし!!」
「あ、あの、殿?」
「極めつけは望美よ、思い出してみなさい敦盛くん!彼女の横には常にストーカー眼鏡、もとい譲とその情けない兄である将臣がいるでしょ!両手に花、いや両手に男、これがあたしたちの世界での常識!」
どーんと拳を握り締め熱弁をふるってみる。
あたしの言葉に敦盛くんは何か気付かされたとばかりにただでさえ大きく綺麗な目を見開いてあたしの顔をじっと見つめてくる。
ああ、そんな綺麗な顔で見つめられちゃったら・・・・
「ごめん、敦盛くん!『頷かぬなら頷かせてみよう儚げボーイ』作戦から急遽『頷かぬなら無理矢理頷かせちまえ儚げボーイ』作戦に移行します!」
「な、なにをッ!?・・・・うわっ!!」
ひょいとばかりに敦盛くんの体をお姫様抱っこで抱え挙げるとあたしはそそくさと屋根から飛び降りる。
驚きあたしの腕の中で声をあげる敦盛くんにニッコリと微笑みかけると
「いざ行かん!初デート!」
望美の気配のする方向とは真逆の方へ、すたこらさっさと足をすすめた。
「たっだいまー!敦盛さーん、あなたの望美がかえってきましたよぉ!」
白龍の神子は狸坊主とのお茶会もどきを早々にきりあげ、ぞろぞろとお供をひきつれて景時邸へとようよう帰宅した。
玄関先で声を張り上げ留守番を任せていた少年の名前を呼ぶが、一向に望美の前に現れる気配がしない。
あれ、と望美はそのまま家の中に入らずに庭先へと足を向ける。
庭先だと敦盛が名前を呼べば屋根上からすぐに駆けつけてくれるからだ。
「敦盛さぁん、あなたの望美ちゃんですよぅ」
「先輩は僕の先輩じゃないんでゲフゥ!!」
「図々しいにもほどがありますよ、譲くん。フフ・・・」
敦盛さん、敦盛さん、敦盛さん。
望美はひたすら可愛くて仕方のない少年の名前を呼びながら家の中、外と走り回った。
一向に彼女の前に現れてくれない少年の身になにか起こったのではと、ようやくそこで同じようにの姿がないことに気付いた望美は顔をさぁっと青ざめさせた。
「大変!全員集合!なにがなんでも全員集合!!」
甲高い声で叫ぶ望美の声に一人、また一人と下僕、もとい八葉たちが姿を現す。
「事件です!敦盛さんがさんにかどわかされました!ホシは敦盛さんを連れて逃走、下手したら敦盛さんの貞操の危機ですっ!!」
「て、貞操!?のぞ、のぞ、望美っ!おなごがそのような言葉を」
「ちょっとそこ五月蝿いよ、九郎さん!とにかく敦盛さんの身が大変危険です!さんの毒牙にかかりかけていますッ!あってはならない事態です!あたしたちは早急に敦盛さんを保護しさんを逮捕しなくてはなりませんっ!!」
「先輩かっこいー!ヒューヒュー!」
「さあ白龍!敦盛さんの匂いを辿るのよっ!!」
誰一人口を挟めないまま(約一名望美をはやし立てているものがいるが)望美主催による『踊る大捜査線〜敦盛さんを助け出せ!』が大々的に行われようとしていた。