そろそろ行こうかとまずクラピカとレオリオが執事たちの住まう館を出て行った。
行きしとは違いキルア奪還という目標も達成できたこともあって足取りは軽かった。
その後をレオリオとなにやらワイワイ騒ぎながらキルアが執事達を見向きもせずに出て行く。
まあ見向きもしなくてよかったとは思う、なんせゴトーはいまだあたしの背中でメソメソと泣いていたから。
ていうかキルア、愛しのキルア、お前はばあちゃんに何も言わずに旅立つ気かい?ゴトー以上に泣いちゃうよ、あたしゃ。
それともなんだい、これから先もずっとあたしが一緒だとでも思ってるのかい。
そんな無謀なこと、とてもじゃないけどヨークシンとかG.Iでできやしないよ!
もし一癖も二癖も三癖も・・・・っていうか無限大に癖がありすぎな蜘蛛の連中の母親があたしだなんてキルアにばれちゃったら、絶交どころか・・・・そんなこと考えただけでばあちゃんフラっと倒れちゃいそうだよ。
それに悪いけどゴリラババアにはまだ会いたくないのよ、ばあちゃん、奴にニセモノの情報つかまされたことまだ根にもってるんだからね!

ていうか、ゴトーうぜぇ!

「ゴンくん!」
「なあに?ムクロさん」
「キルアのこと、よろしくね。あの子、とってもわがままプーで自意識過剰の子猫ちゃんだけどこっちがハラハラするくらいに君のこと好きなの。その気持ちが恋愛に発展するかっていわれるとなきにしもあらずっていうかそんなのさん反対しちゃうけど、ほら、なんせあたしってば『キルゴンキル』っていうよりも『あたしキルア』でいいんじゃね?って思ってるから、あ、勿論『あたしゴンくん』ってのも大歓迎!」
「ムクロさん、わけわかんないよぅ」
「うん、まあとにかくさっきの話は軽く忘れて、キルアのこと宜しくお願いしますって話。きっと迷惑かけると思うけどそばにいてあげてね?」

いまだ背中に張り付いたままのゴトーを放ってペコリとゴンくんに向かって頭を下げる。
先に出て行った三人の姿はもうかなり先を歩いていて、恐らくあたしの言葉なんて聞こえてやしないだろう。
勿論それでいい、こんな台詞キルアに聞かれたら顔を真っ赤にしてそっぽ向かれてしまう。

「どうして?どうしてそんなことオレに言うの?」

さも不思議そうに首をかしげて尋ねるゴンくんに、ああやはりこの子もあたしが一緒について行くものだと思っていたのだと理解する。
どうしてそう思われているのかはわからない、クラピカやレオリオたちと合流したのもつい先程のことだというのに。
思わずおかしくなってしまって声にはださないものの顔がにやついてしまって仕方がない。

「ムクロさんもオレたちと一緒に行くんでしょ?キルア、さっき楽しみだって言ってたよ?」
「あたしは一緒に行かないよ。ゴトーもこんなだし」

そう言ってあたしの背中にへばりついているゴトーの姿をホレとばかりに体を少しよじらせてゴンくんに見えるようにしてやる。
いい年こいた男が情けない、コイツはやっぱり一度エステメルダに回収して調教しなおしてもらったほうがいいのではないかとさえ思う。

「それにこの先の本邸に用事もあるの。戻ってくるのがいつになるかわからないのに君たちはあたしを待ってるつもり?」
「うっ」
「観光ビザだけでパドキアにいるんでしょう?そ・れ・に、君とキルは良くても後の二人はどうするの?」
「どうって・・・」

やっぱり何も考えてなかったようで、困ったように眉を八の字にしたゴンくんの頭にそっと手を乗せてみる。
どうやったらこんな剛毛になるんだろうとなかば感動しながらもしゃもしゃとその頭を撫でてやればくすぐったそうにゴンくんがぎゅっと目を瞑る。
ああかわいいああかわいいかわいいかわいい。
エンドレス。

「じゃあムクロさんとはここでお別れ?」
「そう、ここでお別れ。今生の別れじゃあるまいし君もあたしも成り行きとはいえハンターになったわけでしょ?いつかどこかでばったり出会うことになるわよ」
「そっか、うん、そうだよね!」
「そうそう、あとでキルにあたしの連絡先でも聞くといいさ。ゴンくんなら大歓迎、いつでも連絡してくるといいさね。ラブコール・・・うふふ、いい響きィ。ってあーもう、まじうぜぇ!ゴトーいい加減離れな!!」

ブンブン背中を振り回してみるも引っ付き虫の如くペタリとゴトーは張り付いて引っ剥がすことができない。
ああもうこのやろうと心の中で散々罵りながら、バイバイとあたしに向かって手を振って館を出て行くゴン君にあたしもその手をふりかえしてやる。
彼の小さな背中が見えなくなったところで、自分の名前はドS女王のムクロさんではなくてだと訂正するのを忘れていたことを思い出した。

「ま、いっか。キルが言ってくれるでしょ」
うっうっうっ、様ァ
「ゲロッパ、本当勘弁して・・・ねえ、カナリア。ちっとも離れてくれないから本邸にコイツ貼り付けたままでいいから向かうことにするわ、こいつの仕事はこいつが離れても大丈夫?」
「あ、はい!多分・・・」

自信なさそうに、というよりもゴトーのありえない姿に戸惑いながらカナリアはあたしの背中になるべく視線を向けないように返事を返す。
するとちょうど奥の部屋から顔をのぞかせた執事の一人が言いにくそうにあたしの名前を呼んできた。

「あのぉ、奥様はいらっしゃるんですけど旦那様は只今行方不明だそうです・・・・」
「・・・・・・・・・あァん?
ヒィ!いえですからその、奥様はティータイムのお時間ですのでカルト様と一緒にいらっしゃるんですけど・・・だ、旦那様はキルア様を見送ってから行方不明だそうで」

うふふあははえへへおほほ。
頭の中をいろんな笑い方が駆け巡っていく。

「シルバが行方不明?」
「・・・・・・な、なんでも慌てて専用の飛行船に乗り込んでどこかに行ってしまわれたみたいで・・・我々は誰も行き先を聞いておりませギャー!!
「あらいやだ、シルバったらもう!鬼ごっこはスタートしちゃってたのね、さんってばウッカリさん♪うふふあはは。なら早く鬼になってシルバを探しに行かなきゃ・・・」
ヒィ!お、お、お、奥様から様にお茶会のお電話がは、は、はいっておりまするぅ!」
「あ、そう。じゃあお茶会には参加するって伝えて?多少そのとき本邸がぶっ壊れちゃうかもしれないけどこっちにまで影響及ばないようにするから」

安心してね。
そう言ってにっこり笑ったあたしは背中にゴトーを貼り付けたまま、娘と孫とのお茶会に向かうべく本邸へと続く藪の中へと足をすすめた。
途中どこかでたまりに溜まったストレスといらだたしさを発散させないとと計画をたてながら。
















「ええ!ばあちゃん、一緒じゃないのかよ!!」
「うん、ムクロさん、やらなきゃいけないことがあるんだって。えへへ、キルアをよろしくねって頭撫でられちゃった」

そう言ってゴンはくすぐったそうに笑いながら自分の頭に手をやった。
ぶすっと両頬をハムスターのように膨らませたキルアはそんなゴンをみてムカっときたものの、それ以上にと一緒じゃないことのショックが大きくつまんねぇのと小さく呟いた。
折角ゾルディックの家を出られたのだ、大好きなばあちゃんと一緒にずっといれると思っていたのだ。
その期待をあっさりと打ち砕かれ、しかもよりにもよって本人のにではなく、ゴンにだ。

「でもラブコールはいつでも大歓迎って言ってたよ?早く携帯買わなきゃね、キルア!」

そんなキルアの複雑な気持ちなんて露知らずにっこりと笑いかけてくるゴンにキルアは「この天然ちゃんめ!」とあっさり白旗を掲げた。
落ち着いたらばあちゃんを探すのもいい、きっと大冒険になるぞとゴンに話しかけながらキルアも笑おうとしたところで




ちゅどーーーーーーん!!!!




なぜかバックの死火山だと思われていたククルーマウンテンが大爆発を起こした。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・ねえ、キルア」
「・・・・・・なに?」
「・・・・・・おうち、大丈夫?」
「・・・・・・わかんね」

それはキルアの正直な感想だった。