膝枕というのは大変心地がいい。
特に女の子の膝というか太ももはやはりふんわりして気持ちがいいものだ。
久しぶりに流星街に帰ればたまたま子供達も数人里帰りをしていたようで、その中にパクノダの姿を認めあたしは必死に膝枕してほしいと頼み込み、ようやく今至福の時間を味わっているのだ。
しょっちゅう流星街に入り浸っているフィンクスやノブナガはミツヒデさんの仕事を手伝うか適当にブラブラしているのだろう。
マチは一人がけのソファでビール片手にぼうっとしている、どこかその姿はそこら辺の男よりも男らしい。
ちなみに体の方も男らしいに程近くマチの太ももはちっともふんわりしていない、膝枕の対象外である。
最後の帰省組、シャルナークは先程からパソコンをぱちぱちはじいていてすっかり自分の世界に入り浸っていた。
そんなのんびりとした時間が流れていたとある日の午後、事件は起こった。
「あーっ!!エドシティで期間限定色Veeが売りに出されてる!」
折角ウトウトと午後のまどろみをシャルナークの大声でぶち壊された。
ぶち壊されたのはあたしだけではなく同じようにウトウトしていたパクとマチも一緒で、大声の発生源シャルのほうを睨みつけている。
そんな美女二人の睨みもなんのその、シャルは一人ディスプレイの前で頭を盛大に抱え込むともうすぐ発売時間だとかこれは欲しいとか一人でなにやら悩みこんでしまっている。
しかしすぐにちらりとあたしの方に首を向けると何かを思いついたかのようにニヤリと笑みを浮かべ、ずりずりとハイハイの要領であたしとパクのところへやってくる。
「ねえ母さん、オレお願いがあるんだけど」
「しらじらしいわよ、シャル」
「パクには頼んでないじゃん。ねえ母さァん、エドシティでVeeの期間限定色が発売されるんだよぉ。オレのVee、この間フィンクスが壊しちゃったんだ。買ってって言わないから今すぐエドシティに連れてって〜」
上から覗き込むようにではなく、下から上目遣いで頼み込んでくるところがシャルの手管だ。
多分このままホイホイ返事して連れて行けば恐らく自分で買わずにあたしに買わさせるに違いないのだ。別にVeeくらいならそんなに高くもないし構わないのだけれど。
「そんなこと言って、どうせ母さんにたかるんでしょ!シャル、いつものことじゃないの!」
「パクの言うとおりだよ。母さん、こいつのことなんて放っておきなよ。この間みたいにバカみたいな請求書がまた来るに決まってんだ」
娘たちが厳しい。
「なんだよ、パクとマチには頼んでないだろぉ。母さんにオレは頼んでるの!母さんに買ってとも頼んでないし!」
「シャルは信用できない」
「パクに同感」
「なんだよなんだよ!!ねえ、母さん・・・」
昔もとの世界ではやった白チワワのCMが頭の中をよぎった。
思わずうんと頷いてしまいそうになるところでギリギリと太ももをパクに抓られて、首を横にプルプル振るしかなくなる(痛みで)
ブスっとどこか怒ったような表情になったシャルはこれだけは使いたくなかったのにと呟くと
「ママァ、おねがぁい。オレ、どうしても欲しいんだァ」
最終手段に出てきた。
あたし?そんなの勿論
「おしきた、シャル!母さんがその願い叶えてしんぜよう」
陥落させられたに決まっている。
そんなあたしを見てパクとマチは盛大にため息をつき、パクにいたっては先程よりもはるかに力をこめて太ももを抓ってきている。
「あ、イタ。痛い、パク、すんごい痛い、あ、いたいたた」
「仕方ない、シャル!あたしもついてくからね、母さんとアンタだけだといくら金を使い込むかわかりゃしない」
「えー・・・」
嫌そうな顔をしながらこれまた嫌そうな声をあげるシャルにマチはやっぱり自分で払う気なかったんじゃないかと冷たい視線を投げかけた。
勿論マチとシャルが言い合いをしている間もパクの指をあたしの太ももをギリギリと抓り上げている。
このままだとあたしの太ももの肉がちぎり取られてしまうかもしれない、なにせそんなことパクにとって朝飯前なのだから。
シャルもマチが同行することに渋々ながらも同意し、あたしはようやくまっかっかにそして内出血しまくりの太ももをさすりながら立ち上がる。
「では、いざエドシティへ!」
無差別鍵束【世界は全て私のもの】を作動させ行き先を告げるとすぐにピンポンパンポーンと一般家庭の家には場違いな音が聞こえてくる。
行き先は繋がったようなのでドアを開けシャル、マチの順番で潜り抜けていき最後にあたしがドアを閉めながら敷居を潜る。
しかし繋がった先はエドシティに用意したホストクラブ通い用のマンションのはずなので踏みしめるべき床はフローリングのはずであるのに、何故かやわらかい。
おや、と思い下に視線をずらせば見えるのはフローリングではなく青々とした畳。
「あり、なんで畳…」
「つか母さん、ここどこ?」
「こんなとこ、ジャポンにあったっけ…」
い草のきめ細かい目をジィっと見つめていると、どこからか男の野太い声がいくつもいくつも聞こえてくるのがわかる。
再びおやと顔を上げてあたりを見渡せば、明らかに自分の契約しているジャポンのマンションの室内ではない。
「曲者だァ!曲者が城内に侵入したぞぉ!!」
「出会え出会えぇ!」
「上様に報告しろぉ!ついでに蘭丸様にも報告しろぉ!光秀様には報告するなぁ!!後が怖いぃ!」
「曲者ォ!」
ガヤガヤした男たちの声とバタバタと慌ただしい音が近づいたと思ったら、あたしたち三人がつったっている部屋の周りにある襖がスパパパーンと一斉に左右に開き
「なに、これ」
槍やら刀やらを構えた武士もどきや足軽もどきがあたしたちを取り囲むようにして立っていたのである。