「迷子で捨て子ぉ?なァにふざけたことを」
「ふざけてるように思う?いやぁ、やっぱり普通は思うよね思う、うん。あたしもそれが当たり前だと思うわ」

ごきゅごきゅとコーラの中身を飲み干したく転校生はふざけたように笑いながらオレのほうに顔を向ける。
訳がわからない、まったくもってわからない。
オレの正体を知ってる、酒みたいなコードネームを持つ黒の組織を知っているような素振り、そしてその二つを結びつける関係性をも知っている。
親父たちから、というわけでもなさそうで。
ましてや博士や灰原から漏れたというわけでもない。

「まぁまぁ、そんな深く考えなさんな。人間何事も一直線に考えるのが頭皮にも精神にも一番」
「オレが必死こいて隠してる事をサラリとばらされて深く考えずにいられるか!!」
「アハハ、それもそうかも!いやだっていい年した高校生が必死こいてぶりっ子してるの見てたらおかしくってさ!!思わずちょっかいいれたくなるっていうか?」

服部から漏れたということもありえないけれど、まるで服部みたいなことを言う転校生によっぽどカチンときたオレはゴンと手に持っていたプルの空いていないコーラの缶を転校生とオレの間のスペースに思い切って振り置く。

「で?」
「で、って?」
「何がしたいんだよ、テメーは。脅しか?脅迫か?ああ!?」
「脅しも脅迫も一緒だよ、工藤くん。冷静そうに見えて意外とてんぱってるね」

アハハと笑う転校生はベンチの上に置かれたプルの空いていない缶を手に取ると、右手の人差し指を突き立ててグルリと缶の淵をなぞる。
なにをやってるんだと口を開く前に転校生がなぞった缶の淵、つまりプルがついたまま缶の上蓋がまるで鋭いナイフで切り取られたかのようにポロっと落ちる。

「はい、こういう缶って爪が伸びてないとあけにくいよねぇ」
「あ、どうも・・・じゃねえよ!い、今おまえ、な、なにを」
「おお、またいい感じにてんぱってる。手品手品、ちょっと指先に力をいれれば何でも切れるさね」
「切れるさね、って普通切れねえよ。手品でもねえだろ、オイ」
「さあ?怪盗キッドだってきっと気合いれたらできるよ、これくらい。トランプでプシュっとか、アハハ」

何がおかしいのかわからないが転校生にしてみれば何かがおかしかったのだろう、受け取ったコーラの缶を受け取って口をつけようとしてピリと唇に痛みが走る。
少し感じる鉄の味に余りにも綺麗に切れているアルミの切り口が唇を傷つけたのかとペロリと舌で鉄分を舐めとる、
これじゃあ危なくて中身が飲めねえじゃねぇよとため息をついて転校生にやるとばかりに缶を差し出す。
気付けばあんなにこの転校生のことを警戒していたはずのオレはすっかり転校生のペースに巻き込まれていて、いい感じに遊ばれている。
そう遊ばれているのだ、オレは。オレが。工藤新一ともあろうこのオレが。

「くっそ、さっきから話がちっとも先にすすまねえわ先が見えねえわ!!親父みたいなやつだな、転校生!!」
「いやん、工藤優作みたいだなんて恐悦至極。でもあたし、きっとキミのお父さんみたいな腹黒じゃないよ。あたしは根っから単純ヤロウだもの、ぐるぐると色々考えたりしない。自分が動きたいように動いて生きてきた」
「・・・ああもう!おまえ、まじでよくわかんねえヤツだな!つかなんでオレの親父が腹黒だって知ってるんだよ、アイツ外面だけはいいんだぞ?」

きっと手に何かあればそれを目の前で笑みを浮かべたままの転校生に向かって投げつけていたに違いない。
いや、実際履いていたスニーカーを脱いででも投げつけようと手を伸ばしかけていた。

「ナイショ!」
「かわいこぶっても可愛くねえんだよ、このやろ!蘭のほうが数倍可愛いんだよ、このやろ!」
「うっわ、それをあたしじゃなくって本人に言ってみなよ。ま、ムリだろうけど」

やれやれとばかりに肩をすくめて首をふるふると横に振る転校生にお前にオレの何がわかるってんだと睨みつけてやったところで群れに群れた女の群集の中からヘロヘロと蘭がこちらに戻ってくる。
園子の姿はまだ見えず恐らくまだバトルってる最中なのだろう、アイツは本当にお嬢様なのかと呆れてものが言えない。

「おかえり、蘭ちゃん。お疲れみたいだね、コーラでよかった?」
「ありがとうちゃん・・・コナンくんと一緒にいてくれたんだね、園子ってばしょっぱなからアクセル全開で飛び込んでいくんだもの」
「園子ちゃんらしくていいんじゃない?それより蘭ちゃん」

なあにとばかりにオレの隣に腰を下ろしていた蘭はオレを挟んで隣の転校生にコーラの缶に口をつけたまま首を横に少し傾ける。
ああ可愛いぜ蘭とばかりに見ていたオレを転校生はニヤリと見下ろして

「コナンくんが蘭ちゃんにどーーーしても言いたいことがあるんだって。ね?」

フっと鼻で笑った。口じゃねえ、鼻でだ。

「ええ、なに?言いたい事ってなあに、コナンくん。というよりも二人で何の話してたのよ、もう!」
「ええ、あたしの口からはとてもとても・・・コナンくんに聞いてみるといいさね!」
「さね?ちゃんってば面白い語尾をつけるのね」

ぶりっこはオレじゃなくてお前だ。
ジロリといまだニヤニヤ笑っている転校生を睨みつけてみるものの、どっちが優勢か、言うまでもない。

「で、なあにコナンくん?」
「ほらほらコナンくん。あたしじゃなくってやっぱりここは本人にドーンと!ドーンと!

その後で転校生が小さく「当たって砕けちまえ」と呟いたことはさておき。
オレの質問に一つも答えてもらっていないこと、オレは忘れちゃいないんだ。帰るまでに何が何でも、どんな手段を使ったとしてもだ。
たとえそれがキック力増強シューズでつい蹴ってしまったサッカーボールだったり、何かの手違いでヤツの首に絡まってしまった伸縮サスペンダーのボタンをついうっかり押してしまったりだとしても。
















「っていうことがあったよ、今日」
さんってば高校生活エンジョイしてますね、ウフフ」
「ウフフって雪菜さん、ウフフって。ちゅーかさん、あんたまじで高校生やってんですかァ!?蔵馬に聞いちゃいたけど、いい年こいてセーラー服っすか恥ずかしい」
「ブレザーだよコノヤロウ。高校生=セーラー服しかでてこねえカズマくんの頭の方が恥ずかしいわカズマくん」

カズマくんカズマくん連呼しないで下さいッス、そういう和真くんの抗議はウルサイヨと呟いた静流さんの拳で露と消えた。
バーゲン会場のあったデパートを満足げな園子ちゃんを加えて四人で出た後、何故か後ろからサッカーボルやら空き缶やらがあたしの頭めがけて飛んできたり駅ビルのエスカレーターを使っていたら何故か上から垂れてきたサスペンダーが首にひっかっかってしかもいきなり縮んでついうっかりエスカレーター脇にある保護板に頭からつっこみそうになったり。

「なかなか波乱万丈でした」
「外の世界って怖いですね、私気をつけます」
「うん、気をつけな雪菜ちゃん。外の世界は怖いんだよ」
「いやいやいやいや、狙われてるのさんだけっすから!それうっかり完全犯罪狙われてますから!」

和真くんの抗議はまたしても静流さんのウルサイヨで床下へと消えていった。