「(多分)オーストラリア(ってゆーパドキアにそっくりな国)からきましたキルア・ゾルディックです・・・よろしくおねがいします・・・アハハ

季節外れの10月にやってきた転校生は何故か涙目でかわいた笑みをずっと浮かべていた。
アハハとちっとも感情のこもっていない笑い声をあげる転校生の流暢な日本語に自分の周りの外国人とやらはみんな日本語がペラペラなんだなァと沢田綱吉はぼへっと机の上で肘をつきながら転校生のキラキラ光る髪の毛に視線を向けていた。
自称右腕の隣の席に座る男もたいがい綺麗な色の髪を持っているが、転校生の髪はさらに綺麗なシルバーで教室の窓から差し込む光が反射してはちょっとまぶしかったりする。
ディーノとはまた違うキラキラ加減に綱吉は目頭が熱くなる。
情緒不安定、あのスパルタ家庭教師が我が家にやってきてからというものの自分の精神状態は常にそれだった。

(十代目、十代目!)
(・・・・なぁに、獄寺くん)
(アイツ、外からきたみたいですけどオーストラリアだしマフィアじゃなさそうですね!敵だったら爆破する予定だったんですけど)
(ぶっ!爆破!?や、やめてよ獄寺くん!そんなことしたらビアンキに)
(しませんしませんしません!!!)

名前を聞くのすらおぞましいとばかりに両耳を自分の手で押さえてブルンブルンと首を横に振る獄寺を生暖かい目で見つめながら、ああビアンキさまさまと綱吉はもう何度目になるかわからないながらも意識を遠いお空のむこうに飛ばした。
なんでもかんでもマフィアを基準にするのはやめてほしい、そう言えればいいのだが家庭教師相手では勿論、獄寺相手にすら言えないようじゃお先真っ暗かもしれないなァと転校生と同じように乾いた笑みが頬を引き攣らせる。

「じゃあゾルディックくんは」
「センセー、悪いんですけどファミリーネームじゃなくてファーストネームのほうで呼んでください。なんかもう色々思い出しちゃって切なくなっちゃうんで・・・アハハ・・・

なんだか今日やってきた転校生は自分と同じくらい不幸体質っぽいなぁと綱吉はぽかぽかした陽気に当てられなかば眠りに旅立ちそうな思考回路で感じた。
まさしく超直感、それは正解なわけだが当の綱吉にはそれが当たっているだなんて知りもしないし、それ以上に自分には関係ないことだとへらりと瞼をおとした。

「・・・ではキルアくんは・・・沢田!おい、沢田ァ!!」
十代目はお休み中だ、邪魔するな!!
「そういう時は隣の君が起こしてあげなさい、獄寺くん!とにかくだ、キルアくん、あの後ろで眠りにはいってる生徒の前の席、そこが君の席だ」
「はぁ」

遠くの世界から聞こえてくる獄寺の声と教師の声とに、ああこの転校生ってもしかしなくてもオレたちに巻き込まれちゃうんじゃないかなぁと重くて持ち上げる事のできない瞼を落としたままこれまた超直感を働かせる。
それもえてして正解といえばいいのか、ただ今この時点でキルア・ゾルディック、そして我らが主人公の二人はまったくといっていいほどイタリアンマフィアとなんの繋がりもなかった。






ただ先人はこうも言った、予定は未定。その逆もありうる、かもしれない。
未定は予定、なんて嫌な響きだろう。
その言葉はまさしく綱吉と、そしてキルアのためにあるような言葉だった。















「草壁、なんだか西のほうが騒々しいね」
「・・・並盛高校のほうで時期はずれながらも生徒会役員の交代が行われるそうです。選挙形式ではないことは確かなようですが」
「ふーん、政権交代とかいうやつ?」

草壁が肯定の言葉をかえすよりも早くソファに腰をおろす少年の口から「鬱陶しいね」という言葉がこぼれる。
少年のその言葉に肯定の言葉も否定の言葉も返さず草壁が応接室の壁際に佇んでいると再び少年の口から「うん、鬱陶しい」と今度は先程よりもしっかりとした響きを持って言葉がもれる。
草壁にしてみれば並盛高校の生徒会役員交代は大々的なものではなく至極あっさりと行われたものだけに学ランを羽織った少年、雲雀恭弥が言うような騒々しさを感じはしなかったのだが(それ以前に並盛中学と並盛高校は同じ町内にあるとはいえかなり離れているのだ)ヒバリが騒々しいといえば騒々しく、鬱陶しいといえば鬱陶しくなる。

「政権交代をするのは構わないけれど新しく生徒会役員になったヤツにはこっちのこと伝えてあるんだろうね?」

たとえ相手が高校生と自分達よりも年上の存在であっても、並盛町の全ての機関は並盛中学風紀委員の下にある。
いくらその機関をおさめる人間がころころ変わろうが構わないが、ヒバリ率いる並盛風紀委員に逆らう事だけはあってはならない。

「並盛高校の生徒会役員が決定次第連絡をいれます」
「そうして。馬鹿が役員にならなきゃいいけど」

立てた膝上に顎を置きながらヒバリはクッと小さく笑った。
綺麗な顔をしてその笑みは獰猛な肉食獣の、頂点に立つものの絶対的笑みでそれを真正面から見てしまった草壁は静かに何事もなく並盛高校の生徒会役員引継ぎが行われることを神に祈った。
ただすぐにこの世には神様なんていないんだっけとすぐに改めたが。
どこぞの教室から何かが爆発する音が草壁たちのいるこの部屋にまで聞こえてきてヒバリはどこか楽しそうにトンファーの具合を確かめながら応接室を出て行ってしまう。
その背中を見つめながら、やっぱり神様なんていねえやと草壁は小さくため息をこぼした。







草壁の願いもむなしく、その日の放課後、並盛高校生徒会は並盛中学風紀委員より独立することを大々的に宣言した。