ズルズルズルー

「なあ、転校生。一つ聞いていいか?」

ズルズルズルー

「はふはふ、はぁに?あ、幽助くん、おかわり!今度は塩ラーメンでヨロシク!」
「ぬわっ!サン、ちょっとは遠慮してくれよぉ・・・桑原だってちゃんと金払って食ってくんだぜ?」

ズルズルズルー

「なんでオレはお前と屋台なんかでラーメン食ってんだ?なぁ、誰か教えてくれ。オレはいつからお前とラーメンを一緒に食う仲になったんだ?今日は蘭がオレの大好物を作ってくれる日だったのに・・・」

ズルズルズルー

「あによー、ちゃんと今日はお金払っていくわよぉ。だいたいお客さん連れてきてあげてるのにそんな言い方ひどいわ、幽助くん」
「ひどいわぁっていつもいつも金払っていかねえサンがワリィんだろ!今日はぜってーに今までのツケも払ってもらうからな!!」
サンにまっかせなさい!!というわけで金持ちの工藤くん、支払い二人分よろしくね

ズルズルズルー

「なあ屋台のお兄さんでもいいよ、なあ!オレの疑問に答えをくれ!!オレはどうして屋台でこの女とラーメン食ってんだ!?」
「ガキんちょ、いっちょまえに悩んでんのかぁ?人生なるようになる、それがオレの座右の銘だぜ!!」
「あ、駄目だ。転校生の知り合いらしく話が通じねえ」

オレはそろそろ転校生相手に限って『諦める』というオレの辞書にあってはならない単語を認めるべきなのかもしれない。
へいおまち塩ラーメン!ガキんちょ、しっかり代金払っていってくれよな!そんなこと笑いながら屋台の男が言ってくるが最早どうでもいい。
金?金がなんだ、金よりももっと大事なものがある。
そう、例えば今日の蘭の晩飯とかオレの今日の大好物だったはずの晩飯とか、蘭の晩飯とか。

「結局蘭ちゃんのご飯なんじゃないの、いやぁねぇ・・・ませちゃってさァ」
「なんだよ、このガキ小学生のくせにいっちょまえに彼女に飯でも作ってもらってんのかよ?かーっ、イマドキのガキはませてんねぇ」
「まったくだ、彼女に彼氏が飯を食わせてるやつらもいるっつうのに・・・」
「それってオレと螢子のこと言ってる?」
「だいたいねー幽助くん、この子見た目小学生だけど実は高校生だったりするのよぅ、アハハ」
テメーーーぬわにぃ人が細心の注意を払って内密にしていることを赤の他人にあっさりばっさりどっさりバラシてやがるんだぁ!!あぁん!?

自分の器にまだ残っている中身を隣に座る転校生の頭にぶちまけてやろうかと思ったのだが、目の前にはそのラーメンを作ってくれた本人がいるわけで、オレはぐっと我慢する。
よく耐えた自分と寧ろ褒めてやってほしいくらいだ。

「ざけんじゃねえぞ、転校生!お前が黒の組織の一員じゃないのはその馬鹿っぷりでとりあえずは認めてやるが、お前がそもそも一体どういった奴なのかはオレは知らないんだからな!得体の知れない奴のくせに冗談じゃねえぞ、そのうち蘭にまでバッサリアッサリ言うつもりじゃないだろうなぁぁぁ!!・・・・・ぜぇはぁぜぇはぁ
「おら、坊主。水だ、飲め」
「わりぃ、助かった」

屋台の主から差し出されたグラスの中身をぐいっと煽れば、いい飲みっぷりだなぁと何故か笑いかけられる。
人の良さそうなその笑みに思わず「あ、ども」と言ってしまいそうになってこれまたぐっとオレは耐える。
そう、人生は耐えてこそ!生きる事はすなわち忍耐!

「で。サン、今日は何しに俺んとこ来たんだよ」
「えええ!?オレが高校生ってのは無視!?」
「やだなぁ工藤くん、この幽助くんは小さい事はまったくもって気にしない人間なんだよ。そう目くじらたてないで、ほら、あつあつのラーメンでも食べなよ、チャーシュー大盛りだよ?君の勘定だけどね」
「オレが黒の組織の変な薬でガキになったことは小さい事か!?え!?あーもうイヤだ、イヤだ!」

頭を抱え込んで屋台のカウンターに打ち付ければ、その時の反動で器の中のラーメン汁がはねてオレの手にかかる。
その熱さに思わず「あちっ!」と声をあげれば幽助くんと言われていた男はケラケラと笑いながら冷たいお絞りをさしだしてくれ、そそっかしい奴だなぁと余計な一言を付け加えてくれた。

「まぁ工藤くんの小さな悩みは置いといてさぁ」
「くそぉ転校生!オレの悩みはまったくもって小さくねぇ!!FBIをも動かす世界的大々的な悩みだ、チクショウ!!小さいのはお前のそのチャランポランの頭の中身だぁ!!」
「ギャハハ、言えてらぁサン!!ぐほぉっ!!ぶわっちぃぃぃ!!

オレが理性でとどめておいてやらなかった『ラーメンの器の中身をぶちまける』という所業をこの隣の転校生は思い切り作った本人にむけて実行した。
アツイアツイアツイと叫ぶ男に慌ててオレはさっきもらったグラスの中身を浴びせてやろうと思ったのだけれど、中身はすっからかんで。
とりあえず冷たいお絞り(使用済み)を頭にそっと乗せてやることにする。

「まあ工藤くんの小さな悩みはものっそい端にどけておいて。あのさ幽助くん、向こうに成長剤みたいな薬ないかな?鬼の王様に頼んで探してもらうとかできなぁい?」
「整腸剤?なんだよ、腹でもこわしてんのかぁ?」
「うん、そっちの整腸剤じゃなくて。だいたいおなか壊してるのは桑原くんだよ、朝からトイレに立てこもっちゃって雪菜ちゃんが朝に弱いからいいけど・・・ふっ、これでまた弱みをにぎったわ。じゃなくて!!成長剤!子供を大人にしちゃったりできるお薬、ふしぎのメルモちゃんだよ!!」
「・・・オレがメルモちゃんだって言いたいのか、転校生!?」

お絞り(しつこいが使用済み)で頭を拭いている幽助くんとやらが「そっちの成長剤ねー」とケタケタ笑いながらどうにか理解したようで、カウンターに頭をずいっとオレのほうにむかって伸ばしてきた。
突然近くなった相手の顔にオレはひゅっと息を飲み込んで、意外と整っている顔にじーっと見つめられてどこか落ち着けなくてそっと視線を外す。

「この坊主がメルモちゃんかあ!」
「そうそう、もとは高校生なんだけど悪の組織にアホトキシンほにゃららって薬を飲まされてこんなチビッコになっちゃったんだって」
「アポトキシンだアポトキシン、アホトキシン言うな!!それはお前の頭だ、転校生!!」
「へぇ、つかそういうのはオレとか煙鬼のおっさんじゃなくて蔵馬に聞いた方がいいんじゃねえの?意外とポンとメルモちゃんの薬だしてくれると思うけどなぁ・・・それにサン、煙鬼のおっさんよりも躯に聞いた方がいいんじゃね?なんだかんだで元三大妖怪じゃねぇか、色々知ってんじゃねえの?」

幽助くんとやらと転校生の話の内容がまったくもってつかめない、つかめないというより寧ろ意味がよくわからない。
蔵馬っていうのは転校生に初めて会った時に迎えに来ていた男のことだとしても、えんきだのむくろだの、それは人の名前か?と疑いたくなるような名前がポツポツ。
しまいにゃ妖怪ときた、溶解・・・なわけねえもんなぁ。

「なあ、転校生。オレ帰るからな、蘭の晩飯がオレを待っている!
「蘭ちゃんが待ってるって恥ずかしくていえないだけじゃないの?つか、人が折角君ともう一人の為に色々画策してあげてるのにナニさっくり無視して帰ろうとしてるのよぅ。平成のホームズが聞いて呆れるね」
「まったくもってそこで平成のホームズは関係ないだろが。お前に付き合ってるとオレの頭もおかしくなりそうだからオレは帰る、帰るったら帰る。だいたいそんな簡単に元に戻れる薬が見つかるわけねえだろ、馬鹿にするのもいい加減にしろよな」

苛立ち紛れに財布から一万円札を取り出すとバンとカウンターにたたきつけてやる。
幽助くんとやらが「まだ微妙にサンのツケに足りねえんだけど」と言ってきたが無視だ、無視。
隣に座ったままの転校生はオレの大きな声にきょとんとしたが、すぐに眉を八の字にして馬鹿になんかしてないよと口を開いた。
馬鹿にしてない?人のことをおちょくりまくって充分馬鹿にしてるじゃねえか。
そう言ってやろうとしたら

「だって工藤くんが元に戻れる薬が本当にありそうな場所、知ってるんだもん。ねえ、幽助くん?」
「あーうん、まあ、探せばありそうだよなァ。色々人に聞いて回らなきゃならねえだろうけどよぉ」
「ほらね。だからさぁ、落ち着いて椅子に座ってあたし達の話聞きなさいな。それに一万円じゃ足りないってのに、私の財布がいなくなったら困るじゃないの」
「・・・そっちが本音だろ・・・あのなぁ、そんな話信じられると思うか?あのアポトキシンを作った本人ですら資料がないとわからないってほど膨大なデータとか色々問題あっていまだ解決してないにんだぜ?それを・・・だいたいお前が信じられない。オレに信じてほしいってんならお前のこと何でもかんでも話しやがれってんだ」

フンと胸を張って言ってやるとカウンターに肘をついてオレのほうを見ていた転校生と幽助くんとやらが目を大きく開いて、そして次の瞬間二人揃って腹を抱えて笑い出した。
ギャハハアハハハギャハハハアハハハ、その繰り返しだ。
イラときたオレはもう一度「帰る!!」と大声をだすと暖簾をくぐって外に出ようとするが、すぐに転校生にぐいっと腕をひっぱられ椅子に座らさせられる。
ドンとしりもちをつくようにして腰をおとしたオレに幽助くんとやらはオレの空になったグラスに再び水をいれ、お前はサンの何を知りたいってんだ?と尋ねてくる。
何でも全てだ、と答えると幽助くんとやらは再び笑いだし、

「でもオレ、お前がサンの話を聞いてもぜってー信じねえと思うわ。なんせオレもサンの話、信用してねーの」

笑いながらそう言って転校生に向かって指をつきむける。
あーんひどいとか転校生が口をとがらせているがどうでもいい。
カウンター越しに笑っていながらも目まで笑ってはいない男の顔をじっと見上げる。

「なあ、お前が高校生だか小学生だか知らねえけどよぉ、サンじゃなくてオレを信用して話をすすめるってのはどうだ?こう見えて顔は広いからよぉ、メルモちゃんの薬見つけられるかもしれねえぜ?」
「アンタをか?」
「おう、見つからなかったら・・・そうだなぁ、オレのラーメンは一生タダにしてやるぜ!そんでもってだな、見つかったらお前にちぃと頼みたいことがあるんだわ」
「頼みたいこと?なんだ、依頼でもあんのか?」

謎ときに向いてなさそうな顔をしてはいるが、その謎に囚われたり遭遇しているような人間にも見えない。
ただ、転校生なんかよりはマトモそうだし遊び半分とまではいかないまでも話を聞いてもいいかなと思える男ではあったから素直に尋ねてみたのだが・・・



「いんや、んなんじゃねえよ。オレのおふくろがさぁ、怪盗キッドの大ファンなんだわ。サインもらってきてくれ、おふくろと幼馴染のと二人分!」



転校生の周りにまともな人間はやはりいないらしい。