最近の並盛中学はいつにもまして静かだ。
授業中は当たり前のことながら、休み時間も登下校の時間もとにかく全生徒が某人物に対して『触らぬ神に祟りなし・・・というかトンファーなし』なもんだから学校とは思えないほどの静かさなのだ。
獄寺くんや山本みたいな例外をのぞいて。
え、オレ?オレは当たり前ながら静かに静かに過ごそうとして

「っじゅうっだいめ〜ぇっ!!」
ギャー!獄寺くん、シーッ!シーッ!
「おーい、ツナァ!!飯食いに屋上行こうぜー!!」
ギャー!山本、シーッ!シーッ!

二人に思い切り巻き込まれてしまっているけれど。








まあなんでこんなに並盛中学がお通夜みたいに先生達も巻き込んで静まっているのかというと某人物の機嫌が底なしに悪いから、その理由に尽きる。
相当イライラしているらしく額に青筋とまではいかないけれど、パッと見ただけでどんな職種の人間でもクルリと背中を向けて逃げ出したくなるほど、とだけ言っておく。
とてもじゃないけれど真正面から見れる顔じゃない、本人に面と向かっては死んでもいえない。
で、だ。
さらにどうして某風紀委員長の機嫌が底なしに悪いかというとこれまた並盛町に流れている噂のせい、じゃないかと思う。



並盛高校生徒会、黒曜高校を傘下に!!



なんて恐ろしい生徒会なんだろう、いや決してヒトゴトじゃあない。
並盛中学にも恐ろしいの代名詞、風紀委員があるから。
けれどだ、けれど!
なんで並盛高校の生徒会が他校の、それも隣町の学校を手中におさめる必要があるんだ!
いや、これも決してヒトゴトじゃない。
並盛中学にも似たようなケース、風紀委員長がいるから。

とにかくそんな恐ろしい噂が並盛町に流れてからというものヒバリさんの機嫌は下降、下降、下降・・・
山本のように気楽に笑っていられるレベルではないくらいに下降気味。
ただ底辺がどこにあるかわからないから余計に怖いのだ。

さらには








「邪魔するよ、キルア・ゾルディックはいる?」
「ヒィ!噂をすれば影!!」

毎日毎休み時間、ヒバリさんがオレたちのクラスの現れるようになった。
現れるたびに教室のドアが壊されて、いつのまにかオレたちのクラスはドアなし教室になっていたりするのだけれどどうして誰も疑問に思わないのか不思議で仕方ない。
まあ相手がヒバリさんだからこそ、なのもしれない。
じゃなくてそうにちがいない。

「綱吉、キルア・ゾルディックはどこ?」
「あわわわわ、キ、キルアくんなら昼休み前から・・・どろん?かな?」

そんなヒバリさんのお目当てはキルア・ゾルディック。
オレの前の席に座るキラキラ眩しい銀髪の持ち主である転校生だ。
ヒバリさんのトンファーで思い切り殴られてもびくともしなかったあの転校生だ。

「チッ、今日も逃げられたか」
「わああ!ヒバリさん、トンファーがくいこんでる!くいこんでるよ、獄寺くんの机に!!!」
「テメェ、よくもオレの机を・・・ヒバリ、果たすッ!!!」
「アハハ、机ぐらいでそんなキレるなよ獄寺。ほら、キルアの机と交換しちまえよ」
「あれー山本!?なんかさりげに黒くない?!」

周りを見ればクラスメートたちはここぞとばかりに教室から避難していてだだっ広い教室にはオレたち四人だけ。
これが毎日毎日毎日毎日・・・肝心のキルアくんはといえば滅多に姿を見せることはない。
いや、実際にはちゃんと学校にも来ているみたいだし授業も滅多にさぼったりしない。
けれどなんていうのか、影が薄い。
それもオレ以上に。
あんなに綺麗で目立つ髪で女の子達にもキャーキャー言われるくらいカッコイイのに、どうしてだか影が薄い。
存在感がない。
よっぽど注意していないと授業中でも自分の目の前に銀髪頭があるのにその存在を忘れてしまう。
本人が目の前にいてですらこんな調子だから、キルアくんから少しでも目を離してしまえばどこに彼がいるのかなんてさっぱりわからない。
そうやらヒバリさんたち風紀委員のほうでもこんな調子らしくて、どうにかして捕まえようとしても存在がつかめなくては捕まえるものも捕まえることができないらしい。

「チッ、本当に忌々しいねゾルディック姉弟は。邪魔したね、綱吉」
「ヒィ!いえいえいえいえいえいえ、こちらこそお役に立てなくてすみませんでしたーっ!!」

お辞儀はしっかり90度で。
後ろで十代目が頭を下げるなんてぇとかなんとか獄寺くんがうるさいけれど、さりげに山本が羽交い絞めにしているから放っておいて大丈夫だろう。
これでヒバリさんが教室を出て行ってくれさえすればクラスメートたちもゾロゾロとまた教室に戻ってきて、ちょうどいいタイミングで授業開始の合図を告げるチャイムがなるのだ。



い  つ  も  な  ら  ね  !  !



「オレがバカンスでいなかった間にジャポンは面白いことになってるらしいな、ツナ。そこんところじっくりネトネト聞かせてもらおうか?」

さも当然とばかりにオレの椅子に座っているリボーンの姿にもはや慣れなんだろうか、驚きこそしないものの口の端がヒクヒクとひきつるのが自分でもよーくわかった。
ついでに嫌な予感もヒシヒシと感じる。
イタリア人にとって夏のバカンスは命の洗濯だ云々といって夏なんてとっくに過ぎた10月になって単身どこかへ出かけたリボーンにそれこそ解放された気分で毎日楽しく清々しく過ごしていたというのに。
もうオレのリボーンのいない生活は終わってしまうらしい。
それもいらないオマケつきで。

「チャオっす、ヒバリ。お前も面白いことをやってるらしいな?」
「・・・赤ん坊、いつもなら大歓迎なんだけどここ最近の僕は機嫌が悪くてね。構ってあげられないんだけど?」

教室を出て行こうとしていたヒバリさんの背中に声をかけるリボーンに思い切り心の中で余計な事をするなー!と叫びつつ(どうせオレがそう思っていることはリボーンにはバレバレなんだろうけども)
リボーンに声をかけられてもちっとも楽しそうじゃないヒバリさんの姿によっぽどキルアくんが捕まらない事にイライラしてるらしいということだけは察せる。
ますます転校早々、厄介な人物に目をかけられてしまったキルアくんに親近感を覚えてしまう。

「・・・嫌な親近感・・・」
「なにか言ったか、ツナ?」
「なななななにも言ってないよ、リボーン!」
「ヒバリにそこまで嫌そうな顔をさせられるなんてますます興味深いな!どこの誰だ?」

さくっとオレのことは無視ー!思い切り綺麗にスルーしてくれたリボーンにたてつく気なんてこれっぽっちもないし、もうそれにすら慣れてしまったなんて自分で言っていて悲しくなる。
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるリボーンの顔を見つめていたヒバリさんはふっと軽く息を吐くと

「並盛高校生徒会執行部会長・ゾルディック。それから、もう一人は・・・」
「・・・・・・もう一人は?」
「・・・綱吉が知ってるよ、彼に聞くんだね」
「なぁんでそこでオレにふるんですかーヒバリさぁぁぁん!!!!」

やっぱりリボーン同様余計な事をしてくれたヒバリさんにオレは打ちひしがれることになる。