「ノブナガとあたしを一緒にするのやめてくれる!?せめてシャルと一緒にしてちょうだい!」
「うわ、オレがいやだよ母さん。まじ勘弁」
「ノブナガが嫌ならヒソカでもいいよ、というよりもどうでもいいね。フン」
「マチィ!いつからあんたはそんなひねた子に!!」
「生まれつきだよ生まれつき、マチがひねてないところなんて想像つかないや」
「なんか言ったかい、シャル?」
ブルブルと横に首をふるシャルにマチは相変わらず冷たい視線を向けている。恐ろしい。
クイーンオブ流星街、その名前は一昔前までキキョウのものだったのだけれど今じゃすっかりマチの代名詞といってもいいのかもしれない。
ただクイーンの前に『短気な』くらいはいれておいたほうがいいはずだ。
ただマチと同じくらい短気な人間はこの場にもう一人いたようで。
「うおおい!蘭丸を無視するなァ!!」
でこっぱち少年は地団駄を踏みながらそう叫ぶと、手に持っていた弓矢をつがえこちらに標的を絞ってきた。
「ええ!?ちびっこってば、弓矢五本もつがえちゃってるよ!?」
「たった五本か…つまんないなぁ。こうもっと百本とか千本とかさぁ」
「あたしにそんなもん向けるなんて、覚悟できてるんだろうね?」
やはりクイーンはクイーンだった。ついでにシャルは何かと勘違いしているような気もする。
「蘭丸を馬鹿にするなぁ!これでもくらえぇ!!」
スッとちびっこが弦を引くと同時にピカーっと青白い雷が何故か城の中で発生。
雷雲もないのに発生した雷にシャルと二人して「ええ!?」と声を張り上げたものの、所詮シャルはシャルだった。
「母さん、避雷針だよ!!避雷針!!」
そう言ってあたしの体を上空に向かって垂直に放り投げた。
『避雷針になるものを探せ』じゃなくて『避雷針になれ』ってことかコンチクショウとどういった世界なのか教えてくれとばかりな青い空ではなくて赤い真っ赤な空に向かって私の体は飛んだ。
ピシャーンと自分の体めがけて落ちてきた雷に叫び声をあげる暇もなくあたしの体はプスプスと音を立てながらシャルの足元に落ちていく。
ドサリと音を立てて落ちたあたしにシンと当たり一帯静寂が支配したものの、すぐにアハハと思い切り楽しそうな笑い声が響き渡る。
「さすが母さん、母さんなら生き延びるってオレ信じてたよ!!」
グッジョブとばかりにシャルは地面にプスプスと焦げながら横たわるあたしに親指さえつきたてる始末。
昔はこんな子じゃなかった。
ママ、ママとあたしの後をついて回ったり一緒のベッドで寝たり・・・
「・・・・うまれてはじめてシャルが憎いと思ったよ、アハハ」
「アハハ!またまたぁ!」
きっとパクがここにいたら「今更よ」とクールフェイスで言われるのだ。
「母さんは育て方を間違えた云々というより運がなかっただけよ」と、ついでのように付け足して。
そして、マチはというと。
「蘭丸の弓がっ!!」
飛んできた五本+αの弓矢をまるで蝿を叩き落すかのごとく無表情で床に叩き落して、いや、叩きつけていた。
そこに慈悲という単語はない、あるのは
「蝿以下、だね」
容赦ない女王様の冷めたお言葉だけだった。
そのマチの言葉はどうやらデコ少年に思い切り突き刺さったようで、ピシャーンと雷にうたれたかのように体を強張らせる。
可哀相に白目をむいてしまっていて、しかも時間がたつにつれその目からなにやら水分がじんわりじんわりとあふれ出てきたかと思えば
「うわぁぁぁぁぁぁあああああん!!信長様ァァァァァァァ!!!!!!」
デコ少年は顔を真っ赤にして鼻をすんすん言わせながらあたし達に背を向け走り去っていってしまった。
信長様ァァァという叫び声が小さくなっていけば当たり前だけれどあたし達三人の前を走り去っていく小さな背中も更に小さなものになっていき。
「とりあえずノブナガがいるみたいだし、追いかける?」
「やっぱりさっきの、アイツの隠し子かな」
「どうでもいい。ったく、さっさとこんなところからずらかるよ」
機嫌の悪そうなマチの一声にあたしとシャルは背筋をシャンと伸ばして元気の良い返事を返し、デコ少年が消えていった廊下の先へと足を進めていく。
一人ズタボロの格好をしているあたし(ただし原因は敵うんぬんではなくてシャルナークだけれども)の隣をうんざりとばかりに猫背になって歩くシャルナーク、そしてその後ろを思い切り機嫌が悪そうに歩いていく女王マチ。
あたりは髑髏やらマグマの世界から再び日本のお城のような雰囲気へと変わっていたけれど、人の気配はまったく感じられずただ三人揃ってさっきのデコ少年が通ったのだろう道程を歩いていく。
きちんと掃除が行き届いているのだろう、塵一つ見当たらないピカピカの畳の上に点々と続く泥の足跡。
ところどころ壊れてしまっている襖もあったりで、あのデコ少年は相当わき目も振らずにここを走り去ったに違いない。
三人の間に会話もなくただ黙々と歩いていけば、なにやら今度は広間のようなだだっ広い場所へとたどり着く。
広間の先には上の階に続いているのだろう階段、しかしその階段の前には先ほどのデコ少年のように行く手を遮るかのように堂々と仁王立ちをする人影が。
それも一つではなく、二つ。
「待て待て待て待てェい!!」
「ここから先、何人たりともお通しする事はできませぬ!!」
「おらぁ!この前田利家の!うおおおっ! 天下一の豪槍、受けてみろお!」
「前田が妻、まつにござります。さあ、お覚悟なさりませ!」
ビシリ!
ビシリ!
目の前に立つ二人の獲物があたし達三人に向けられ、ているのは構わないんだけども。
「なんで二人の右手と左手が繋がってるわけ?しかも、新体操?」
「おかしい!二人の背景にどでかいピンクのハートが見える!!しかもハートの中に最強夫婦とか文字まで入ってる!?」
「・・・・・・・ウザいのがまた出たね・・・母さん並にウザイ」
ああイライラするなんていうマチの小さな呟きと舌打ちにあたしはヒィと心の中で悲鳴をあげながら、シャルナークと二人、だだっ広い広間の入り口で呆然と立ち尽くすのだった。
織田家乗っ取り第一戦 VS森蘭丸 マチの圧勝!