最初は軽い気持ちだった。


子供はもうひぃふぅみぃよぉ・・・・数えるのもしんどいくらいいて、孫も猫からデブから女装まで多種多様にわたって存在して。
まぁ可もなく不可もなく、毎日楽しく過ごしていて。
そう、ようは普通に幸せな日々をすごしていたわけだけど。

ふと、魔が差したとでも言うのだろうか。

もしかして今なら私が生まれ育った世界に帰れるんじゃないかと思ってしまったのだ。
50年近く経って何をいまさらと自分でも思ったのだが、よしんば向こうの世界に帰れたとしても何も困ることはないのだ。
向こうの世界に締め出された時の姿と50年経った今の姿、笑えるくらい大差ない。
胸のカップだって変ってない。
多少筋肉量が増えて体重が増加しているけど、みためは変わらない。
そう考えていたら『何も問題ないじゃんアハーハ』という結論に達し、じゃ試しに・・・とばかりに無差別鍵束【世界は全て私のもの】を使ってみたのである。


そう、かっるーーーーーーーーーい気持ちだったのだ。


家に着いたら着いたで万々歳だねヒャッホーなノリだったのだ。



待っててね、あたしの




























が!







「み、見ず知らずの、あなたに、た、頼むのは心苦しいのだが・・・っ」

そうは問屋がおろさなかった。

「ア、アテナを・・っ、どうかアテナを・・・!」

そう言って腕の中に赤ん坊。
このシチュエーション、一度経験したことあるヨ。荷物と引き換えに赤ん坊押し付けられるの二回目だヨ。
今回は引き換える荷物がないから赤ん坊を押し付けられただけだけど。

「たのむ・・・・ガクッ」
「ガクじゃないよ少年!!押し付ける相手間違えてる!!君が本来押し付ける相手は私じゃなくて」

私の腕の中に赤ん坊をおしつけそのまま力尽きた少年に、こりゃいかんとばかりにあたりをきょろきょろと見渡して本来ならここにいるはずの城戸の爺さんを探したのだけれど。

「グラード財団いねぇえええ!」

人なんているはずもなく。
ひゅーひゅーと星のきらめく夜空の下、なまあたたかい風が力尽きて倒れ伏した上半身裸の少年と赤ん坊を腕に抱いたまま呆然とする私の間を吹き抜けていく。

こ、これはいったい何だ。
新たなる試練か、人生何度目かすらもうよくわからない試練か。
無一文から生活スタートしかもコブつき、なんていう試練か。
はたまたお前がグラード財団を作るんだ、っていうむちゃくちゃ試練か。


なんだろう、この理不尽さは。
ガンダムザクスピーカーを50年越しに手に入れるつもりが、手に入れたのは赤ん坊!
そして目の前には横たわる少年!!


「神様なんて信じねええええええゲコッ!!
「うるせぇ、じゃあお前の腕の中のガキはなんだ」


空しいばかりの私の咆哮はムクロさんの毎度おなじみかかと落としで霧散する。
その際私の腕の中から赤ん坊を奪い取っていく手際はいつもながら見事としか言いようがない。
むなしい。
むなしい。
むなしい。
少年同様地面に横たわりながら(しかも顔半分が地中にうまってしまった)右手でのの字をもじもじと地面に書いてみる。
まぁもちろんのこと何の解決にもならない。

「で?」
「で・・・どうしよっか、ムクロさん」
「とりあえずソイツ、まだ生きてるが?」
「そいつ??」
「お前の目の前で倒れてる血だらけのガキ」

ムクロさんの指摘にナニー!!とばかりに私は体を起こすと、そのまま少年の首元に指を当てる。
確かに、まだ生暖かいしドクドク脈打ってるような・・・?

「びょ、病院病院!でもお金ない!!ノーマネー!ついでに私超不審者!!」

虫の息状態ではあるけれど少年が生きていることにホッとしたのもつかのま、ガッツガツ問題がでてくる。
HPが徐々に、そして確実に0になろうとしている少年を目の前に一人アワアワとあわてふためいていると、頭上からハァとばかりにムクロさんのため息が落ちてくる。

「ソイツ、百足で預かってやる」
「・・・へ?」

この世界になじみつつあるのか、気づいたら滝のように涙を流している私に(そう、効果音はドバーだろう)ムクロさんは眉をひそめたもののおくるみに包まれた赤ん坊を私の腕の中にもどし、そして自身は横たわる少年を俵のように持ち上げる。
再び腕の中に戻ってきた赤ん坊に目もくれず(こんな騒がしくても寝ているのだ、よっぽど図太いに違いない)ムクロさんの行動をみつめていると

「百足に戻れば一応回復はしてやれるだろ」

そういってツンツン女王は少年を抱えたまま霧のように消えてしまう。
消える間際の

「妖怪向けの回復装置だがなんとかなるだろ」

なんて言葉は聞こえなかった。
聞こえなかったといったら聞こえなかったのだ。






そうしてギリシアのよくわからない場所に、私と未来の少年ジャンプ一嫌われヒロインとサジタリアスのボックスだけがぽつんと残されたのである。