家、三大家訓。
その1: ヒラヒラレース系統(ピンハも含む)の服の持込禁止
その2: 子供に読ませる本(勿論聞かせるのもダメ)は日本伝統の御伽噺オンリー(お姫様系統のお話は持込禁止)
その3: 子供の言葉遣いには細心の注意をもってしてあたれ
とりあえず、これだけしっかり守ればあのキキョウさんにはならないだろうと私は声高らかにミツヒデさんに宣言した。
「つかこの家は俺の家であってお前の家じゃねぇんだけどよぉ」
「ぶっぶー!今は私が大黒柱なので私の家なんですぅ」
「大黒柱だってんなら自分の家を買え。ついでに出て行け、仕事ならたんまり渡してやるから」
「いやぁここはもう私の実家?そんな感じ?ていうかキキョウちゃん、小さいのに私を追い出しちゃうのね!?え?それって世話は任せていい系?」
「・・・・・・好きにしろぃ」
げっそりため息をつきながらミツヒデさんは仕事のほうに戻っていく。
つか食べ終わった食器は台所に持って行けって何回言えばわかるんだ、あのダレダレ親父。
仕方なく自分の皿とミツヒデさんの皿をと重ねて台所にまで持って行き水の中に浸しておく。
居間に戻るとベビーチェアに座ったキキョウちゃんがカップの中に入っていた水を思い切り自分の食べ物の入った更にひっくり返してべちょべちょのぐちょぐちょにしていたところだった。
「ぎょえー!!なんちゅーもったいないことしてんの!!」
「だぁ?」
「だぁ、なんて可愛い声だしても許しません!うぅ、また洗濯物追加かい・・・母は偉大だ!」
とりあえずお腹は一杯になったようでただ単に遊びたかっただけみたいなので手の中からスプーンを取り上げて椅子から持ち上げる。
遊び足りないのか結構嫌がってぐずるものの、ちょっとだけ念をじわっと纏わりつかせると途端に大人しくなる。
赤ん坊でも敏感に感じ取っているのか気持ち悪いものは気持ち悪いらしい。
最初この宥め方を習得した時はいいもの発見とばかりにものすごく喜んだのだけど、今となっては失敗したかなぁと思っている。
精孔が開くほどまでオーラを流したつもりはなかったのに、ふと気付いたらキキョウちゃんてば纏の状態になっているんだもの。
これじゃあ原作に一歩近づけてしまっているとそのときになって我に返ったのだけれど、なんちゅうかこの子何も考えないで纏の状態を保っててもう何もいう事はないでしょと諦めたのだ。
結局私は思い切り自分で自分の首をしめていたのだ。
まぁ単に纏の状態を常にキープしてるのは只単に偶然みたいなもので恐らく本人も気付いていないんだと思う。
だからこそいまだオーラでじわじわといたぶる、いやいや、宥める方法は有効なのだ。
「ママァ、キラキラ!キラキラ!」
「えー?キラキラぁ?なんのこっちゃ、はい、ばんざいしてー。ばんざーい!」
「ばんじゃーい」
「うし、じゃあ洗濯機に服を放り込んでくるからそれまでそこでじっと待っててね。動いちゃ駄目だからね?」
「あい」
良いこのお返事をしたキキョウちゃんによしよしとばかりに頭を撫でてやって、お昼ご飯でぐちょぐちょになった服とタオルを抱えて居間から出て行く。
キキョウと一緒にこの家に住みついてから一年、三大家訓を決して破らないようにそれこそ細心の注意を払って子育てしてきた。
いや、今も真っ最中だけど。
着せる服はなるべく男の子が着るような服を選んで、読ませる本も話してやるお話も全部桃太郎だとか一寸法師だとかヒーロー系。
シンデレラや白雪姫のお話がこっちにもあることにはビックリしたけれど、そんなお姫様系のお話はシャットダウン!
どこであの子がヒラヒラ貴族ルックに目覚めてしまうかわかったもんじゃない。
そして目覚めてしまうと最終的にあの一族に嫁に行ってしまうのが決定付けられるようで・・・・それだけはどうしても避けたいのだ、自分的に。
お陰で今のところは言葉遣いもとっても普通、笑い方もまだ「キャー」なんてとってもかわいらしいものだ。
まぁこの時点で『オホホホホホホホホホホ』なんて笑われたらショックから立ち直れそうにないけど。
ただとっても手のかからない子で、それだけは本当に助かっている、まぁ放任主義っていうのもあるけれど。
ちっとも聞き取れなくてアラビア語?とか言っていたハンター語も今じゃばっちりペラペラだし読み書きもオッケー、流星街で生きていく為の知識もコツもこの一年で大分掴んだはずだ。
なんかおかしいほど伸びきった身体能力のほうは伸ばそうと思えばどこまでも伸びる事に気付き、今じゃカール・ルイスも真っ青なくらい早く走れるし、棒高跳びの選手に謝りたいくらいジャンプもできる。
なかでも一番おかしいと自分でも思ったのは恐らく体自体の耐久能力だ。
ちょっとしたアクシデントでビルの20階から落ちたのだけれど、腕と肩の骨の骨折だけで済んでしまった。
あの時はさすがに自分の体にびびったけれど、とりあえず生きていたのでよしとした。
この世界にいたらとりあえずなんでも受け入れる事が一番長生きできるコツなのだと早々に悟った私には20階から落ちても生きていることなんてとりあえず「あぁそういうこともあったな」くらいの思い出でよかったのだ。
まぁ身体能力がこんなになってしまって念の方はゆっくり起こそうと決めていたのになんなんだろう、早くてもゆっくりだと3ヶ月はかかるとか言われていたはずなのに一週間ほどで纏の状態ができるようになってしまった。
ちょっと私天才じゃない?と自画自賛しながらミツヒデさんを巻き込んで四大行に応用術の練習を重ね。
今じゃかなりの念使いだ、アッハッハ。
流星街で生きていくのに裏の仕事は欠かせないってことはよくわかってる。
奇麗事だけじゃ生きていけないっていうことにしっかりと自分を納得させ、今じゃ時々ミツヒデさんに仕事を回してもらうこともしばしばだ。
まぁお金はあるにこしたことはない、どうせ子供が一人いるわけだしあればあって良いことはあってもそうたいした悪いことはないはずだ。
多分キキョウが同じように裏の仕事をするようになっても私は止めやしないはずだ、それが一番ここで生きていくのに手っ取り早いから。
あぁでもゾルディックに嫁ぐのだけは勘弁して欲しい、かもしれない。
汚れた服を洗濯籠に放り込んで替えの服を取りに自分の部屋へ向かう。
箪笥を開けて中を物色するもののキキョウの服が一枚も見当たらない。
「げ、もしかして品切れですかい!うあっちゃー、仕方ない、私の服をブカブカだけど干してあるやつが乾くまで着させておくかぁ」
適当に重くなさそうで薄くもない服を見繕ってキキョウが待っているはずの居間に戻る。
上半身裸で下はオムツ一枚でいるはずのキキョウがいるはずの居間に。
「キキョーウ、着替えの時間だよ〜こっちおいでー・・・・ってゲッ!!」
「ママーァ!キラキラ〜キラキラ〜」
「ど、どこからそれを・・・」
名前を呼んでトテトテと少しだけ危なっかしい足取りでやってきたキキョウは青い目をキラキラさせながらなにか布キレを掴んでいた。
ただの布切れじゃない、ピンク色のレースがふんだんに使われていてところどころラメみたいなのが入った布切れだ。
「キラキラー!」
「ど、どこでこれを・・・いや、これ明らかにピンハじゃん?なに?こんなの我が家では認めてないはずなんですけど!?」
「ママーキラキラー!これ!これ!」
「これがいいってか!?これが着たいってか!?ねぇ、キキョウちゃん。これどこでみっけしてきたの?」
「じーじーの!」
そうか、ミツヒデさんか。
廊下を振り返れば確かにミツヒデさんの部屋の扉がうっすら開いていて、しかも微妙にドアの隙間に他の大量のフリフリ系らしき服が挟まっている。
なんだ、あの物体は。なんだ、あのフリフリは。なんだ、あのヒラヒラは。
思わず遠い目になってミツヒデさんの部屋のドアに挟まっているものを呆然と見ていた私の服がグイグイと引っ張られ、なんだと振り返れば。
「あい、これ!キラキラー」
ものすごーく可愛い笑顔で私にその布切れもとい服を見せて、いや突き出しているキキョウの姿。
そうか、それが着たいのかお前は。
私があんなにも必死になって避けてきた貴族ルックへの道を早々に進もうというのか。
「これがいいの?」
「あい!」
家、三大家訓その1、ここに破れたり。