その日は裕太の不思議な一言から一日が始まった。




「なぁ兄貴。俺たちの世界にも白泉中学ってあったか?」

朝ごはんのクロワッサンをまっぷたつに皿の上で割りながら、突然裕太は口を開いた。
これまた裕太と同じようにまっぷたつにわったクロワッサンの片方を口に含もうとしていた周助は勿論、同じようにテーブルについていたあたしも思わず「は?」と零してしまう。

「白泉って、あたしたちの学校?」
「そう、今俺たちが通ってる白泉のこと」

私立白泉中学(はくせんちゅうがく)
勿論中高一貫なので白泉高校なんてものもある。
結構全国的にも有名な進学校で、今あたしやなんちゃってイトコになってる周助や裕太が通っている学校である。
我が家から電車を二本乗り換えてだいたい1時間、結構立派な学校(と外見)だ。
まぁ勿論、氷帝ほどじゃない…あんな学校と一緒でたまるか。
あのクソ恥ずかしい青春学園と同じくらいか、もう少し大きいか、それくらいの学校だ。

ちなみに、このテーブルについているのはあたしを含めて三人。
改めてご紹介しよう。
まずはあたし、
白泉中学三年で中等部の生徒会長なんてものもやっている。
成績は中の上か上の下、ようはそのへんをいったりきたりしてる感じ。
別にこれといって趣味とかはないけれど、お気に入りの歌なんかができると部屋だとかお風呂だとかで延々と歌ってしまうクセがある。
ちなみにお風呂で以前中島み○きの愛情物語を熱唱しすぎて、のぼせて洗面所で倒れたことがある。
まぁそのときの裕太は最高に面白かったんだけれど、これはまたいつかお話しよう(それで裕太をからかえるのだ)

次に、あたしの横で優雅に朝食を取っている微笑みビューティ。
これが旧姓不二、現周助。
別にヤツが結婚したとか入り婿だとかそういうわけじゃない、我が元独身貴族だった伯母上のもとに養子縁組されただけだ。
ちなみにあたしと同じ白泉中学三年でしかも同じクラス。
進学校で学校設立以来転校生なんてものを受け入れた事なかったこの学校に『転校生』ということで新たな歴史を築いた人間の一人だ。
ちなみに恐らく、編入試験の成績は確かに彼の実力だとは思うが、一番大きく関わってきているのは我が父と祖父の裏からの差し金だと思われる。

そしてそして、あたしたちの前でサラダのミニトマトとフォーク片手に戦っているのが旧姓不二、現裕太。
あたしたち二人より一つ下の白泉中学二年生。
彼もまた入り婿ではなく養子縁組されて我が家にやってきた人間だ。
性格は一言で言うなら『要領が悪い』、これにつきる。
特に我が家ではしたたかなあたしと周助という存在が二人もいるため、我が家のトラブルメーカーマイマザーの被害を被るのはほとんど裕太一人だ。

さて、みなさんお気づきだとは思うが周助と裕太の二人はあたし達の世界の人間ではない。
ダイニングのソファの上に投げ出されている一冊の週刊少年ジャンプ(ちなみに表紙は我らが海賊王ルフィだ)で連載中の『テニスの王子様』の元キャラクターである。
元というのは、今彼らはあたしたちの世界に(何故か)いて普通にあたしのイトコとして生活しているからだ。
元青春学園生徒不二周助と元聖ルドルフ学院生徒不二裕太、今の二人は白泉中学の生徒にして色んな意味で注目の的である。
一番肝心の彼らがこの世界にいる理由だが、ぶっちゃけ誰も知らない。
知らないというかわからない。
二人とも気がつけばこの世界に来ていたという。
そんな異次元空間的に迷子な二人を救った、いや、拾ったのが我が母親である。

自分と血が繋がっていることを考えたくないというか、いつも思い出さないようにしているのだが、我が母親ながら彼女は非常に好奇心旺盛というかアクティヴィティというか。
悪く言えば猪突猛進、少々夢見がちな30代、といったところか。
あたしよりもテニスの王子様にのめり込み(現に母がDVDを買っていたことをあたしは全くもって知らなかった)キャラをこよなく愛している母は、有無を言わさずに不二兄弟を我が家に連れ込み、住民票を改ざんどころか新たに捏造し、勝手に独身だった伯母上と養子縁組を組み…






もう何も言うまい。






まぁ、とにかく至って存在感の薄い我が父と存在感の濃すぎる母とあたし、それから不二兄弟の五人で新しい生活をそれなりにエンジョイしています。
父の紹介はいつかもう少しみんなに認知されるようになってからしようと思ってます、多分…














―――さて話は戻って

「白泉中学なんてあったかなぁ、僕は聞いた事ないんだけど」
「兄貴が聞いた事ないっていうならないのかなぁ」

ようやく挑戦者トマトにフォークがブスっと突き刺さり、少し、いや結構嬉しそうな裕太は一思いにトマトを口にいれた。
本当に、かわいいやつだ。

「ちょっとちょっと!白泉はあたしたちのこの世界の学校だよ?テニプリの世界にはないでしょーが」
「あー、俺もそう思ってたんだけど」
「裕太?どうしたのさ、言ってごらんよ」

再び新たなる挑戦者ミニトマト2に戦いを挑みかけていた裕太は、顔をあげてどこか困ったような表情を浮かべた。

「俺、元の世界でも白泉中学って耳にした事あるんだよな。それが今俺たちが行ってる白泉のことなのかはわかんねぇんだけど…」













「「「は!?」」」












あたしと周助と、それからキッチンにいたはずのマミーの三人の声が重なった。