「白泉、白泉、白泉ねぇ…」
「そんなに白泉って連呼しなくてもいいと思うんだけど…」
かーっ、裕太!こういうのは気持ちの問題なの、連呼してるうちにあら不思議、思い出しちゃったなんてことがあるかもしれないでしょ」
「普通にないと思うよ、










10月某日。
不二兄弟がこの世界にやってきて、あたしの学校に転校してきてから大体一ヶ月近くが経とうとしています。
羨ましいとしか言いようがなかったのは、まるで図ったかのように二人とも体育祭が終わってから転校してきた事。
いやいや、元テニスの王子様たちだからスポーツは好きだったかもしれないけど!

でもあたしは代わってほしかった…体を動かす事なんて大嫌いだ(テ○ー風に)

まぁ過ぎた事はどうでもいい。
この一ヶ月ですっかり白泉っ子になった(特に裕太)二人は、各々テニスを除いた好きなことをやっている。
テニス部にはいる、っていうのは転校する際に我が母から駄目だと宣告されたらしい。
そのときのお母さんと二人の会話を抜粋してみよう↓

「周助くんも裕太くんも、テニス部に入ることだけはやめてほしいの。テニスをやるのなら放課後学校じゃないテニスコートでやってほしいの、テニスクラブに通うのでも構わないわ」
「………」
「テニスをして、僕たちのことがばれたら大変ですよね…わかりました。ほら、裕太も」
「う、わかった…」
「別に私的には二人ともテニスをやるのは大賛成!ていうか、ビデオ撮らせて?
「「はぁ…」」
「でもね、学校ではやらないで!怪我人が出たら大変よ!ボールが光ったら大変よ!体から風がビュンビュン吹き出ても大変!」
「「………は?」」
「白泉なんて所詮頭でっかちの子の方が多いんだから、テニス部だって柿の木以下よ!以・下!」
「「………」」
「あれ、なんて名前だったかしら。く…く…くき?なんかいたわよねキノコが」
「「………」」
「見た目がよくない子なんて覚えてられないわ!あ、でも日吉くんは別よ?キノコはキノコでも、あのこはかわいいからいいのよ」
「「………」」
「とにかく!テニスボールが隕石に変わっちゃう技なんて厳禁よ!空を飛ぶのも駄目!」
「あー…さすがに手塚さんと生意気一年と……あ、いや、あの二人の真似はできないな……あれは俺でも人間じゃない気がしたし!」
「そうよ、裕太君!君たちの技はこの世界じゃSFよ!CGよ!」
「普通のテニスの試合、やってたつもりなんだけどなぁ…こっちの世界じゃ確かにマンガの世界っぽいよな、俺たちの世界って」
「そうよそうよ!テニスの試合中にラケットが折れて飛んできちゃうなんてありえないわ!!」
「うんうん、確かに」
「神尾くんも台詞が恥ずかしいわ!本当にあんなこと言いながら試合してたらいつか舌を噛み切っちゃうわよ」
「うんうん、確かに」
「何が一番ありえないって手塚くんの年齢と忍足君の関西弁よね」
「うんうん、確かに」
あ、ちゃんとビデオに撮らせてね?
「うんうん、確かに」

以上、終了。
色々と問題ある会話だと思うんだけど、ここで重要なのは裕太が結局自分の兄を人間じゃないって部類にいれてることだよね
裕太が喋りだしてから周助が黙っちゃって…
最近段々と周助が本性を現しだしてきているのか、それとも単に二重人格なのか微妙なところ。
実際、今朝の会話でもさりげなくあたしをけなしてくれた…。

ちなみに、裕太は近くのテニススクールに通わせてもらえることになったと喜んでいて実際学校では帰宅部所属だ。
HRが終われば帰宅部の友達たちと一緒に帰り、一度家に帰ってからテニススクールに通ってるよう。
充分自分の生活スタイルを築き上げ、それなりに楽しくやってるらしい。
周助はというと、写真部と何故か家庭科部にはいった。
写真部っていうのはなんとなくわかるんだけど、何故家庭科部に入ったのかさっぱりわからなくて裕太と恐る恐る尋ねてみると「テニス部の次に入りたかった」とこぼしてくださった。
その答えを聞いた瞬間の裕太の顔のすごいこと、すごいこと。
きっと家で噂の激辛料理を食べさせられた事があるに違いない。
あたしも裕太も怖くて家庭科部を訪れた事は勿論近づいた事さえないけれど、どうやらかなり楽しく家庭科部をエンジョイしてるらしい。
まあ、人様に迷惑かけてないならいいんだよね、うん。









―――で、だ。

裕太が元のテニプリ世界であたし達が今通っている学校の名前を聞いた事がある、という不思議な台詞を吐いてから一応みんなで一通り叫んでみたんだけど、なんだか馬鹿馬鹿しくなって結局「裕太の勘違いじゃない?」という周助の一言で片付いた。
周助がそう言えばその話はそれでおしまい。
三人揃っていつものごとく電車を乗りついで学校まで歩いていく。
改札を出てすぐに裕太の友達が後ろから追いついて、裕太たちは別行動になる。
三人でいるともっとすごいけど、周助と二人でいても周りからの視線が凄い。
特に女の子。
ちなみにこの女の子たちを「普通」と「オタク」の2パターンに分けようと思えば、実に簡単に分けられる。
最初に周助と裕太を見て驚いたような顔を少しでもして、その後品定めをするかのような目つきになる女の子はほとんど「オタク」部類に分けられると思われる。
そのほかはとりあえず「普通」にまわしておく。
二人ともいつか写真を撮られそうな勢いではあるけど、まああたしに害がなければ好きにすればいいと思ってる。
なんたって既に害のあるストーカーもどきが我が家にいるんだから……

「あ、!えーと、生徒会長のほう!」
「どことなく失礼な呼び方だな、オイ」

集中下駄箱で靴を履き替えているとどこからともなく一人の少年がやってくる、とはいっても同級生だけれども。
やってきた同級生はあたしと隣に立ってる周助にも挨拶をして、なにやら一枚の紙をあたしに差し出した。

「なに、それ?」
「なにって、文化祭のやつ?出し物決めたら生徒会に提出ってあったじゃん」
「あったけど、その連絡事項のペーパー昨日発行したばっかなんだけど…」
「俺たち中学サッカー部は毎年おかま喫茶って決まってるんだよ!だからこうやってすぐに提出できるわけ!」

受け取った紙をぺらと裏返すと、確かに出し物は?という質問の下にきったない字で「おかま喫茶」と書かれてある。
理由の欄にも当たり前のように「伝統」とだけ書いてある。
馬鹿のクラブだ。

「馬鹿にするなよな!高校のサッカー部は毎年おかまコスプレ喫茶だ!!」
「誰だって馬鹿にするよ、それじゃあ…」

おかま喫茶が更にひどくなってるだけじゃん、絶対同じ人間が発案したに違いない。
付き合ってられないとばかりにおなざりにわかったわかったと返事をして、周助と連れ立って教室に向かって歩いていく。
校舎の一階にある教室を使うのは科学室だとか美術室だとか特別室を除いては、中学三年生である。
二階が二年生、三階が一年生、ようは若いやつは階段使ってしっかり歩けということなんだと思う(違うから!)
すれ違う奴らに適当に「ハヨー」と言っておく。

「もうすぐ文化祭なんだね」
「まぁね。これから11月終わるまで忙しいんだよね…中学のほうの出し物も高校の生徒会がまとめてみてくれればいいのにさ…今年からあたし達で面倒見ることになったんだよ」

文化祭があるのは11月の真ん中辺り。
それまでにクラスごとの出し物を決めたり、クラブ活動やってる人たちはそのクラブの出し物も決めていく。
有志の人たちは有志の人たちで出し物を決めていくだろうし、まぁこれから一ヶ月みんな文化祭の準備で大忙しになるはずだ。
体育祭の時とは比べ物にならないくらい、授業中に睡眠学習をするやつが増える。
かくいうあたしもきっと睡眠学習に転向するはずだ、クラスとクラブ、有志の連中の出し物全てまとめて面倒見て、学校全体の管理もしなくてはならない。
去年までは、中等部の管理も高等部の生徒会がみていてくれた。
それを中等部生徒会顧問のキムリン(正式名称木村先生)が「何事も経験だ、ハッハッハ」とこぼしてくれやがったことで全部パァ!だ。
笑顔で高等部生徒会長に「今年から中等部の面倒は自分達でみなさい」と言われてしまったのだ…
ようは、なにもかもが初めてで、今回あたしたち中等部の生徒会は全てにおいて手探りでやっていくしかないということ。

「つまりあたし達に死ねってことだろうがよぉ、腹立つー!!!打倒キムリン!!!」
「何でそこで木村先生がでてくるのさ、
「全ての元凶だからよ!!!!」

覚悟してろよ、中等部の諸君。
こき使えるヤツは問答無用でこき使ってやらァ!!