「ただいまぁ〜」
「ただいま……」

あたしの間延びした声と裕太の疲れた声が重なる。
日に日に生徒会の仕事のせいで帰宅時間が遅くなってきているあたしは今日に限って最寄り駅についてからテニススクール帰りの裕太とばったり出会い一緒に帰ってきたところです。
ビバ裕太!と抱きつきたくなったのは裕太が自転車を駅近にとめてたことが発覚した瞬間。
裕太は心底嫌そうな顔をしてたけどあたしだって(キムリンのせいで増えた仕事に体力的にも精神的にも)かなり疲れていたので、否応なく二人乗りが(私の独断で)決定し家まで裕太に頑張っていただいた…というところ。

「二人ともおかえりなさーい。晩御飯もうちょっと時間かかるから呼ぶまで待っててちょうだーい」

キッチンのほうからお母さんの間延びした声が聞こえてくる。
それにはいよーと答えて二人揃ってだらだらと二階へと続く階段を上りはじめる。

「あー…数学の宿題やらないと…あーでも生徒会のプリントもまとめないと…あーでも英語の宿題もあったんだっけか…あー…あー…」
「俺ちょっと先に軽くシャワーあびてくる」
「あー…なにからやればいいんだか…あー数学?英語?生徒会?つかなにもやりたくねぇ」

頭の中で今日中にやらなきゃいけないリストを思い浮かべてみるものの、そのあまりの量の多さにまだ取り組んでもいないのにへこみ始める。
裕太はさっさと階段をのぼりきるとシャワーシャワーとか鼻歌を歌いながら自分の部屋に消えていく。
この少年、あたしよりこの世界エンジョイしてる気がするんだけど。

、おかえり」
「あーただいまー…生徒会は放課後だからまぁ後回しするとして、そうなると数学?それから英語…」
?」

自分の部屋から顔をのぞかせておかえりと言ってくれた周助にいつものように元気よくただいまと言える状態じゃなかったあたしは、御座なりにただいまと返すとそのまま頭を抱えて自分の部屋へと入っていく。
ボスンと投げたカバンがベッドに沈み、あたしもその後を追うようにしてベッドにダイブする。
もう一度頭の中に今日中、っていうのは諦めて、それぞれ明日間に合わせなきゃいけない時間までに必要なものをリストアップしていく。
既に明日までにと考え直している時点で明日はほとんどの授業が内職になりそうな予感で一杯だ。
とりあえず一時間目に数学、二時間目に英語と続いているので数学、英語の順番でまずは宿題を終わらせることにする。
生徒会の仕事はそれが終わってまだ私の目とまぶたが生きてたら考える事にしよう。
まぁとにかくまずは顔を洗ってこようと気合をいれてベッドから起き上がるとそのまま部屋をでて洗面所に向かう。
二階の洗面所は恐らく裕太がシャワーを浴びるのに鍵を閉めているだろうから一階の洗面所に向かう。















「おなかすいたー…」
「俺もー…」
「はいはい、ほら席について!」

ホカホカと湯気の立っている裕太と連れ立ってリビングに入るとテーブルの上には既に晩御飯が並んでいて、周助も自分の席についていた。
いつからかあたしの隣に周助、私の前に裕太、それからその裕太の隣がお母さんっていうのが我が家での席順になっている。
ちなみにお父さんはいつもあたしたちと違う時間帯で生息しているので、一緒にご飯を食べる事なんて滅多にない。
あったとしても多分この席順からいくと一人こっそり端っこに追いやられるか、下手したらあなたは後で!とかお母さんに言われるに違いない。
今日の晩御飯はテーマが中華なのか、焼き餃子だの青椒肉絲(チンジャオロース)だのふかひれスープだのが並んでいる。
いただきます、と三人揃って言ってから晩御飯がスタート。
最初のうちはみんな黙々と食べてるんだけど、段々終わりに近づいてくるにつれて今日あった面白いことや色んな話がそれぞれの口から出てくる。
といってもあたしと周助は同じクラスなのでほとんど喋る内容は同じだったりするので大概裕太が喋っている。
二年生の間でもちきりの噂話や先生のポカミスや友達のおかしな話。
あたしなんかはそれに突っ込んだりして、周助は楽しそうに聞いていて、お母さんは寧ろ裕太の顔ばかり見ている

「そういえば、今日文化祭のクラスの出し物決めた」
「僕達も今日決めたよ。裕太のクラスは何をやるの?」

フカヒレようの中華スプーンをスープ皿に置くと裕太は「屋台を出すんだってさ」と答えた。
屋台っていうとラーメンとかの?って聞き返すと、違うといってなんだかバカにした目であたしを見てくる。
普通屋台って言ったらラーメンかおでんでしょうが!

「祭りとかででてるじゃん、射的とかわたあめとか。そういうのだって」
「裕太、それは屋台じゃなくて出店っていうんじゃない?」
「しらねぇ。屋台って黒板に書いてあったんだよ」

俺は悪くないとばかりに周助から顔をそらす裕太に私も馬鹿にした視線を送ってやる。
ものの見事に無視されたけれども。

「兄貴達は?」
「僕達は喫茶店に決まったよ。結構規模が大きくなりそうで屋上と最上階の大クラスを使ってやろうっていう話になってたよね」
「そーそー。まぁでも喫茶店つってもあれだ、ギャルソンとかメイド喫茶に近いもんらしいけど」

そういうとマァマァマァ!とかいってお母さんが特にキラキラした目でこの話に食いついてきた。
裕太はというとメイドォ!?とばかりに眉をひそめている。

「あたしたちのクラス、不思議なことに中等部のイケメン&美少女ベスト3の合計6人が見事に揃ってんのよ。一応売り上げはそれぞれのクラスの収益になるから、それならより一層確実に稼げる路線でいこうじゃないかってことになったわけ」
「イ、イケメン&美少女ベストスリィ?」
まぁまぁまぁ!ちゃん!滝くんたちがギャルソンになるの!?私行くわ!
「ちょっとお母さんは黙ってな」

まぁ大変スケジュール調整しなきゃとか言いながら自分の電子手帳を取り出して、あたし達の学校の文化祭の日取りをチェックし始めているお母さんは視界からも頭からも追いやって。
ベスト3に頭悩ませている裕太のためにクラスの写真を取り出して教えてやる。

「これが柔道部の滝君。柔道部のくせに色は白いわ綺麗だわ憎いでしょ?それからバスケ部の工藤と池田。まぁこの二人もジャニ顔だよね、身長もそれなりにあるし。で、こっちの色白のほっそい子が小川さん。かわいいというよりは美人さんだよね。あと、こっちの演劇部の河上さん。この子はかわいいのよ、頭もすごいいいんだけど。それと、私の横に立ってるのが相棒の榛名」
「ふふ、この6人が白泉中学のベスト3なんだってさ。僕も今日知ったんだよね」
「へーーーーーーーーーー!!言われてみればこの滝って人、かっこいいなぁ…」

興味深々で写真を覗きこんでいる裕太に周助が笑いながらなにか説明している。
二人が一緒にご飯を食べるってことじたい、裕太がルドルフに行ってしまってからは少なくなっただろうに今じゃ普通にいわゆる世間一般的にいわれる『仲良し兄弟』をやっている。
そりゃ勿論、周助がちょっかいをだして裕太がきれることは、まぁ時々というかよくというかあるんだけど。
元の世界に戻った時もこのままの関係を保っていて欲しいなぁと願ってはいるのだけど、それも許斐先生次第になってしまうのだろうか。

「あ!そういえばさ、聞いた?バレー部の子達、文化祭の日に試合が入っちゃって今年参加できないんだってさ」

仲の良いバレー部男子のキャプテンの子が今日すごくつまらなさそうに愚痴っていたのを思い出した。
二日ある文化祭の両日とも遠征だかなんだかで参加できないんだそうだ。
それでいてクラスの出し物を手伝わなきゃならないなんてありえねーというのが彼の話なんだが、まぁ確かにそれはそうだ。

「バレー部?そんなのあったのか?俺知らなかった…」
「あるわよー。まぁ全然強くないんだけどさ…でも部活はすっごい真面目なクラブよ?」
「バレー部キャプテンというと3組の、えーと、いわ…いわ…」
「岩本でしょ?知ってるの、周助?」
「中村の話に良くでてくるよ。中村もバレー部だし」
「あぁそういえば晴彦のやつ、バレー部だったわねぇ…」
、中村と仲良かった?あまり二人が喋ってるところは見たことないけど」
「晴彦とは小学四年からの付き合い。小学校は別だけど塾が一緒だったのよ、今の学校のなかじゃ付き合いは一番アイツが長いのよ」

なーんて、あたしと周助がバレー部談義というか結局クラスメートの話に花を咲かせ、お母さんはお母さんで自分のスケジュールをなんとかして空けようと電子手帳相手になにやら色々悩んでいて。
そして裕太はというと、一人なにか云々考え込んでいて。
でも三人ともそんなことにはちっとも気付かないでいたりするのだった。







「白泉…バレー部……白泉……バレー………あれ?」