「じゃあそれぞれの役割分担は黒板に書いた通りってことで、決定でいいですかー?」

クラス委員長の間延びした超やる気のない声がクラスの中に響く。
やる気のない声に返すクラスメートの声は逆に(お金がかかっているので)燃えていて非常に熱い。
うおー金を稼ぎまくるぜー!な心意気でほとんどのクラスメートは今年の文化祭を臨んでいる。
まぁ売り上げがそれぞれの収益になる上に、アンケート結果で一位だったら中庭にある自販機のカード2000円分(ようは20回強ジュースがタダで飲めるってわけ)までついてくるってんだから燃えなきゃおかしいってなもんだ。
でも自販機2000円分ってどこかケチくさい気がするのは私だけなのかしら。
一応ここ金持ち学校って言っても過言ないんだからもっといいもんつけてくれよ、とは思う。

「あのー…」
「あー、なんですかーくん」
「僕、ギャルソンよりも中の厨房とかの方がいいんだけど…」

周助のその声にウオーと盛り上がっていたクラスは、一瞬にして物音一つ聞こえない静かな空間になる。
ついでとばかりにクラスメートの「何言ってんだゴラァ」ってな感じの視線が周助に集中する。

君!残念だけどそれは却・下よ!」

それまで教卓横にわざわざイスを用意してふんぞり返ってたもう一人のクラス委員長がバンと教卓を叩いて立ち上がった。
うんうん、その意見にはあたしも賛成だ。
だって、周助に食べ物なんか作らせたら――――


うちのクラスは確実に死人がでる。


その料理は家庭科部の出し物だけにとどめておいた方がいいと思うのよ。
家庭科部ならあたしの範疇外だから(部活動の出し物は高校の生徒会が元締めだからあたし達中等部の生徒会には関係ないのだ)どれだけ被害をだそうが関係ない。

君、いまや君はイケメンベスト4にはいったわけ!」
「は?」

クラス委員長の熱い語りだしに思わずあたしのバカみたいな声が出た。

「そのニコニコした甘いマスクで女子生徒をたぶらかしてたぶらかしてたぶらかしまくって、お金を稼ぎなさい!!それ以外は却・下!!

ぐっと拳を握り締めて一人熱く語るクラス委員長に女子生徒と一部男子がパチパチパチと賛同の拍手を送っている。












あたしのクラスも大分おかしくなってきた。











一日が過ぎるのはとても早い。
特に今月は中間試験なんてものまで存在していて、テスト一週間前突入の今現在、一日なんてあっという間に過ぎていく。
授業、部活、生徒会、文化祭の準備、エトセトラエトセトラ。
学校にいる時間なんて半日くらいなのにふっと気付けばもう夕方なんてのが毎日の感想だ。
10月の三週目はまるまる一週間、試験で潰れる。
まぁその分テストは午前だけで終わりなので午後は毎日フリーになるわけだけど、ほとんどの人間がテスト勉強ではなく文化祭の準備に時間をかけている。
かくいうあたしも午後からは毎日生徒会に篭って仕事仕事仕事、とにかく仕事だ。

あたしのテスト勉強タイムは家に帰ってから。
実は周助が10月にはいってからあたしがすごい疲れているのを気遣って、生徒会の仕事を時々手伝ってくれるようになったのだ。
おかげで家でしなくちゃいけない事が以前に比べて大分減って大助かりしている。
裕太は裕太で、テスト勉強も文化祭の準備もそれなりにやっているようだし、テニススクールにも毎日欠かさずに行っている。
これはこれで裕太の根性に惚れ惚れする。
晩御飯を食べてのんびりした時間を少しとればその後はそれぞれ自分の部屋に帰って勉強したり色々。
周助によればあたしたちの学校はかなり授業のスピードが速いんだそう。
まぁ確かに中高一貫だからって理由なのかはわからないけれど、あたしたちは中学三年間で本来勉強する事を二年生までに終わらせている。
つまり、中学三年生が勉強する内容は高校一年生の内容がほとんどってわけ。
裕太もそれには最初かなり戸惑ったようだけど、持ち前の地道な努力と仲良くなった友達たちに助けられてなんとかやれているらしい。
まぁ笑いながら「これで帰ったとき俺すごい良い成績取れると思うんだけど!」なんて言ってたから、それはそれでいいのかもしれない。
今日は珍しくあたしはリビングでお勉強、ついでに周助も連れ込んで。
古典が白泉では漢文と古文と二つにわかれているんだけれども、漢文の方は結構得意なんだけど古文っていうのがあたしはすごく苦手。
古典でも「おじゃる〜」とか「麻呂は〜」とか書けよってぶっちゃけ思ってる。
そんなあたしと比べて周助は古文がお得意なようで、授業中に当てられても外した事がない。
ラッキーと思いつつ明日の古文のテストに向けて周助にわからないところ(つっても、ほとんどわからないんだけど)を教えてもらうって算段。
お母さんにテスト勉強をするから写真を撮ったりビデオを撮ったりして邪魔をしないように、するなら裕太の方をしてこいと伝えてリビングのテーブルに教科書やらノートやらを広げる。
いつもならあたしの前には裕太が座ってるんだけど、今日は周助。
これはこうだから、とかここは大事だから覚えておきなよ、とか顔をつき合わせて教えてもらっていると




「思い出したーーーーーーーーっ!!!!!!」



なんて大絶叫が二階から聞こえてきた。
その声はお母さんなわけがなくて――

「「裕太?」」

周助と二人して不思議そうに顔を見合わせる。
すぐにバタン!なんてドアを乱暴に開けたか閉めたかの音がして、ドタドタと階段を走って降りてくる音が聞こえてくる。
あたしがそんな音をたてようものなら必殺「おかあさんがご近所に怒られるんだからやめてちょーだい」攻撃がでてくるのに、相手が裕太になると「裕太く〜ん、廊下は静かにね〜」なんて甘い声になるのは何でだろう。
第一、廊下は静かに、なんて学校みたいだ。

「あ、あ、あ、兄貴!!!大変だ!」

そういってリビングに姿を現した裕太は顔に皺の跡がついていて、こいつ今まで寝てたな、ってのが丸わかりだったりする。

「裕太、よだれのあとついてるよ」
「え!?まじで!?」
「ウソ」

さりげなく裕太を苛めてから周助が、一体どうしたっていうのさ?と尋ねた。
ワタワタする裕太を見るのが楽しい気持ちはすごくよくわかるんだけど、なんだか大変そうなんだから先に尋ねてあげようよなんて思う。
口には出さないけど。

「俺、すっごいこと思い出したんだってば!」
「すごいこと?」
「大変な事じゃなくて?」
「えーと、すごくて大変なんだよ!!」

やっぱりワタワタする裕太は面白い、ってなわけで前言撤回。
裕太は苛めてこそ裕太だ。

「この間から白泉って名前もとの世界で聞いた事があるって俺言ってただろ?」
「あぁそういえばそんなこと言ってたねぇ」
「白泉って学校、元の世界にもあったんだよ!俺、覚えてるんだよ!」
「僕達の世界の東京に白泉って学校はなかったと思うんだけど?」
「ないよ、ないない!白泉って学校、俺達の世界のジャンプにあったんだってば!」







「「は?」」