「ジャンプ〜?ホップステップジャンプの?」
「違うよ、。桃城の歌だよ、きっと」
「どっちも違ぇよ!だいたい兄貴、なんかちょっと俺達の事微妙に詳しくねぇ!?」
―――本当にな。
裕太が大声あげて階下に降りてきた事であたしと周助の勉強タイムは中断。
古文のテストがすっごいやばいのはわかってるんだけど、本当にやばくてやばくてしょうがないんだけど、裕太の思い出した事があたしの世界と周助たちのテニプリ世界とを繋ぐものかもしれないってな訳であたし達三人とお母さんの四人は仲良くリビングのソファに座って家族会議。
「で、だ。ジャンプに白泉があるっていうのはどういう意味?」
バリッとせんべいをかじりながら裕太に尋ねると、裕太はよっぽど喉が渇いているのか3杯目のお茶を飲み干した。
「俺達の世界にも週刊少年ジャンプはあるわけなんだけど、内容って基本的にあっちの世界ともこっちの世界とも変わらなかったんだ」
「どういうこと?」
「俺が元の世界で読んでたジャンプにもこち亀とかワンピースとか連載してたんだよ。こっちにきてからが買ってるジャンプを見て驚いた、てっきり全く違う漫画が載ってるもんだと思ってたんだから」
そういえば、確かに最初裕太にジャンプを貸してあげた時「続きが読める〜」とか言いながら嬉しそうにしていたのを思い出した。
そのときは「あー嬉しそうな顔しちゃってー」くらいにしか思わなかったけど。
でもそうなるとテニプリの世界にも秋山先生とか尾田先生がいるってこと?
なんだかよくわからない。
「でも初めてこっちのジャンプを見たときも思ったんだけど、一つだけこっちのジャンプじゃやってない漫画があって。逆に俺達の世界のジャンプにはない漫画がこっちのジャンプにはあった」
うーん、なんとなく読めてきた。
「僕達の世界にはなかった漫画が――」
「二人がいるはずの世界をモチーフにした『テニスの王子様』ってことね」
パチパチと瞬きしながらお母さんが周助のあとを継ぐ。
紅茶のカップに片手を置きながらフゥと一つため息をつく周助、どうやらなんとなく裕太の話の先があたし同様読めてきたらしい。
「それで、白泉って名前はこっちのジャンプでは連載していない漫画にでも載ってた、いや寧ろその漫画の舞台だったってわけ?」
ソファの背もたれにボフンと背中を預けて後ろで手を組みながら裕太に尋ねると、裕太は何でわかったんだとばかりに驚いた表情でこっちを見返してくる。
わからいでか!
すんごくお約束な展開になってきたぞ、これは。
「すごいな、!の言うとおりで俺達の世界で連載されてた漫画って白泉中学が舞台だったんだ。俺、今日まで全然思い出せなかった」
「普通はそんな簡単に結び付けられないよ。白泉中学なんてもしかしたら他にもあるかもしれないんだし」
「周助の言うとおりよ。それで?裕太がその漫画の舞台があたし達の学校だってわかった理由は?」
今日の今日まで裕太がよく白泉の名前をブツブツ呟いたりしてたのは見てきた。
けどそれでも今まで一ヶ月、思い出せずに過ごしてきたのだ。
何か決定的なものでも見たか、あったか、どちらかだろう。
「前にバレー部の話がでてきただろ?あの時からなんかひっかかってたんだけど、今日西棟に行ったときに登場人物らしき人間がいてさー…なんかどこかで見たことあるなぁとか思ってたんだ」
「は!?ちょっとタンマ!つうことはなに、裕太の世界で連載されてる漫画ってもしかしてバレー部の話なわけ?」
ガラスでできてるローテブルをバンバンバンと叩く。
お母さんが「指紋!指紋!手の跡!」とか言ってるけどこの際無視!
「いやいやいや、その前に確認しなくちゃいけないことがある、うん」
「な、なんだよ…」
「その漫画、スポ根系?まぁせいぜい許せてテニプリ系?」
もし!もしよ。
白泉中学が舞台ってことはだ、そこいらの脇役であたしとか載ってるかもしれないってことでしょ!?
もし、これで、その話がミスフル系だったら――――
「おおおおおおおぞましい!!!!!!!」
まだそれならテニプリ系のほうがマシだ。
これで自分の学校が舞台じゃなかったりしたらジャガー系だろうがクロマティ系だろうが好きにしてちょーだいよ、って思えるんだけど自分の学校だよ?
まともな漫画でありたいじゃない。
別にミスフルがまともじゃないとは言わないけど(ジャガーとクロマティは認める)あれだってスポーツ漫画っていうより微妙にギャグよりな漫画なわけでしょ。
急に叫びだしたあたしを周助と裕太が馬鹿にしたような視線で見ている。
ちなみに、お母さんもお母さんでなにやら悲壮な顔つきで頭を抱え込んでいるところを見ると、似たようなことを考えているに違いない。
何が嫌って、最近お母さんの思考回路が読めるようになってきたことじゃなくてその思考回路にあたしも近づいてきたってことだ。
周助と裕太があたしの前に現れてから、あたしの生活は本当ガラリと変わってしまった。
別に嫌なわけじゃない、ただ、なんだかまるで、そう、本当にギャグ漫画のような会話をしたり行動をしたりで。
もしかしてこれもその漫画の兆候とでもいうのだろうか。
だって今までのあたしは、それなりにお母さんとも普通に普通の会話をして単調な学校生活を送って―――
「えーと、多分テニプリ?に近いと思う…ような思わないような…」
「どっちじゃー!はっきりせんかーい!!あたしは高菜ちゃんとかになりたくなーーーい!!」
「そうよーー!私だってピヨ彦のお父さんみたいなのは嫌だわーーーーー!!印のブランド作らなきゃいけないわけ!?」
「ちょっと!お母さん、勝手にあたしをピヨ彦キャラにしないでくれる!?心外だわ!!」
ギャーギャーとお母さんとピヨ彦論争に突入する。
せいぜいあたしの役はそこらへんの通行人Cとかでしょうよ!ピヨ彦はやめてほしいもんだわ。
―――カチャン
お母さんとローテーブルを挟んで言い争っていると静かに、本当に静かに音を立てて周助のティーカップがソーサーに置かれる。
小さな音なのにどうして迫力あるんだろう、とかなんか周助さん怒ってる?とか、エトセトラエトセトラあるんだけど。
「裕太、話を進めて?」
いつの間にか我が家の覇者はお母様から周助に移り変わったらしい。