家がいつのまにかなんちゃって従兄弟に乗っ取られた事に気付いてからはや30分。
あたしの頭は裕太の話にボンと爆発しそうな勢いで混乱していた。










舞台は白泉中学バレー部。
それなりに力があるバレー部だけれど、どこか決定打となるメンバーが足りず常に区大会の決勝戦で敗北してしまうというおかしな経歴がある。
実際いつも表彰されるときは大抵区大会準優勝である。
区大会を優勝して都大会に出場したのはかれこれ3代上の先輩達の時だけ。

あたし自身バレーのことは詳しくは知らないんだけど、付き合いの長い晴彦がよく一人足りないんだとは言っていた。

キャプテンの岩本英寿(いわもとひでとし)は3組の生徒で、常に全国模試の10位以内に名前を連ねる秀才だ。
センターがポジションで頭脳戦とフェイントを得意とする、チームのブレーンだ。

センターの三村晃司(みむらこうじ)は2組の結構背の高い生徒で、普段は超地味な男だ。
けれど一度コイツと喋るとどれだけコイツが俺様な性格をしているか思い知らされる、まぁ跡部ほどではない。
だって地味だから。

あたしの小学以来の親友もとい悪友の中村晴彦(なかむらはるひこ)は今じゃ周助の親友の一人。
そしてコイツもバレー部所属でポジションはライト、兼リベロ。
口煩さが原因なのかチームのムードメーカーだ。

セッターの瀬名遼(せなとおる)は通称遼ちゃんといって中等部の人気者な二年生だ。
身長が低くて顔もすごく可愛いのだけど性格は恐らくバレー部一の漢前だ。

他にもメンバーはいるんだけどチームのメインはこの五人で、残りの一人は他のメンバーを交代で補っているという。
晴彦のいう「足りない一人」ってのはどうやらその残りの一人らしい、三村がバックに下がった時に決定打となるアタッカーがいないのだという。

そこで話は裕太にまでさかのぼる。

裕太の記憶に寄れば、そんなバレー部に一人の転校生がやってくるというのだ。
まぁ、その転校生が決定打となって新生バレー部が秋大会を勝ち抜いていくというお約束な展開で進むという物語のようらしい。

「つまり、周助と裕太に引き続いてまた新しく転校生が白泉にやってくるってな訳ね?なんかもういままで白泉のポリシーみたいなのはどこにいったって話だわね」
「そんな漫画があったんだ。英二や桃に聞いたら知ってたかもしれないけどね」
「あら〜、晴彦くんってば漫画のキャラクターなの?サイン貰っておいた方がいいかしら…」

裕太の簡単な説明に上からあたし、周助、お母さんの順番で感想を述べていく。
というかお母さんの感想は周助たちの世界でないとサインの効果が薄れるんじゃないかと思われるし、相変わらずミーハーな感想だったので無視しておく。

「俺も細かいところまでは覚えてないんだけど、その、な…」
「なに?最後までハッキリ言いなさいよー」


















俺と兄貴が元の世界に戻るきっかけ、俺かもしれねー…


















途端リビングが静かになる。
あたし達の視線はまさしく裕太にくぎづけ、だ。

「ちょ、ちょっと待ってちょうだい、裕太君。いきなり結論に飛ぶんじゃなくて過程の話もしてちょうだい」
「そうだよ、裕太。なんでさっきからそんなにてんぱった話しかたばかりしてるの。少し落ち着いてみたら?」

そういう周助。
あんたも相当てんぱってるでしょうが、新しく淹れた紅茶に注いでるミルクの手がずっと固まってるせいでミルクがカップからあふれ出てるよ。
最早それはミルクティーじゃないね、ミルクとティーの名残ブツだよ

「主人公は松坂飛翔(まつざかひしょう)って言うんだけど」
「飛翔って名前、なんていうかすごいジャンプ力ありますよーみたいな展開になりそうな感じだねぇ」
「……漫画なんだからいいだろ」
図星かよ!!今は漫画じゃなくて現実世界なのよぉ、あたしにしてみれば!!」
「もう!ちゃん、ちょっと静かにできないの!?話がさっきから全然進まないわ!」

お母さんに怒られた、あのお母さんに怒られた。
まともなことで。
これだけで充分ショックだ。

「確か10月の終わり頃にソイツ転校してくるんだ、それでバレー部にはいるわけなんだけど」
「それと僕達が元の世界に戻れる事とどう関係があるのさ?」

ちょっとは落ち着いてきたらしい周助がもっともな事を言いながらこぼれたミルクとティーの名残ブツを布巾でふき取っている。

「それがさ…」
「それがなに?」
「その主人公の一番仲良くなる友達、どうやら俺みたいなんだよな。今考えてみたら色々納得できることもあるんだよな、あのキャラクターの名前も裕太で俺と同じ坊主なんだ。それに仲良くなる理由が同じ転校生だってことだったし。柳沢先輩なんかずっとこれって裕太だって言ってたけどまさか柳沢先輩のいうことが当たるなんて…信じられない、というかそんなこと言ってた柳沢先輩はおかしいよな?だって漫画のキャラだぜ?」

一人でブツブツ言っては云々と頷いている裕太とそれを律儀に聞いているお母さん。
ふき取った布巾を洗うべく台所に立った周助に、いつのまにかあたしの友達たちが漫画になっていることにどこか嫉妬と恥ずかしさと驚きとあと色々、考えているあたし。

「裕太が主人公の友達ってことはよくわかったけど、そこから先どうやってさっきの帰れるかもって話に繋がるわけ?」

洗ったと思われる布巾片手に戻ってきた周助は再び自分の席につくと目の前の裕太に顔を向けた。
裕太は周助にそう言われると口をぎゅっと引き締めて、背筋をピンと伸ばす。
緊張しているのだろうか、いやしているに違いない。
だって、やっと戻れる方法がみつかったかもしれないんだから。

「詳しい方法は実のところわからないんだ。でも、どうやら俺、3年にあがる直前の春休み中に転校して白泉からいなくなるらしいんだ」
「裕太が、いなくなる?」
「白泉から?」

の家はある意味自営業でもあるし(法律事務所だしさ)転校もしくは引越しする理由もないはずだ。
それは一緒に暮らしている周助と裕太にもいえること。
だから、裕太が転校していなくなるっていうのは―――







―――それってつまり








裕太と周助が本当に元の世界に戻ってしまうということなの?