自分は断じて母親と同じ種族ではない、と思う。
二次元の世界の人たちにキャーキャー言ったり幸せ感じちゃったりする種族ではない、と思う。
思う、いや信じたい。
けど、どうやらあたしは・・・・・・
「あんたが裕太のお姉さんかァ!」
"裕太のお姉さん"発言に性懲りもなくときめいてしまったらしい、キュン。
転校生のなんか尋常じゃない飛びっぷりに驚いてハフハフ口を開けながら、はたと気付いた事があった。
今私がつったっているこの体育館、いやもっと詳しく言うならばバレー部のコートとやらは今現在テニスの王子様の世界においてぶっちゃけ二次元の世界にあたるわけだ。
つまり、何が起きても不思議じゃない!
転校生が1メートル以上飛ぼうがいつ加速装置をつけたのさ!?と疑いたくなるようなレシーブをかましたって、ここでは『普通』なのだ。
笑っちゃうよね、本当。
「キャハハハハ」
「・・・・・・どしたの、お前」
もうどうでもいいとばかりに笑い出したあたしに岩本は体を横にずらした、そんなに隣にいたくないか。
「いや、きっとあたしも目がキラキラした少女になってたりするのねぇと思いを馳せただけなんだけど」
「まったくもって意味がわかんないんだけど」
「わかんなくていいんだよ、岩本。君は皆から愛される鬼畜キャプテンでい続けてくれたまえ」
「もう黙ってろ、お前」
ゴツンと頭に岩本が手に持っていたバインダーが振り下ろされると、岩本はコートに向かって「10分休憩いれるぞー」と声をはりあげた。
岩本のその号令にわらわらとコート二面に散らばっていたバレー部の面々はそれぞれ体育館の片隅においてあるペットボトルやタオルを取りに行ったり、ふらふらと外へ出て行ったりと好き勝手にしている。
そんな中晴彦と透ちゃんだけがゆっくりとこっちへ向かって歩いてくる、ブラブラっと手を振れば晴彦の片手がよっとばかりにあがり透ちゃんにいたっては小走りになってこちらへ向かってきた。
透ちゃんと久しぶりと声をかわし、晴彦とは軽く言葉を交わすだけ。
二人があたしの横に並んで座ったのを見習ってあたしも座れば、岩本のヤツもその隣で同じように座る。
「クラスの出し物、どんな具合だ?放課後もずっと練習だからちっとも手伝えなくて悪いなぁとは思ってるんだけどよ」
同じクラスの晴彦がガシガシと頭をタオルでこすりながら首だけのばして尋ねてくる。
「周助から聞いてないの?今んところ順調らしいよ、相変わらず周助は厨房に入りたいらしいんだけどさ・・・」
「あー・・・それは危険なんじゃ」
「とりあえず家庭科部のやつだけで我慢しなさいって言ってはいるんだけど。まぁあんたは文化祭のことより新人戦のこと、気にしなさいよ。岩本から聞いたわよ、今回は優勝狙いで都大会までいくんだって?」
「そうなんだよ、先輩!冬は絶対に優勝するからね、負ける要素もないし!」
そう言って透ちゃんがぐっと拳を握り締める、顔は男にしてはもったいなさ過ぎるほど可愛いのに性格は人一倍漢だけど癒しになる。
「なんたって今回は負ける要素がないからね、先輩も楽しみにしててよ」
「おうおう、楽しみにしてる」
「うん!あ、そうだ、先輩に松坂、紹介してあげるよ」
へ?と奇妙な声を口から発する前に透ちゃんの「まつざかぁぁ」という声が体育館に響き渡る、あぁその一生懸命なところも可愛いよとホワンとした気持ちになりながらぼーっとしているとスっと影がおちてきた。
なんだなんだと顔を上げれば、そこには先ほどまでアニメのように人間離れしたジャンプ力を見せ付けてくれた(いや、実際漫画の世界なんだけどさ)転校生の姿。
「何か用かァ?」
どことなく間延びした声に晴彦がまぁ座れと手でバチバチと床を叩き、転校生の彼はそれに素直に従ってストンと私の目の前に座り込んだ。
「松坂、こいつ中等部の生徒会長でっつうの。今は忙しいから滅多にこないけど、しょっちゅうここに入り浸ってるヤツだからよろしくしてやってくれ」
「それでね、先輩。こっちがこの間転校してきた松坂飛翔、勿論知ってるでしょ?」
勿論さ、バレプリだもんよ。
あぁでもそれをいうなら晴彦や岩本、それにこの可愛い可愛い透ちゃんまでバレプリなのか。
なんだか急にとても遠い存在になったような気がするよ。
「よろしくねー、松坂君。ついでに、いつも裕太がお世話になってます」
そう言ってペコリと頭をさげると黒い髪がピョンピョンはねているバレプリ主人公は「おお!」と何か嬉しそうな声をあげると、私の胸をキュンとさせる言葉を口にしたのだ。
「あんたが裕太のお姉さんかァ!」
裕太のお姉さん、裕太のお姉さん、裕太のお姉さん・・・エコー・・・・・
なんだろう、この胸のときめき!!