大量の荷物と一緒にやってきたなんちゃってイトコの二人は母にとりあえず座っててといわれ大人しく(多少居心地悪そうに)リビングにあるソファに座っている。
肝心の母はというと服を着替えるべく自室にいて、何の説明を受けていないあたしはというとなんちゃってイトコ二人にお茶を出していた。
「ど、どうぞ?」
お茶を出すのに疑問形も何もあったもんじゃないとは思うのだけども。
二人はというと、小さくありがとうと返してくれ麦茶の入ったグラスに手を伸ばしてくれている。
「………」
「………」
「………」
なんだ、このリビングの空気の重さは!!
あたしも彼ら二人もそれぞれが持ってる麦茶の入ったグラスをじーっと見つめてるだけで口を開こうとしない。
え、ていうかこういう場合、あたしの家なわけだしあたしがなにか言うべきなの!?
でもさ、ほら、なにかおかしいよね。
あたしのイトコって確か女の子で、小学生で、その二人しかあたしのイトコはいないわけだから。
目の前にいるどう見ても男のコで、明からに小学生じゃなくて、いやまぁ二人だけど。
悩めば悩むほどドツボにはまっていってるようで、早く着替えてリビングこいやぁクソババァ!と本人にはいえないので心の中で叫んでおく。
緊張に緊張して明らかに瞬きの回数が普段の倍を上まっているのがわかる。
チラと目の前に座っている『兄』と思しき人間の方に視線をやると、偶然向こうの視線もこちらを向いていて目があってしまう。
(!!!ヤバっ)
急いで視線をそらしてすぐにうつむこうと思ったのだけども、彼の方がニコッと麗しい笑みを浮かべて微笑んでくれあたしの方もついニコっと頬をひくつかせて笑ってみた。
あぁうまく笑えない、笑えるわけない。
そろそろこの静か過ぎる空間にあたしが耐えれない!!そう思ったとき。
やっとお母さんが着替え終わってリビングへやってきた。
「あら?静かねぇ。三人で喋ったりしなかったの?」
全くもって接点のないこの二人とどうやって喋れっていうんだ、そういうならせめてまともな紹介してから三人をリビングに残していってくれ。
お母さんは相変わらず暢気にコップに麦茶をそそぎグイっと飲む。
「ちゃん、とりあえず留守電は聞いてくれたんでしょ?」
「あーうん、聞いたといえば聞いた、んだけど。あたし、イトコは女の子二人だけだったような気がするんだけど」
いや、気がするじゃなくて確実にあたしのイトコは二人だけだ、しかも女の子。
結婚してないあの叔母さん(お父さんの妹)に隠し子がいない限り!!
「そうよ、だからちゃんとさっき『なんちゃって』って言ったじゃないの」
「ごめん。お母さん、いまいち意味がよくわかんない」
「もう!なんでわかってくれないの!だからなんちゃってだって言ってるじゃないの」
「それじゃ説明になってないんだっつの!」
「ごめんね。えーと、ちゃんだっけ?」
それまで黙っていた『兄』の方があたしとお母さんの切ない会話に入ってくる。
『弟』の方は相変わらず手に持ったグラスに視線を落としていて、その背中にはあたしの目の錯覚でなければどことなく縦線がいっぱいくっついてる気がする。
「僕たち、実は家がなくて。困ってたところを君のお母さんに拾ってもらったんだ」
「――は?」
『兄』の話によると、気付いたらよくわからない公園にいた、らしい。
自分たちの家や学校の近くにはそんな公園はなかったし、おかしいと思って駅に向かおうとしている途中で道がわからず尋ねた相手がお母さんだったというわけらしい。
事情をお母さんに話して車で駅に行ったのはいいものの、自分たちの家の近くの駅が存在していないことを知ってしまう。
愕然と二人して駅の料金案内図を見つめている二人に、お母さんからうちに来ればいいと声をかけてあげたんだそう。
そんな簡単に二人を信用していいのかどうかあたしにはわからないんだけど。
「でも普通なら誰もこんなこと信じてくれないと思うんですが、なぜ信じてくれたんです?」
『兄』の方がお母さんの方に顔を向けて尋ねている、横に座っている『弟』の方も同じ事を思っていたのか顔をあげている。
で、肝心のお母さんはというと。
「だってお母さんが好きな子だったんだもん」
そう言ってテーブルの上に置いてあったテレビのリモコンを取りなにやら色々ボタンを押し始める。
テレビがつき、下にセットしてあるDVDレコーダーの電源もいつのまにかつき作動し始める。
ちょっとまて、このオバハン、何を見る気だ!とお母さんとテレビの画面を交互に見つめていると。
「俺のオレンジ〜かえせよー」
「ご招待いただきありがとうございます、桜吹雪さん」
「賭けテニスゥ!?俺たちに負けろってか?」
いつのまに購入したのか、画面からは劇場版テニスの王子様が流れ始めた。
あたしはこんなDVDがあるなんて今、はじめて知ったぞ!!
呆気にとられてテレビを見つめていると後ろから「あ、僕だ。懐かしいなぁ」という声と「あ、兄貴!?それに手塚さん!?あのクソ生意気な一年まで!?」という声が聞こえてくる。
横でニコニコと笑顔でテレビを見つめているお母さん(しかもどことなく目がキラキラしている)を放っておいて、床に落ちているジャンプを手に取る。
パラパラとめくっていくと、テニスの王子様のページに行き当たる。
やっぱり瞬きの回数増えてるなぁと思いつつテレビに見入っちゃってる二人の顔とジャンプとを交互に見てみる。
そのうちあたしの奇怪な行動(というか寧ろ視線だろう)に気付いた『兄』のほうがクスっと笑い「どうかしましたか?」と声をかけてきた。
「あの、いや、えと、あー…」
「?」
だって。
こんな馬鹿みたいな夢みたいな話ってあるもんなんだろうか。
色々科学的におかしいじゃないの。
でも、目の前にいるのは紛れもなく。
「これ、貴方ですか?」
そう言って『兄』にジャンプで立海の切原赤也と試合している『不二周助』を見せてみた。