「「とりあえず役割分担することにきめました」」

お母さんと美那子叔母さんの声が綺麗に重なった。
二人して真剣な顔であたしたち三人の方を見ているけれど、二人の手にはしっかりとビールの缶が握られている。
ついでにそのまわりにすでに何本か空になった缶も。

「私が授業参観のときはお母さん役」

お母さんがニヘラと笑い

「それで私は三者面談のときにお母さん」

美那子叔母さんもニヘラと笑う。

「これで他のお母様方に『おたくの息子さん素敵ね〜』と言われ放題。ちゃんじゃ言われないんだもの、たまには優越感に浸ってみたいわよ」
「ソレハドーモスミマセンネ」
「私も担任の先生達に言われるの、『こんな素敵な息子さんがいらっしゃって羨ましいですなハッハッハ』とか」
「俺の担任女の人・・・」
「しっ!裕太黙ってなさい!」

揃って乙女のように両頬に手を当ててウフフと笑い出した二人にあたしたちはダイニングから離れる決意を固める。
だめだ、こんな空間にいたら二人の目当てである周助と裕太はともかく、あたしは二人と比べられる材料にしかならない。
惨めな思いをしてたまるかと食べ終わった食器を片付けるとそそくさとダイニングから出て行こうとする。
その後を裕太と周助もついてこようとしたのだけれど、ちょうどドアをくぐろうとしたところで美那子叔母さんに「ちょっとどこへ行くの!!」と声をかけられる。
既に廊下に出ていたあたしは二人の方に振り返ってニヤっと笑うと一目散に階段に向かってダッシュし、そのまま自分の部屋にむかって駆け上がっていく。
後ろから裕太の『裏切り者ぉ』とかいう声が聞こえてきたけれど、ぶっちゃけあたしは裏切り者でもなんでもない。
美那子叔母さんの『さー記念に写真をいっぱい撮るわよー』とかいうでっかい声が自分の部屋のドアをしめる直前に聞こえてきて、あぁこれから最低でも2時間はリビングがミョージョーだのなんだの某雑誌のスタジオみたいになるんだわとちょうど床下の部屋にいる二人に向かって手を合わせた。







―――それから3時間、不二兄弟の姿を見ることはなかった。






ちなみにその日の晩、美那子叔母さんによって撮られた写真は大きく引き伸ばされ何故かお父さんとお母さんの寝室に額縁にいれられて飾られる事になる。













生徒会の仕事と勉強とをなんとか両立させながら2,3日過ごし、目の下にでっかい隈を作りながらもようやく金曜日を迎えた。
学校全体がそわそわとしていて、一応午前中だけ授業があったもののほとんどの生徒が恐らく授業を聞いていなかったに違いない。
かくいうあたしも授業中だというのに生徒会の仕事を内職のようにせっせと机の上でやっていて、お昼ご飯を行儀が悪いと思いつつかきこむとダッシュで生徒会室へと向かう。
あれをしてこれをしてあーだのうーだの考えながら廊下を歩いていると、ちょうど渡り廊下のところで「裕太のお姉さん!」と声を掛けられる。
あーこの呼ばれ方は胸にキュンとくる!と一人心の中でガッツポーズをしながら振り向けば、松坂君と裕太の姿。

「あー、裕太おはよう!松坂君もおはよう」
「今日は朝早かったんだな、起きたらもう家にいなかったから驚いた。珍しいこともあるもんだなーって」
「お姉さん、おはよーっす。明日から文化祭なんすよねー、いいなーいいなー、俺もでたかったなー」
「珍しいとか言うな!松坂君、転校してきたばかりなのにバレーの試合があるんだっけか。そりゃご愁傷様ーってやつだね」
「お姉さん、ひっでえ!ちょっとは慰めてあげようとか思ってくれねえの?」

お前の顔が桃城みたいじゃなければね、考えたんだけどね。
ひっそりと顔をそらしてため息をつく。
そう、せめて芥川くんだとか丸井くんとだとか、許せて向日くん、あのへんの顔と身長だったらよしよしと頭を撫でるくらいはやるんだけどさ。

「そういやって生徒会長なんだろ?忙しいんじゃねえの?」
「ものっそい忙しいっつの!結構前から家でもバタバタしてたでしょーが。つかあんたたち、クラスの出し物の準備はいいわけ?」
「俺たちのクラス、とっくに準備終わってるんすよ。俺は体育館が使えないから練習もできなくて暇だし」
「俺は松坂に仕方なく付き合ってるだけ。さっさと帰りたいんだけどさ」

二人して肘でお互いの体をつつきあう、本当に仲が良くなったのねぇと妙に関心してしまって一人うんうんと頷いていると裕太にどうかしたかと尋ねられる。
なんでもないと答えて、あぁと良いことを思いついた。

「二人とも暇なら生徒会の方、手伝ってよ。猫どころか阿呆の手でも借りたいくらい忙しいんだよね」
「猫はわかるけどなんで阿呆・・・」
「ん!俺、いいっすよ。そんなに遅くならないんだったら頑張りまーっス!でも後でなんかおごってくださいね〜」

ハイハイとにこにこ笑いながら手をあげてくれる松坂くんにありがとうと言って裕太の方を振り向けば、仕方ないなあとばかりにため息をわざとらしくついて俺も手伝うよと言ってくれる。

「マイお財布は年中寒い思いをしてるから、うちにでもくれば?晩ご飯なら(お母さんが超喜んで)用意するし、ついでに裕太の部屋にでも泊まっていけばいいんじゃない?ワオ、あたしグッドアイデア〜!」
は自分の金は使わない主義なんだ」
「ふ〜ん、んじゃ今度裕太の家にお邪魔するっす!それで、何手伝えばいいんすか?」

生徒会室に向かって歩き出したあたしの後ろを二人が着いてくる。
ふと、こういうシーンも向こうのジャンプでは漫画になってしまっているんだろうかと、もし『学プリ』みたいなゲームがバレプリでもでてたとしたら私ってば確実にキャラ化してるんじゃないだろうかとそんなことを思いつく。
あの日、美那子叔母さんがやってきた日、私は自分の部屋に閉じこもっていたので知らなかったのだけれどどうやら写真撮影会が終了した後お母さんと叔母さんの二人は裕太と周助を横にはべらせて学プリ大会とかいうものを開いていたらしく、次の日の朝、裕太はともかく周助ですらも見る影もないほど無残な姿で朝ごはんをつついていた。
どうやら一応お母さんとおばさんも二人に遠慮してエンディングは跡部で迎えたらしいのだけれど、話しかける相手に必ず裕太と周助を毎回毎回選んでいたらしい。
恥ずかしいとかそういう問題じゃないよね、羞恥プレイもいいところ、気分的には二人ともAVに出演してる気分だったんじゃないかと思えるほどだ。
さらに色々とこの世界のオタク業界を思い出しつつ考えてみると、恐らくバレプリ検索なるサーチや検索サイトもあるに違いない。
裕太がとりあえずあたしらしき人物がバレプリなる漫画に存在する事は認めたから、下手をすると・・・

っていう検索項目があったりするわけ?というか家とかあったらどうしよう!」

自分のチェックボックスがあったりしちゃうかもしれないということだ。
なんということだ、これじゃああたしもちゃっかり別世界で羞恥プレイもいいところだ。

「あ、あたしは知らないところでAV(みたいな感じのもの)に出演してしまってたんだわ・・・・」

がっくりと両手を廊下につけて跪いたというか項垂れたというか、まぁそんな状態になってしまったあたしが更にAV発言なるものをしてしまった為に回りにたまたまだ二人以外いなかったから良かったものの、裕太と松坂くんは「なにぃぃぃ」と叫び声をあげてのけぞった。