ジリリリリバンッリリリリリリドガッ!!!!

「うぅ…もう七時…?」

もう少し眠ってたいとばかりに落ちてくる瞼を今日は朝から集会があるから早く学校に行かなくちゃ行けないという責任感だけでなんとか押しとどめる。
さっき叩きすぎたのかベッドサイドからいつのまにか床に落ちている目覚まし時計に手を伸ばし元の位置に置きなおす。
まだまだ起きるのは億劫で、やっぱりあと五分だけ寝ようと枕に顔をうずめる。
その瞬間


世界が終わるまでは〜は〜な〜れ〜るぅ〜こと〜もな〜い そうねが〜ってい〜た〜


今度はベッドから離れたところにあるあたしの机の上においてある携帯がガンガンに着うたを流す。
えーい五月蝿い!!と思いながらも反面、頭の中で『やっぱりバスケがしたいです』という台詞が流れてくるところあたしも十分スラダンっ子だなぁと思う。
そういえばその彼は手塚部長だったんだっけ…とか思ってるうちに着うたは二巡目に入ろうとしていた。
いい加減起きようと「おっしゃ」と気合をいれて腕立て伏せの容量でベッドの上で起き上がる。
そのまま急いでベッドからおりて机の上にある携帯を手に取りボタン操作し着うたをとめる。
ついでに寝ている間は携帯の電源を切っていたのでその間にメールがきていないかチェック。
3件受信箱にはいってくるが送信者が学校の友達なのでとりあえず後回し、電車の中でチェックすることにする。
寝起きで体温があがっているせいかフローリングの床がひんやりとしていて気持ちいい。
首をグルグルとまわしながら顔を洗おうと洗面所に向かってるとちょうど廊下の曲がり角のところでドスンと誰かにぶつかる。
お父さんにしては少し起きるの早いんじゃないの〜とどこか感心しながら「おはよ、おとーさん」といって顔をあげると。

「お、おはよう…ござい…ます

段々と小さくなっていく声。
それに、顔を赤らめてうつむき加減な少年。

「お、おはよーございます?」

思わず疑問系で朝の挨拶を返してしまったあたしはそのまま彼の目の前で棒立ちになる。
あたしの方が身長が低いので向こうがうつむいているとあたしの目とバッチリ合う。
思わず目の前に立つ本来なら我が家にはいるはずのない、いや、あたしの周り、いやいや、この世界にいるはずのない少年の顔をじーーーーっと見つめてしまう。

「あの?」

ほとんど瞬きをせずに彼の顔を見つめていたあたしに困ったように声をかけてきたのをきっかけにあたしの頭が普段この時間ならありえないスピードで回転し始める。
ぐるぐるぐると昨日の出来事が走馬灯のように、いや、まだ死なないから走馬灯っていわないのか、じゃあなんていうのかなんてのは置いておいて。
とにかく走馬灯のように(結局もどってきてる気がする)頭の中を駆け巡る駆け巡る。
それがまるでジグソーパズルの最後のピースをはめた時のように一つに繋がって。


「あーーー!!!不二裕太ぁぁ!?」


私の大絶叫が家中に響いた。














「朝から大声あげて!ご近所に迷惑じゃないの。怒られるのお母さんなんだからね
「すんません……」

キッチンからネチネチネチネチとお弁当を作っているお母さんの嫌味がダイニングで朝ごはんを食べているあたしの耳に入ってくる。
勿論それは同じテーブルで一緒にご飯を食べているなんちゃってイトコ達にも聞こえてるわけで。

「くすくす」

『兄』の『不二周助』が本当におかしそうに口元に手をやって笑っていて。
その横で『弟』の『不二裕太』がさっきと同じように顔を真っ赤にして箸で皿の上の魚をほぐしていた。
そんな二人の前に座っているあたしはというと、なぜか自分の家なのに肩身の狭い気分に陥っていて椅子の上で縮こまっていた。


―――そう、昨日の出来事は夢の世界の話ではなかった。





「これ、貴方ですか?」

そうジャンプ片手に尋ねたあたしに『兄』のほうはそのジャンプを受け取ってぺらぺらと何ページかページをめくって

「うん、僕みたいだね」

と、ちょっと困った笑い顔とでもいうのだろうか、眉を落として答えた。
『不二周助』だという少年の横に座っている髪の短い少年は兄の手にあるジャンプを覗き込んで「ウワッ!!」と叫び声をあげてのけぞる。
ハイといって渡されたジャンプを落ち着きなく食いつくようにして読む『弟』は、さっきのあたしと同じようにジャンプと兄である不二周助の顔を交互にみつめ。

「これ、兄貴?え?なんでジャンプに載ってるわけ?え?え?」

そして今度は試合をしている手塚部長がうつっているテレビとお母さん、そしてあたしの顔を見てくる。
けれどテレビで手塚部長の放ったテニスボールが地球から飛び出して宇宙にいって更にそれがなぜか隕石になって恐竜が逃げ惑う地球に落ちていく、そんなシーンが流れるとポカーンと口をあけてみつめている。
これが、普通の反応、なんだと思う。まず、その前に普通も何もこの状況が普通じゃないんだけども。

「じゃあ貴方が不二周助で、その隣の少年は貴方の弟の不二裕太くんでいいわけだ」
「うん。ほら、裕太。挨拶して」
「え、あ。えと、不二、裕太…です

ぽかんとテレビに見入っていた(あれは恐らく手塚部長の技のスケールのでかさとありえなさに驚いていただけだと思う)裕太少年は兄に促され、ペコリと頭をさげた。
ちなみにあたしたち三人がそんな風になんとか頑張って状況を理解しようとしている間、お母さんは相変わらず目をキラキラさせてテレビに夢中になっていた。
晩御飯、作ってよね。おなかすいたんだけど。

「どうやら僕たち、ここでは漫画とかアニメの二次元の世界の人間みたいだね」
「なんで!?俺、普通にルドルフの寮にいたんだけど!?」
「落ち着いて、裕太。僕も自分の部屋にいたはずなんだ」
「二人とも、違う場所にいたの?」

そう尋ねると二人はこくんと一つ頷く。
ルドルフが東京のどの位置にあって、不二兄弟の家がさらにどの辺りにあるのかなんてのは知らないけれど電車じゃなきゃ行けない距離ではあるんだと思う。

「でも、気付いたらあの公園にいて目の前には兄貴がいた」
「それに、僕たちのところでは夕方だったのにこっちじゃ午前中」

あたしの目の前で真剣に悩む二人を見ていて力になってあげたいとは思うんだけど、まずあたしはいまだこの状況についていけていない。
こんなバカみたいなことがあっていいものなのか。
でもあたしの目の前にいる二人はあの『不二兄弟』だ、本物だ。
なにをどうやったら漫画の世界の人間が生きてあたしの目の前にあらわれるっつうんだ。
きっとそれは目の前の二人もそう。
なにか声かけてあげなきゃ、と二人のほうに顔をあげたところで。
十分満足したのかお母さんがニコニコと笑いながら二人に大丈夫よ、と声をかけた。
はっと二人も顔をあげてお母さんの顔をみつめている。

「今はとにかくご飯を食べて、ゆっくり落ち着きましょう。車の中でも何回も言ったけど、帰る方法見つかるまでこの家にいてくれていいんだから」

大丈夫よ、ともう一度言われて裕太少年が眉をよせたままうつむいてしまう。
そんな弟の肩をぽんぽんとやさしく叩いてあげて、周助少年(大変言いにくい)はお母さんにぺこりと頭をさげた。

「ご厄介になります、宜しくお願いします」
「勿論!!任せておいて!!」

そういって、ご飯にしましょうかと立ち上がったお母さんはあれ?とばかりにあたしの方に顔を向けてくる。

「晩御飯、作ってくれてる?」
んなわけないでしょ