『はーいはいはい、静かにしてくださいねー』
がやがやとかなり五月蝿い体育館の中であたしは壇上に立ちマイク片手に生徒に向けて口を開いた。
それで半分くらい静かになるがそれでもやっぱり聞いてないやつというかおしゃべりに夢中になってるやつというか、まぁ全く気にかけてないってやつもいて五月蝿いといえば五月蝿い。
あたしの言い方も適当だったようで(確かに適当だろうよ)横から先生が「普通に喋りなさい!!」なんて声を張り上げている。
張り上げなきゃ壇上にまで聞こえてこないんだね、かわいそう。
『えー、コホン。静かにしてください』
でも丁寧に言ったからって静かになるわけじゃないわけでしょ。
『静かにしてくださいって言ってるのが聞こえないのかな、そう、聞こえないの。黙れといえば静かになってくれるわけ?』
ついでにドンと壇上の机みたいなやつを叩く、思い切り拳で。
マイクでその音はしっかりと体育館中に響き渡りいっきに中は静まり返る。
慌てたように先生が横から「だから普通に喋りなさいって言ってるだろう!!」と今度は普通の声で言っている。
それをさくっと無視してマイク越しに宣言する。
『今から中等部の朝礼をはじめます、気をつけ、礼!!』
マイクだなんだの片付けは放送部に任せて解散後あたしを待っててくれた友達と一緒に教室へと向かう。
彼女は榛名朋子<ハルナトモコ>といい、小学校からの付き合いで同じ中学お受験をクリアしてきた友達だ。
おばさんもおじさんも生粋の日本人なのにハーフだとしょっちゅう間違われるほど色素の薄い、可愛い子だ。
「、なんか今日は朝から疲れてるね?」
「あー、うん。疲れてるといえば、疲れてるかもしれない…」
大丈夫かと口には出さないけれど一応心配してはくれているらしい。
ため息混じりに答えると榛名は、ふーんそっか、とだけ言い黙々と教室へと歩みを進める。
「なんかね、昨日から突然(なんちゃって)イトコが二人居候することになってさ。突然だったから昨日はすっごいバタバタしてて」
「突然?二人も?それはまた急だったんだね」
「そうなの、荷物整理とか必要なもの揃えたりは今日やるみたいなんだけど。あたしも帰ったら手伝わなきゃなぁ」
「今日やるって、そのイトコ二人だけで?」
「まさか。今日はお母さん仕事休んでるよ、朝から無駄にはりきってる」
「あー…のお母さんがはりきってるんだ…」
あたしのお母さんのことをよく知ってる榛名はなんとなく想像がつくのだろう、苦笑いしている。
結局お父さんはお母さんに逆らうことなく不二兄弟が我が家で居候することに賛成し、朝もなにごともなかったように笑顔で「いってらっしゃい」とあたしを送り出した。
ある意味大物だ、懐が広いというか。
そんなお父さんの不二兄弟を見た最初の一言は「あぁ、あのすっごく笑えるアニメの子たちかぁ」だった。
どうやらお母さんと一緒にあのDVDを見たらしい。いつ見たんだ、コノヤロー。
まぁそんな事言われちゃった二人は、ものすっごく困ったように笑ってたけど。
あの二人は悪くない、悪いとしたら許●先生とテレビ●京だ。
「まぁそんなわけだから今日は帰りのホームルーム終わったら即効で帰るよ」
「はいはい、頑張ってね」
なにを!?一体あたしはなにを頑張ればいいの!?
そう叫びたかったが教室を目の前にしてあたしはぐっと黙り込んだ。
そして。
家に帰ったあたしを待っていたのはハッスルしすぎな我が母親だった。
「いやーん、ちゃーん!聞いて聞いて〜」
玄関のドアを開ければ嬉しそうに飛び出してくるのはニマニマと笑っているお母さん。
あぁ、相当いいことあったんだなと思って、どうしたの?とローファーを脱ぎながら尋ねてやる。
ここで尋ねなければ延々と聞いて聞いてを連発してくるのだ、決して自分からは話さない。
自分の部屋に向かっていると後ろから爆弾発言が聞こえてきた。
「不二くんたちが本当に甥っ子になるの〜」
「は?」
思わず足を止めてぐるんと顔を後ろにいる我が母親に向ける。
当の母親はやっぱり帰ってきた時と同じニマニマ顔で。
それはそれは本当楽しそう、いや嬉しそう。
「ちょっと、どういうこと?今日一日一体何してたわけ?」
「あのね、おじいちゃんにちょっと頼んで住民票作ってもらって美那子さんと養子縁組してもらっちゃった」
もらっちゃった…って。
美那子さんっていうのはあたしの叔母にあたる人だ、正確に言うとあたしのお父さんの妹。
未婚で一人身をエンジョイしてる若々しい人だ、そう、未婚だ!!
「―――養子縁組してもらったの?」
「うん」
今この瞬間、あの若々しい叔母は未婚の二児の母親になった。