あたしは持っていたカバンを自分の部屋に投げ込むことなく廊下に放って、そのままダッシュでリビングへと駆け込んだ。
ソファにはやけにぐったりとしている不二兄弟の姿が。
あたしはその姿を見て思わず二人の目の前にまで走っていき即座に土下座した。
その際ゴンと素敵な音をたてて頭が床にぶつかったが。


「ほんっとーーにごめんなさい!!うちのお馬鹿な母親が!!ああ本当にごめんなさい!!なんといって謝ればいいものやら!


そして。
ここにはいない、あたしの叔母よ。


本当申し訳ない。



「うわ、頭うったぞ!?大丈夫か?」
「大丈夫?頭あげてよ、ね?君がそんなことする必要なんて全くないんだから」

ぐりぐりと額を床に押し付け頭をさげていると目の前の二人から焦ったような声が聞こえ視界の中に二人のスリッパが入る。

「イヤでも!本当ごめんなさい!急に養子縁組だなんだなんて、迷惑でしかないのに!」

本当に、あの母親は一体何を考えているんだ!!
さらにグリグリと額を床に押し付けていると頭の上にどちらかの手がそっと置かれる。
性格から考えて兄の方だ、いや絶対そうだ(弟と直接的な接触は朝のぶつかり事件以外一切ない!!

「ねぇ、とにかく頭あげてよ。僕たち、迷惑だなんて思ってないんだから」
「でも!」
「兄貴の言うとおりだぜ。俺たち、そこまで嫌がってないからさ」

嫌がってない!?なんで!?
ガバッと頭をあげるとちょうど真上に裕太少年の顔があったようでガンといい音をたててぶつかる。
瞬間裕太少年はあごをおさえて、あたしは頭を抑えて床にうずくまった。
ちなみに二人とも声が出てない。

「だ、だいじょうぶ?二人とも、プッ

不二兄が心配して尋ねてくれているんだろうけど笑いを必死でこらえているのがまるわかりで切ない
とにかくだ。

「住民票はまだしも、養子縁組だなんて嫌でしょう?二人ともちゃんとご両親がいてお姉さんもいるんだから」
「それはそうなんだけど。でも、僕たち、やっぱりこの世界じゃ二人きりなんだよ」

にこっと笑ってくれるのはいいんだけど、でもとても寂しそう。

「もとの世界にいつ帰れるかわからない今の状態で、裕太と二人だけで過ごしていくのはきっと難しい。どんなに頑張っても僕たちは所詮中学生だ。短い期間かもしれない、長い期間かもしれない、全く検討つかないその間、『不二』でいることはすごくすごく難しい」
「――兄貴」
ちゃんが嫌じゃなかったら、僕たち二人も『』でいさせてほしいんだ」

そう言って彼はぺこんと頭をさげた。
床についていたあたしの手の上にはいつの間にか彼の手が置かれている。
触れている部分はとてもあたたかくて、彼が今あたしの目の前で生きていると実感させられる。
そう、彼は、不二周助は確かに『テニスの王子様』のキャラクターだ。

でも。

今あたしの目の前にいる不二周助はちゃんと息をしてる、心臓も動いてる、からだだってあったかい。





――生きてるんだ。





「あの、俺からもお願いします。帰る方法が見つかるまで、ここにいさせてください」

そして今度は不二裕太がぺこりと頭をさげる。
そう、彼だって生きてる。
いくらお兄さんがいるからといっても、二人だけで不安になってるはずなんだから。

あたしがやってあげれることはなにがある、

「―――あたしのことは」
「え?」
「あたしのことはって呼んで。あたしだって二人のことは周助、裕太って呼ぶ」

あたしは二人の不安を少しでも少なくしてあげればいい、取り除いてあげればいい。
寂しいって思えないように、楽しいことをいっぱい、いっぱい与えてあげればいい。
お母さんやお父さん、おじいちゃん、叔母さんみたいに力にはなってあげれないけど、だったらあたしは違うところで二人の力になる。
キャラクターでもない、一生懸命生きてる二人の人間のために。

「だから、これからよろしくね?我が従兄弟の周助くんに裕太くん」
「こちらこそよろしく、
「よろしくお願いします、…さん」

ひんやりとした床に座り込んだあたしたち三人はお互いの手をがっしりと握り合って笑いあう。









―――この日があたしたち新しい家族の本当の意味でのスタートになった。


















ジジジィィーーーーー

「お母さん、DVDレコーダーなんて持って何やってんの?」
「いやーん、だってなんだか感動のシーンみたいだから!」
「だから?」
「ホームビデオに加えようと思って。うんうん、いい絵がとれた。やっぱモデルがいいのねぇ、お母さん幸せだわぁ」

雰囲気ぶち壊しだよ、お母さん