二人の部屋には二階の使われてない客間を二つそれぞれあてがうことにしたあたしたちは、三人(不二兄弟+お母さん)が今日買ってきたものを早速部屋に運ぶことにした。

只今の時刻、五時半。
リビングに溢れかえる荷物、リビングの約四分の三
どうしろっつうんだ!!しかもどうやら二人分の荷物がしっかりと一緒くたになっているらしい。

「とりあえず二人は荷物片っ端からそれぞれのものにわけていくこと!ちゃんとだした袋は綺麗にたたんでね、その方があとで楽だから」
「わかったよ」
「……あの、さん」

呼び捨てでいいって言ったんだけど、言いにくいのか(はたまた恥ずかしいのか)裕太はしっかりと「さん」付け呼びだ。
急には無理だと(彼の性格じゃね)は思ったけど、なんとなく寂しい。
なんならあたしの方が年上なわけだし、お姉ちゃん、でもいいような。
顔を真っ赤にして困り果てるのが目に見えるけど。

「どうかした?」
「あの、いまさらなんですけど、家電とか服とか色々買ってもらったんですけど大丈夫なんですか?」
「え?なにか足りないものでもあった!?」
「違うよ。裕太が、勿論僕もなんだけど、心配してるのは、その…お金のことなんだ

言いづらそうにしていた裕太の代わりに周助が答えてくれる。
そういう周助も言いづらかったのか最後の方は声が小さくなっていた。

「あぁ!!いいんじゃないの?どうせお母さんがポイポイ買ってったんでしょ?」
「えと、まぁ…そうなんだけど」
「それに多分お金なら気にしなくていいんじゃないかなぁ、おじいちゃんいるし」

うちのおじいちゃん(お父さんのお父さん)はなんちゃってじゃなくて本物の国会議員をやっている。
もとをただすと弁護士さんなんだけど、色々と事情があったらしく弁護士事務所のほうはお父さんに任せ今はバリバリと永田町人間をしている。
偽住民票作成もきっとおじいちゃんの事務所で行われてるに違いない。

「金があふれてるわけじゃないけど、お母さんがいいって言ってるんなら大丈夫なんじゃない?でしょ?」

そう言ってお母さんのほうを振り向くと勿論よ、と笑顔を二人に向けていた。
あの様子を見る限り当分お母さんは仕事そっちのけで二人につきっきりになりそう。
頑張れ、ふたりとも!!娘のあたしが言うのもなんだけど、手ごわいぞ!!

「じゃあ荷物整理お願いね。その間お母さんとあたしは二人の部屋の掃除!!」
「あぁ、そうね、掃除しなきゃ!家具置く場所も考えなきゃいけないし、ベッドのシーツも取り替えて…」

あたしが背中を押すまでもなくお母さんはぶつぶつと呟きながら二階に続く階段を駆け足でのぼっていく。
ちょっと、待て?今家具がどうのとか言ってなかっただろうか。

「なに、あの人、家具まで買っちゃったわけ?」
「小さいのをね。二人で一緒に使うから一つでいいって言ったんだけど」
「その上コンポのセットまで二つ買おうとしたから。さすがにこっちは一つにしてもらったけど」

あぁ、我が母よ。
ちょっとってレベルじゃなくて、うかれすぎじゃありませんか?

「その、二人とも。なんというかゴメン

――君たちがどうしてそんなにお金を心配するのか理解したよ。









「荷物の方、全部わけ終わったよ」

お母さんと手分けして二つの部屋の掃除をしていると周助がやってきてドアの隙間から顔をのぞかせている。
それぞれ分け終わった荷物は全部まとめてきたらしく周助の手にも、彼の後ろで立っている裕太の手にも荷物の入った紙袋がいくつかぶらさがっている。
時計を見るとあと5分で七時になろうとしていて、結構部屋にこもってたなぁと背伸びを一つ、ポキといい音が耳に入ってくる。

「こっちの部屋が裕太のね、隣のお母さんがいる部屋が周助の部屋」
「ありがとう」
「昨日もここで寝てたからね、わかりやすいでしょ?あ、知ってると思うけどあたしの部屋は二人の部屋の前の部屋ね」

あたしと入れ替わりで裕太が部屋の中に入りベッドサイドに手に持っていた紙袋をどさっと置く。
とりあえず今部屋の中にあるのはベッドとクローゼット、それから小さな物置きにお母さんが実家から持ってきたやけに荘厳な机と椅子。
こんな机、誰が使うんだって今まで疑問に思ってたけど(それくらい重々しい雰囲気を放ってる)今日からやっと持ち主があらわれてくれたわけだ。
きっと机と椅子も喜んでるに違いない。

「お母さん、そっちはできた?周助たち、もう来てるけど」
「バッチリよ!はいってはいって〜」

そして、裕太の部屋と同じ間取りのもう一つの客間が周助の部屋になる。
こっちの部屋も似たような感じで、違うといえば周助の部屋にはあの荘厳な机と椅子のセットがないことだ。
そのかわり。

「うわ、すっげぇ箪笥…」

そうだろう、裕太。あたしもそう思うよ。
あの机と椅子セットのかわりにこれまたお母さんが実家から持ってきたやけに立派な箪笥が一つ置いてある。
言っちゃあなんだがあの机と椅子のセット以上にこの箪笥は部屋の中で浮いている。
ちらっと隣に立つ周助を見ると、昨日もこの部屋で寝てたので免疫がついてしまったのか無反応――

「…はぁ」

でもなかった。
やっぱり一日足らずじゃあの箪笥には馴染めないと思う。

「はい、これからこの部屋使ってね。周助くん」
「あ、ありがとうございます」

笑顔でお母さんに部屋を明け渡される周助を見てあたしと裕太の心の中はきっと同じことを思ってるに違いない。

(がんばれ、兄貴!!)
(がんばって、周助!!)

「ところで、今何時なの?もう外も真っ暗ねぇ。ついこの間まではまだまだ明るかったのに」
「本当にね、ちなみにあと2,3分で7時になるけど」

ポケットの携帯をひらいて時間を確認すればもう6時58分である。
おなかもすいてきたし、そろそろ夕御飯の時間だよねとお母さんを見れば。

「大変!もう7時なの!?ほら、早く!!みんなリビングに降りて!!

焦ったようにあたしたち三人の背中をぐいぐいと階段に向かって押し始める。
一体なに?と不思議に思うもののお母さんの突拍子もない行動なんてあたしにしてみればすっかり慣れたものだし、二人も昨日今日とで十分わかっただろうと思う。
するりと背中を押す手から逃れて大人しくお母さんのあとから階段を降りていこうとしていると、どうやら周助の方もお母さんの手(別名魔の手)から逃れたらしくあたしの後ろを歩いている。
前を見てみると逃れられなかった、まぁ別の言葉をかりると『どんくさい』裕太がお母さんに背中を押されながら階段を降りている。
すっごく足取りが危なそうに見えるのはあたしの目の錯覚ではないだろう。
階段では人を押さないようにね。

「で。リビングで一体なにがあるの?」
「テレビよテレビ!!一緒に見ましょうよ!!」

そう言ってソファに(無理やり)座らされたあたしたちの前にあるテレビがブィンと音をたてて明るくなった。
三人仲良く座ってたあたしたちは一体何を見る気だ、とチャンネル操作をしているお母さんのほうに視線を向けていたのだが。




フラァーーイハイ アンド スカァーーイハイ さぁゆーめーよはーばーたーけ たぁいよぉにいまキィラァメキー あぁのそらぁへぇ〜





「あ、僕だね」

大きなテレビにはしっかりと『テニスの王子様』というタイトルが映し出され、三人の目はテレビに釘付けになった。


―――そんな、とある日の水曜のイブニング(なんで英語)