勘がいい、とは思わない。
どっちかっていうと積み重ね型の人間で、いわゆる本能とか第六感というのにあたしはどっちかっていうと遠い存在だ。
たまーに当たるのも大概自分にとって嫌な事とかで、良い事で当たった事なんかためしもない。

たいていその嫌な予感は授業中とかテスト返却後とかにぞぞぞっというかビビビっとくるのだけれど。

まさか何もない休み時間に感じるとは思わなかった。
それは他のクラスメートたちと廊下でおしゃべりしていたときのことなんだけれど。

、知ってる?」
「ん?何を?」

ロッカーの中から教科書やらノートやら置き勉していたものを取り出していると、その傍らで話しに花をさかしていた子が今思い出したとばかりにあたしに話しかけてくる。

「なんかさ、転校生がきちゃうらしいよ?」
「は?」
「珍しいというかはじめてなんじゃない?一応ここ中学も高校も受験でしか入れない進学校だしさ」
「そーそー。しかもなんか二人らしいしね。女の子かなぁ」

男の子だと思います。

なんて口が裂けても言えない。
いやいや、それ以前に転校生ってなんだ?

手元にある辞書をパラパラとひいてみる。



転校――生徒がある学校から他の学校にかわること。(広辞苑より)



この場合、あたしのこのイヤーな予感が当たるというのならある学校っていうのは青春学園中等部なんてクソ恥ずかしい学校と聖ルドルフ学園で。
他の学校ってのはいわれるまでもなく、この学校のこと、なんだと思う。
が、ちょっとまて!
あたしは何も聞いていない。
不二兄弟が我が家に居候するようになってからかれこれ2週間が経つけど、学校のがの字も出てこなかった。
勿論二人からも、あたしのお母さんからも。
だから、もしかしたら我が学校に転校、なんて前代未聞というか第一号はうちのなんちゃってイトコじゃない可能性だってあるのだ。
あるのに。
絶対あの二人だ、とどこか確信しているのは我が母親という存在がいるからである。
どこまでもはちゃめちゃな(これってある意味死語だよね)あの存在が。

「二人って事は兄弟かな、二人一緒だし」
「かもねー。私達の学年と一つ下の学年とだって先生達が言ってた」
「あんた、そんなのどこで聞いてきたのよ…」
「校長室のところでこっそりねー。扉がちょっぴり開いてたから一生懸命掃除してるフリして聞いてた」

周りの友達達はナイス!とかいって肩を叩いたりしている。
この場合、あたしも早く知らせてくれてアリガトウの気持ちをこめて肩をたたくのがいいのだろうか。
でもどこか憎しみがはいってたらゴメンとこっそり心の中で謝ってみんなと同じようにそのこの肩を叩く。

とりあえず。









転校してくるのは確実にあの二人に違いない。

























「転校するなんて話、これっぽっちも聞いていないんですが一体どうゆうことなんでしょう?」
「あら、ちゃん。どうしたの、急に」
「母上?至急速やかに答えてくださいな?あたし、聞いてないんだけど?」
「あら?聞いてない?私、周助くんに言っておいてねって頼んだんだけど…」

そう言って洗い終わった皿をシンクに置きながらリビングのソファでくつろいでる周助にお母さんは顔を向けた。
本を眺めていただけだったのか周助はすぐに顔をあげ。

「その時買い物に出かける直前だったから、僕は裕太に頼んでおいたんだけど…」

そう言ってすぐにリビングの床の上で寝転がって雑誌を読んでいた裕太に顔を向ける。
勿論お母さんも私も同じように。

「え?俺も風呂に入ろうと思ってたから近くにいたおじさんに頼んだんだけど…」

そう言って三人の視線を集めながら裕太は雑誌から顔を上げる。

「お父さん?」
ちゃん、お父さんにここ数日会ってたっけ?」
「いや、なんだかんだで朝も夜もすれ違ってんだけど」

お母さんと台所で顔を見合わせながらそんなことを話していると、リビングの机の上に置いておいたあたしの携帯が音を奏でる。


恋のダウンロ〜ド〜 二人パレ〜ド〜 君がいればレッドカーペット 夢をダウンロ〜ド〜


「な、仲○由紀恵withダウンローズ…」
「なによ。裕太、その視線は!!」
「べ、べつに」

ふいっとわざとらしく視線をそらした裕太にチッと軽く舌打ちし、急いで携帯をとりにリビングへ戻る。
通話ボタンを押して「はいはーい」と言いながら周助の隣のソファに腰を下ろす。
ちょうどその足元に裕太の体があるのでついでに足でぐりぐりとその無防備な背中を押し付けてみる。

『あぁ、か?』
「これはさんの携帯なのでさん以外が電話にでるとは思いませんが」
『そうともいうな、ハッハッハ』

一体なにがそうともいうのか教えてほしいもんだ。
お母さんが誰?と台所で首をかしげてるので、口パクでお父さんから、と伝える。
またいいタイミングで電話かかってきたわねぇと思いながら、どうしたの?と電話越しにお父さんに尋ねる。

『いやぁ、お父さんすっかり忘れてたんだがな』
「はぁ」
『周助くんと裕太くんもと同じ学校に通う事になったからなって言おう言おうと思ってちょっと今日まで忘れてたんだ』

今更、だよ。お父さん。

『ちなみに来週からだ、仲良く三人で頑張るんだぞ』
来週って早っ!今日金曜日だよ!?つか、それは聞いてない!!」
『じゃ、お父さん、まだ仕事あるからきるな。おやすみ〜』

そういうやプチッツーツーという機械音が耳にはいってくる。
なんて自分勝手な父親なんだ、いや、むしろ本当強引ぐマイウェイな人だ。

「ちなみに裕太。お父さんに伝えてって言ったのはいつ?」

ぐえっとどこか潰れたような音が聞こえてきたが気にせずぐりぐりと背骨の骨の間に足を置く。
時々ゴキゴキという音が聞こえてくるのは気にしない。

「あー、っと。たしか2週間前だった気がする」
2週間ってちょっとじゃないじゃん、お父さん!!!

なんで我が家にはゴーイングマイウェーイな人ばっかりなんだ!!!

「明日二人の制服を取りに行くのよ。ちゃんも一緒にくる?」
「イエ、エンリョシテオキマス」

台所でお父さん用の夜食を作っているお母さんにヒラヒラとなかば無気力気味に手を振る。
どうも不二兄弟が我が家にきてから父母コンビの長所のような短所のような『わが道を行く』な性格は拍車がかかってる気がする。