あー、みんなもう知ってると思うが我が学校初の転校生がこのクラスにやってきた」

な・ぜ!?

「どうやらとは従兄弟らしいが、みんなも仲良くしてやってくれよ」

よりにもよってあたしのクラス!?

周助くんだ」

また黙ってたな、家族揃って!!!絶対あたしと同じクラスだって知ってたはずだ!


あたしは握り締めた両手を机の上に置き、元凶である担任の横に笑顔で立っているなんちゃって従兄弟その1を思い切り睨んでやる。
いや、これはきっとお門違い。
怒るべき相手は面白がって黙ってたに違いないお母さんだ。
とりあえず帰ったら覚えてろ!!(バイキンマンみたいな台詞だ…)
どこか白髪が目立ち始めてきた担任は隣に立つ周助にじゃあ挨拶をとでもいったのだろうか。
周助は一歩前に出て、お得意の笑顔を顔にはりつけたままクラス全員の前で口を開いた。

「はじめまして、周助です。どうぞよろしくお願いします」

ぺこっと小さく一つお辞儀をした周助に「え!?」といくつか声が教室の中からあがった。
今声だした我がクラスメート、(多分)オタク確定!!
ちらっと声を出したクラスメートの女子に目を向けると、彼女は心底信じられない!といった表情を顔に貼り付け教卓の前に立つ周助を見つめていた。
普段しっかり勉強もしてておとなしい子だと思ってたんだけど。
そうか、君もテニスの王子様愛読書家か。
きっと我が母上と仲良くなれるんじゃないかい…なんて言わないけどさ。

「まぁとりあえず一番後ろの端の席に座ってくれるか?目が悪いとかはないんだろう?」
「はい、大丈夫です」
「次の席替えは来週だからな。それまであの席で我慢してくれ」

担任に促され『一番後ろの端の席』にやってきた周助は

「ふふ、よろしくね。

と前の席のあたしに向かって一つウインクしてきた。
あぁくそ、サマになってんなぁと思いながら、はーいはい、と軽く返すと何が面白かったのか周助は再びクスっと笑った。















「にしても朝も思ったけど、ネクタイも似合うじゃん」
「そう?」
「似合う似合う。学ランより似合うんじゃない?裕太は慣れっこかもしれないけど」

始まった最初の授業は我が学校でも有名なおじいちゃん先生の英語の時間。
当然、内職する生徒やら話し込む生徒やらで教室の中はそれなりに騒々しい。
かくいうあたしと周助も前後の席なのを利用してヒソヒソと喋りこんでいる。

「でもこのネクタイ、便利だね」
「あーまぁね。つけようと思ったら女子の制服にでもつけれるもんね」

朝、リビングで二度目のお披露目となった裕太と周助の我が学校の制服姿はそれはもうなんというか、眼福。
確か青学は学ランだったと思うんだけど、うちの学校は男子はブレザーだ。
といっても本格的なものではなくて、ネクタイなんかはポチンとボタン一つで留められる代物。
裕太なんかは楽でいいって朝も言ってたけど、なぁんかそのへんは安物っぽいというか(それでもブランドものなのがおかしい)

「にしても裕太は大丈夫かなぁ、心配だなぁ」
「確かにちょっと心配だね。でも一応裕太も転校生は二回目だよ?」
「そういえばそうだ」

思い浮かべるのは英語の単語でもないしスペルでもない、まして先生の顔でもないし友達の顔でもない。
恐らくちょうど上の階のどこかにいるのだろう裕太の顔だ。
確かに裕太は転校生をやるのは二回目かもしれないけど、心配なものは心配だ。

「ちゃんと友達できるかなぁ…」
「ちゃんとクラスに馴染めるかな…」

あたしと周助の声が重なる。
なんだかんだで結局周助だって心配しているのだ、それほど裕太は、なんというかその、まぁ簡単に言っちゃえばシャイだってことよね!

「心配だわ…」
「ちょっと心配になってきた」









――どうか裕太がしっかりクラスメートの前で自己紹介できてますように!!(必死だよあたしたち!)








そんな願いの篭ったあたしと周助の呟きはおじいちゃん先生のゆったりとした英語に掻き消えていった。