「ちょっと!あんた転校生のこと、知ってたんじゃないの!」
「従兄弟だなんて!こんにゃろ、なんで黙ってたのよー!」
「しかもカッコイイんだけど!?」
「ちょっとアンタ聞いてるの!?」

聞いてます。
聞いてますが、あたしだって転校してくるなんてついこの間聞いたところだっつの!!
カッコイイ!?
当たり前だ!!
なんたって、テニスの王子様だぞ!!!
え?関係ない?










どこまでものんびりと淡々と進むおじいちゃん先生の英語の授業が終わって休み時間に入った途端、あたしの周りに群がるでもなくクラスメートたちはあたしの腕を引っ張って廊下にまで連れ出した。
そこからはひたすら質問攻め。
勿論その中には前にあたしたちに「転校生がやってくるニュース」を校長室で盗み聞きしてもたらした子もいる。

「つかさ、
「なに?」
「あのこ…どっかで見たことあるんだけど、なんだっけ。つい最近なんだけどなぁ」
「気のせいじゃない?」

気のせいにしてください。

「いや、絶対にどこかで見た!名前もうっすらそんな感じだったような」
「気のせいじゃない?」

気のせいなんだってば。

「どこだっけなぁ…電車の中だっけー…あーいや、本屋…」
気のせいだっていってんでしょ!!!!!

思わず大声。

「ど、どうしたの?」
「なんなの急に大声あげて…」
「みんなこっち見てるじゃん、はずかしー…」

自分たちのクラスメートだけじゃなく隣のクラスメートたちもなんだとばかりに私たちの方に顔を一斉に向ける。
転校生がやってきた、そのニュースのせいでただでさえあたし達の教室と廊下の密度が高くなっている。
それが一斉にあたしたちの方に顔を向けたら、そりゃ確かに恥ずかしいよね。

教室の中はというと、やっぱり転校生周助の周りに男子生徒がわんさかと集まっている。
多分女の子たちもあの中に入っていきたいんだとは思うけど、とにかく我が学校史上初の転校生だから男子の興奮っぷりも普通ではない。
周助に何がすきだ、とかどこから来たのかとか、あたしなんかとは比べ物にならないくらい質問攻め。
周助の周りに集まっていない生徒だって、遠巻きに周助の方をちらちらと見ている。
周助でもこれだ、恐らく上の階にいるだろう裕太も同じ目にあってるに違いない。

「で、?」
「ん?」
「この間あんたが言ってた引っ越してきたイトコってのは、あの転校生のこと?」

人気者は大変だねぇとばかりにぼーっと周助のほうを見ていると、朋子がこっそりと声をかけてきた。
いつかは他の友達たちにもばれるとは思うけど、今周助と一緒に住んでるって話がばれたらさっきの質問攻めではきっと済まなくなったに違いない。
朋子の気遣いに感謝しつつ、そうそう、と肯定の意味を込めて頷きかえす。

「そういえばイトコは二人って言ってなかった?」
「もう一人はちょうど真上の階でもみくちゃにされてるんじゃないかなぁ…」

どことなく上の階からも騒がしい気配が伝わってくる。
指で上の方にくいくいっと指してやると、朋子はふーんと小さく返しただけだった。

「同じ苗字ってことは、父方のイトコってこと?」
「そ。お父さんの妹の子供」
「……アンタの家、おばさん、結婚してなかったよね?」
フッ…山よりもふか〜い訳があるのよ」
それを言うなら、海よりも深い、でしょ
「そうともいうかもしんない」

さすがに恥ずかしくなって小さな声でかえすと、そうとしか言いようがないわよ、と心底馬鹿にされたようなお返事がかえってきた。
そうだよね、山よりも深い場所なんてないわよね、そうだね。









ーっ!!」
「あーん?なによ?」

帰りのHRが終わってそれぞれが思い思いに教室を出て行く中、クラスメートの男子がいきなりあたしの名前を大声で叫んだ。
人の名前を大声で呼ぶな、とばかりに不機嫌めいた声でその男子生徒に向かって返事を返すとソイツは一瞬きょとんとした顔をした。
逆にソイツの周りの男子たちはゲラゲラと笑い出した。

「ワリィ!こわ〜い生徒会長様じゃなくて転校生のほうの''」
「あぁ、周助のほう?」
「そ!」
「僕?どうかした?」

他のみんなと同じように周助もカバンを片手に椅子から立ち上がり、周助を呼んでいたらしい男子生徒がいるドアのほうに顔をむけた。

「俺たち、今日はクラブねぇからこのまま帰るんだけど、一緒に帰らねえか?」
「一緒に帰ろーぜー」

既に大人気とばかりに帰りのお誘いを受けた周助は、返事を返す前にどうしようかとばかりにあたしの方にちらっと顔を向けた。
あたしはどうせこのまま生徒会の用事があるのでいつも通り帰りは遅くなるよと口を開くと、じゃあ先に帰ってるねと言ってドアのところにたむろしていてるクラスメートのもとへと足を進めた。
周助の姿が何人もの男子たちの姿の中に紛れ込んで廊下に消えていったのを見届けると、なんとなく口に笑みが浮かび上がる。

仲間と呼べる人間はこの世界にはいないけれど。
新しい友達を彼らにとってかりそめのこの世界でも作ってくれればと、思ってた。
家族にはあたしたちがなれるけれど、家族になるからこそ友達にはなれないだろうなと思ってた。

ー?生徒会室行くでしょー?」
「うん、今行く。ちょっと待って」

同じ生徒会員の子がわざわざ他のクラスから呼びにきてくれ、急いで自分のカバンを持って立ちあがる。
バタバタと机の合間をぬって廊下にでると、ちょうど校庭が見える窓ガラスごしに何人もの集団が騒ぎながら帰っていくのが目に入る。
その中に、周助の姿があるのが見えてもう一度口に笑みを浮かべる。

「あんた、何笑ってんの?」
「なんでもなーい」
「ふーん、別にいいケド。思い出し笑いするヤツはエロイって言うじゃない?」
「思い出し笑いじゃないので、私はエロくありませーん」
「はァ?じゃあ何見て笑ってたっていうのよ?」
「なーいしょー、ほら、行くぞー!!」

待っててくれた子を背に生徒会室に向かって廊下を走っていく。
後ろからは理由を言えーと文句が聞こえてくるけれど、聞こえないフリをして帰り支度をしているたくさんの生徒の合間を走っていく。
それなりに仲のいい子とすれ違えば「バイバイ」と口を開き。
笑顔で憎まれ口を叩いてくるやつには、こちらも笑顔で憎まれ口をきいてやる。












青春学園なんて恥ずかしい名前の学校じゃないけれど、どうかこの学校でも青春してね。

あたしの新しいイトコさん達!!!




Enjoy Yourself!!