とても不思議な夢をみた。
いや、あれは本当に夢だったのだろうか。
だって、夢の内容なんていつもは覚えてないのに今回は無駄に隅々まで覚えている。
ああでも日常会話が全部英語だったときは夢の会話も全部英語だった、ついでに寝言も。
まったく今回の話とは関係ないんだけどさ。
とにかく、なんとも不思議で変な夢だったってこと。
ふと気付けば真っ暗な世界に一人でいた。
辺りを見渡しても真っ暗、ヒカリなんてどこにもない。
なのに自分の体はしっかりと見分ける事ができる、足、腕、手、その指先、爪までも細かくはっきりと見ることができる。
まるで自分の体がネオンかなにかのように光り輝いているようにすら思える。
（変な場所……）
というよりもなんでこんなところにいるのかわからなかった。
でも、今『私』は眠っていてここが夢の中の世界なのだというのは頭の隅でぼんやりとは理解していた。
何も見えない、誰もいない、真っ暗な世界。
考えるのは只一つ、こんな気持ち悪い夢から早く目覚めなくては、それだけだ。
（トイレに行きたくなーれ、トイレに行きたくなーれ、トイレに行きたくなーれ！！）
トイレに行きたくさえなれば体が勝手に起きるに違いないと踏んだわけだけど、そう勝手になるわけでもなくて。
必死で神様にお願いしてるというのにちっともトイレに行きたくなるような感じがしない、腹立たしいことこの上ない。
まぁでもこのトイレに行きたくなーれの欠点は下手をしたら勘違いのままお布団で…といういかにも保育園児のようなことになるかもしれないという恥なんてものじゃない、恥の上の上をいく大恥をかくような出来事が起こるかもしれないということだ。
さすがにこの歳になって布団に世界地図はやってられない。
「おかしなことを考える女性だな、貴方は」
ふとこの空間に響いてきた声に私は慌てて思考をトイレから引き離しきょろきょろと辺りを見渡す。
「だけどとても面白い。最高のデータが取れそうだ」
「データ？」
「そう。 嬢、まずははじめまして。私の名前は、そうだな、とりあえず勝手に君で考えてくれ。君は今回の夢紀行企画のモニターに晴れて選ばれたのでその報告のためお邪魔させていただいた」
なんじゃそらと一人ツッコミいれているとシュンとまるでドラゴ○ボールの主人公の瞬間移動みたいに一人の男が目の前に現れた。
その姿を見て私は思わず悲鳴をあげそうになる。
悲しい悲鳴や驚きの悲鳴じゃない、歓喜の悲鳴だ。
なぜなら
「ア、アントニオ・バンデラス様がいらっしゃる！！」
現れた男は私の心のオアシス、もう一体何の映画を見てフォーリンラブになったのかわからない、でもとにかく大好きで大好きで大好きな俳優さんそのものの姿だったからだ。ラテン系の顔！逞しい筋肉！マスクオブゾロ！！
そのうえ
「あんとにおばんでらす？いや、これは君の潜在意識に潜んでた好きな人のイメージを」
「うおーーーー！！声は大塚明夫さま！！なにこれなにこれなんじゃごらぁぁぁ！！！」
「お、落ち着け…クールダーウンクールダーウン！はい、どーどー」
姿はアントニオ・バンデラス様だというのに声は大塚明夫様だったりするのだ。
「アフターコロニーいちきゅーろく年」やらムーミンパパやらソリッド・スネークやらが頭を駆け巡っていく。
もはや馬扱いされていることなんて気にもかけていられない。
「ま、まずは簡単な確認をさせてもらおうか」
「やばい」
何がやばいんだとバンデラス様の目で促される。
その目だけでノックダーウン。やばいよ、それはやばい。
「マ、マスクオブゾロが降臨！！がっちり私のハートは盗まれたわ…っ！」
「先に進むぞ」
「その冷たさもたまらん」
「……嬢、貴方の選んだ旅先はゲーム『真・三國無双』の魏。その理由は……口にするのはやめておこうか」
「……なんで？その！大塚明夫様の声で！さくっと言ってみなさいな、大塚・アントニオ・明夫さん！！」
「会ってみたい人は関羽。これ国が違うんじゃないか？」
「最後までしっかり読んでよ。関羽を追い掛け回す曹操と更にそれを追い掛け回す夏侯惇。むしろ親父パラダイス！……なにかが間違ってるだろう」
「うるさいよ。生でその素敵な三角関係と笑顔で見守るアニジャーを見てだね、この渇きと飢えを凌ぎたいのよ！」
「希望のオプションは」
「無視！？無視なわけ！？さっきからサラリと無視しすぎじゃない！？」
「デスノート……ねぇ、 嬢。この希望オプションだとさすがに三國統一なんて一週間もかからないよ、敵国の主だった人間の名前をノートに書いて終わりじゃないか」
そういうとジト目というのだろうか、大塚・アントニオ・明夫さんは馬鹿を見るような目つきで私の方にちらっと視線を投げかけた。
けれど私と視線があうやいなやグルンと音であらわすならそんな感じで視線を外すべく顔をそらしてくださった。
折角アントニオ・バンデラスと見つめあうことができたのに。チッ！
「さすがにデスノートは用意できないな。というか、君には絶対に渡せないよ。君に渡したら三國から若い人間とお爺さんがいなくなる」
「失礼な！そんなことしないわよ！！」
「信用できない」
はぁとため息をついて頭を抱えた男は心底私に対して失礼なやつだと思うのは私だけなのだろうか。
だってどうせこれは夢なんだから、何を言おうが何をしようが何を望もうが私の自由でしょ。
ここは私の夢の中、私が支配者よ！
「確かに魏は君の性癖やら何やら考えてもベストな国だとは思うけれど」
「ちょいと！性癖ってなによ、性癖って。本当失礼しちゃう！まぁ綺麗な人は大好きだけど」
「まぁいい、（多分）最高のデータはとれるだろう。それでは今度こそ本題に入るよ、君の夢紀行はこの会話が終わった瞬間から始まる。もう元の世界には（データがとれるまで）帰れないと思ってくれ」
「は？」
そういうと男は背広の胸ポケットに手をやりそこから何かを取り出して私の目の前に突き出した。
その円を半分に切ったような、それでいて真っ白でどことなくホワンホワンしたこの感触、これはまさしく
「よ、四次元ポケット！！」
あの青いネコ型ロボットが住み着いているの○太くんの押入れの枕の下に隠されているという、スペアポケットではないだろうか！！
「説明は一度だけですからこの後のこともしっかり聞いてくださいね。まずそのスペアポケットですがスペアポケットです」
「すみません、説明になってないと思います」
「中に手をつっこめばしっかりと亜空間に繋がっていて便利道具が取り出される仕組みになっています。ただし、出てくるのは21世紀に発明された便利道具ではありません」
そういって大塚・アントニオ・明夫さんはためしにとばかりにスペアポケットの中に自分の手をつっこみ何かを取り出した。
チャラララン♪
そんな音がどこからともなく聞こえてきてしっかりと手に掴んだものを上に掲げると
「太極符印！！（たいきょくふいん〜）」
黒い球体がペカーと光り輝きだした。いや、黒い球体がというよりも背景が、というべきか。
「ちょいとまった！太極符印は封神演義の宝貝（パオペエ）でしょうが！いやいや、無双と全く関係ないですから」
「まぁそんなこんなでスペアポケットから出てくるのは藤崎竜先生の封神演義にでてくる宝貝だけです。使い方は自分で出しては考え出しては考えしてください。ちなみに基本宝貝は打神鞭（だしんべん）ですから頑張って！」
「頑張って！って、そのうちニュー打神鞭に進化してくれちゃったりするわけですか？ねぇ？」
「さて、最後にオプション説明にはいりますが」
サラリと流された。
「ド派手なオプション希望ということで、誰にも怪しまれずみんなの仲間入りができて尚且つド派手に、でも色んな意味で危険がいっぱいかも、みたいなオプションにしてみました」
「いや、なんかおかしくない？そのオプション」
「はいはい、それでは出発しますよー。ほらほら、スペアポケットはおなかにくっつけて」
え？まじでくっつけるの？とか思う暇もなくせかせかと早くしろ早くしろコールに素直に従ってアントニオ・明夫・バンデラスさん（あれなんか違う）の顔を見上げる。
その瞬間、何かがおかしいことに気付いた。
（あれ、これ夢なんだよね？）
いやだって、しっかり寝るまでの記憶はあるんだもの。
トイレにも行った。
歯も磨いた。
電気も消した。
うん、やはりこれは夢だ。
「 では、嬢！！良い旅を！！！とりあえず最初は静かに黙っててくださいねー！！」
白い空間で最後に耳に入ってきたのはアントニオ・明夫・バンデラスさんの（だから何か違うような）腰に来る声だった。
そして、今。
私は何故か超ヒラヒラ・スケスケした服を着て、お空を落下中である。