落ち着け私。
とにかく落ち着け。
私の希望オプションがハリポタから魔法使いサリーに勝手に変えられてることとか、ていうか杖しかくれねぇのかよとか、空間が我が侭だから時々消えるとか申し上げたい事がわんさかあるんだけど。
と に か く だ。
さっきリビングでくつろいでいた孫堅様とやらは偽者じゃなかったとかほざくのだろうか、この紙切れは。
いやいや、んな馬鹿な。
ゲームは所詮ゲームの世界、きっとさっき見た孫堅様とやらは私の夢のなかの偶像にすぎないに違いない。
たとえ、今自分の手になんだか妖しい杖らしきものが握らされてあってもだ。
「まずはこんなふざけた紙切れを送りつけてきたこの会社に文句言ってやらなきゃ!」
ベシっと手の中にあった杖(魔法使いサリーの杖だとでもいうのか畜生)を床に投げつけると、携帯電話を床から拾い上げて紙切れに書いてある電話番号のボタンを怒り心頭に押していく。
プップップップ・・・耳元で電話が繋がるまでの機械音がなっている。
が―――
『お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上おかけなおし下さい。お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりません。番号を』
「ぬわぁにが下記の電話番号に、だァ!!こんちくしょうが!繋がらねぇじゃねぇか!!キィーーーー!!!」
バフンとベッドに携帯電話を投げつけるものの、すぐについこの間機種変更したばかりなのを思い出してヒィと悲鳴をあげながら携帯電話が無事か確かめる。
布団の上に投げつけたからか傷一つない携帯電話ちゃんを今度はそっとローテーブルの上においた私は、再びベッドに腰掛けて。
頭を抱え込んだ。
当たり前だ、誰だこんな馬鹿みたいな話をもちかけてきたヤツは!
何から何までが本当の話で、どこからどこまでが現実なのか、さっぱりだ。
がくっと首をおとして目をあけると床上に先程投げつけたサリーちゃんの杖が視界に飛び込んできた。
「・・・・・・・・・・」
そっと手をのばそうとして、すぐにひっこめる。
今私は何をしようとした、あの杖らしき物体に手をのばそうとしなかったか!?
心の中で思わず「マハリクマハリタヤンバラヤーン」とか呟きそうにならなかったか!?
落ち着け、落ち着くのよ!あれはもしかしたら在庫切れとか紙切れがほざいていたハリポタの杖かもしれないじゃないの!
多少杖がハリポタよりも細くて(かなり細くて)繊細で(かなり繊細で)・・・
「とりあえず、マハリクよりもウィンガーディアムのほうがいいよね、うん」
ぼそっと一言自分に言い聞かせるかのように呟くとさっき引っ込めた手をもう一度伸ばし足元に転がっている杖を手にする。
はっきりいって、馴染まない。
これならまだ耳掻きを手にしてるほうがマシだ。
「えー、ゴホン。それでは・・・ウィンガーディアムレヴィオーサ!!」
ひゅーんひょい。
ローテーブルの上にのっかっている携帯電話に杖の先を向けて声をはりあげる。
「・・・・・・・・」
誰も見てないからこそやったのだけれど、動かない。携帯電話は浮くどころかちっとも動かない。
「これはハリポタの杖じゃねェ!!」
キィーっと悔しくて再び杖を床に投げつける。
ハリポタの杖じゃないならなんだ、やっぱりこれはサリーちゃんの杖だとでもいうのか。
やっぱり魔法の呪文はマハリクマハリタなのか!!
「ふっ、これがサリーちゃんの杖だというのならば。やってやろうじゃないのさ!オホホホホ!!!」
声高らかに笑い声をあげると私は床に投げ捨てられている杖にもう一度手を伸ばし、杖を持っていないほうの手を腰にがっしりとあてる。
ふっふっふと誰も見ていないからこそできる忍び笑いをもらすと、びしっと杖を自分の頭上に掲げた。
「ピンキーモモでもよかったのに!とりあえず、マハリクマハリタヤンバラヤーン!!孫尚香になぁれー!!」
やけくそになりながらもそう叫ぶ。
ふっ、どうせさっきのハリポタと一緒でなにも起こりやしないさと馬鹿にしたように笑っているとキラキラと何かが上から降り注いでくるのに気付く。
へ?と馬鹿みたいな声をあげて顔を上に向けるといまだ頭上にかざしている杖から、埃でもないし雪でもない、けれどキラキラしてピカピカした光のようなものがあふれ出しているのが目に入る。
じわじわとあふれ出した光は私の体いっぱいに降り注ぎ、まるで自分の体が発光しているかのような錯覚に陥りそうになる。
と同時にボフンと煙がたち、ギャー何!?なにごと!?と自分でも訳がわからずあたふたして、はっと気付けば煙が晴れて何事も無く自分の寝室に立っていることに気付く。
「なんだ、ただのビックリ杖なんじゃん。驚かさないで・・よ・・・・ねーって、あれ?私、こんなに胸あったっけ?」
首をコテンと下に傾ける。
普段なら目に入るのはペチャパイとまではいかないけれどボン!とまでもいかないおなざりにあった胸なのだけれど、おかしなことに首を下に向けて目に入るのは明らかにボンボボーン!な胸だ。
おかしくない?とばかりに自分の両手を胸にやりティーシャツごしに自分の胸をモミモミっと揉んでみる。
「おかしい、明らかに揉み心地が違う。今までの古くなった餡子がつまりまくった固い饅頭からまるでマシュマロのような感覚に・・・ってまさか!!」
ありえないと思いつつクローゼットの扉をバンと開け放ち、立ち鏡をだし自分の姿を映してみる。
鏡にうつった自分の姿を見て10秒ほど意識を飛ばした私は。
「うっぎゃーーーーーーーーーーーー」
叫び声をあげて自分の寝室を飛び出した。
目指すは風呂場である、きっと鏡に映ったボンキュッボンなショートカットなお姉さんは単に鏡が白雪姫の鏡みたいになってるだけでーと脈絡のないことをヒィヒィと穏やかではない心の中でまくしたてあげる。
私はあんなに目がパチクリしてねぇ。
あんなにナイスバデーじゃねぇ。
ていうか髪も長かったじゃん!?
ありえない、ありえない、ありえなァい!!
絶好調にパニックになりながら寝室の扉を開け放ってリビングに一歩足を踏み出した―――
ところで
「ん?なんだ、尚香も箪笥の精を知り合いだったのか?」
「おお、尚香!!親父もお前も俺に黙ってこんな天国みたいなところにいたのかぁ!?ずっりーずぇー!」
リビングのソファで何故か寛いでいる孫親子に声をかけられた。
なんであんた達がいるの!?つか私はであって孫尚香じゃねぇ!!