「はてさて・・・一体どーゆーことなんでしょうねー、隊長」
「はてさて、それは私が聞きたくってよ阿近さん」

阿近に首根っこをつかまれたままは自分の居場所から一歩も動くことなく首だけコテンと横に倒した。
罪人朽木ルキアの処刑がはじまって間もなく旅禍の少年が彼女を救うべく現れ、そこからは説明するのも面倒なほどに話がこてこてと進んでいった。
護廷十三隊が朽木ルキアの処刑の執行により分裂をしている、まさにその通りのことが目の前で行われた。
どの隊長も自分の信念をもって動いている、恐らくそんな信念なんぼぞとばかりに呆けているのはくらいなのかもしれない。

「総隊長は京楽隊長と浮竹隊長とランデブー、朽木くんも旅禍の少年とランデブー、罪人の朽木ルキアもどこぞの男とランデブー、そしてあろうことか梢綾まで・・・っ!!」
「ランデブーってそんな言葉使って後で総隊長に叱られたって知りませんからね」
「総隊長なにするものぞ、その頃には私も引き篭もり再開中でしょう。年々説教の時間が長くなっていくんですもの、そろそろ今度捕まったらまる一週間は座敷牢だわ。そんなのって耐えられない!!」
「まー普通は説教で座敷牢には入れられないはずなんですがねー」

どんと音を上げて砂煙が舞い上がる。
旅禍の少年と白哉の鍔迫り合いだけでこれだ、お互いに少しでも力を解放してしまえば巻き込まれてしまうだろう。
隣に佇む卯ノ花に阿近が目を向ければ彼女はいつの間にか自分の斬魄刀を解放していて既に地に伏してしまっている死神たちを肉雫づきのなかにとりこんでいっているところだった。

「阿近さんもあの中に入っていらっしゃる?その方が安全かもしれないわね」
「いやいやいや、オレはかすり傷一つ負ってませんから。一応隊長が庇ってくれていたみたいですしねー」
さん、肉雫づきに健康な方は入れませんよ。ところで、私はこのまま行かなければならない場所があるのですが貴方は一体どうなさるのです?」

彼女の隊の副隊長は取り込まずに肉雫づきの上に乗せると卯ノ花も身軽に肉雫づきの上に腰を下ろした。
ふわりと浮き上がる肉雫づきに阿近は思わずオレと隊長はこの危険地帯に置いてけぼりですかと心の中で口をこぼすも、隣に佇むが何も言わないところをみてこの人を置いていけないしなと頭をカリと掻く。

「どうなさるもお猿も・・・まずは状況把握?」
「それじゃあ遅すぎるんじゃないっすか、隊長」
「じゃあ簡単なことだわ、梢綾を追いかけます。確かに私は人一倍今の状況がわかってはいませんけど、自分の確固とした信念だけはありますもの」
「へぇ・・・まさかとは思いますけど砕蜂隊長を追いかけることじゃあないですよね?」

阿近のじっとりとした視線にはうふふと口に手をあて笑い声をあげるが、たらりと一筋の汗が彼女の頬を流れたのを彼は見逃さなかった。
それは卯ノ花も同様で彼女は同様うふふと笑みをこぼすと阿近にお乗りなさいなと声をかけた。
恐れ入りますと阿近も阿近で自分の隊長の意見を聞くことすらせず肉雫づきの上によじ登る。

「ちょっとちょっと、阿近さん。私をおいていく気ですか?ああ、卯ノ花隊長ったら問答無用で私をこんな危険地帯に置いていく気満々ですね・・・どうしましょう」
「どうしましょうもなにも貴方なら大丈夫ですよ、何かあったら気が向いたときに診てさしあげます」
「そんな、なにかあること前提で言われても・・・って、ああ!!本当に行ってしまったわ・・・なんて薄情な卯ノ花隊長に憎し阿近・・・」

困った、上空に漂う肉雫づきを下から見上げながらは呟いた。
双極のある丘は既に旅禍の少年と白哉だけの土俵となりつつある。
彼ら二人をのぞくとしかいない双極の丘で彼女は小さくなっていく肉雫づきを見つめながら握り締めていた左手をそうっと開いた。
どこの誰か名前は知らないが浮竹と一緒に現れた二人の死神を足蹴にしていた砕蜂を一瞬にしてその場から連れ去った人物がの足元に放り投げていったものだ。
一陣の風に心当たりはある、砕蜂と対峙できる人物が彼女しかいないということも。
ただ綺麗に折りたたんである紙片を開くのには少しだけ勇気が必要で、旅禍の少年と白哉が問答無用で力を振るっているこの場にはそぐわないことは確かでもあった。

「面倒なことこの上ないわ・・・うう、砂が目に入った・・・朽木くん後で覚えていらっしゃい・・・っ!」








紙片の主は旅禍とともに現れた四楓院夜一か、それとも彼女と一緒にそう遠くない昔に消えたあの男か。








ごしごしと痛む目をこすっていると瀞霊廷のそこかしこで大きな霊力がぶつかり合っているのがビリビリと空気を伝わってきて肌を刺激してくる。
あちらこちら見渡せど見渡せど至る所で土煙があがる、そしてここ双極の丘でも。
こんな有様じゃあ自分がいた頃の技研、すなわち技術開発局暗黒時代のほうがまだマシなんじゃないのかとさえ思ってしまうほどだ。

砕蜂を追いかけるのが先か、それともこの紙片を開くべきか。
追いかけても手を出せることはないのは確か、きっと手を出せば彼女は目を吊り上げて怒りを視界にすらいれなくなるだろう。
今以上のひどい扱いを受けることは目に見えている。
かといって紙片を開いてしまえば後戻りできなくなってしまうに違いない。
のんべんだらりと、いやのらりくらりと言うべきか、快適な生活をぶち壊しにされてしまうはずだ。

「これぞ究極の選択になるのかしらね」

一際大きな霊力の爆発が外れの森で起きたのを顔だけむけて眺めていると、の後ろでもさらに大きな霊力のぶつかり合いがはじまった。
外れの森の爆発は砕蜂のものではなかった、ならば四楓院夜一、彼女のものだ。
よりにもよって砕蜂が地に伏すことはないはずだ、それでも気持ちは追いつかずは少し不安そうに外れの森を見つめる。

「梢綾、梢綾・・・あなたまで私を置いていってしまうのかしら。喜助様は私が大事だと毎日小蝿のごとく五月蝿かったにもかかわらずあの日何も言わずに私を置いていった。夜一様も貴方に何も言わず貴方をここへ置いていった。梢綾には悲しみと絶望だけが残り、私には梢綾という希望が残された。でも夜一様・・・」

紙片を目の高さにまで持ち上げる。
光に透かしても文字が読み取れない。

「夜一様は梢綾の悲しみと絶望を取り除いて、そして梢綾まで連れて行ってしまうのかもしれない。夜一様という希望に貴方はなんのてらいもなくついていってしまうのかもしれない」

ぐしゃり。
左手で紙片を握りつぶして霊力を込めてみればあっけないほど中の紙は燃えて灰になってしまった。

「そして私は今度こそ梢綾を、希望を奪われて悲しみと絶望が襲ってくる」






なんて理不尽な世の中なのかしら






の呟きは旅禍の少年の黒い霊力と白哉の白い霊力の最後のぶつかり合いからなる爆発音にかっきえた。