「勝った・・・?勝ったぞ・・・俺の勝ちだ!!!」
手のひらから風に浚われていく灰を見つめていると後ろから少年の咆哮が双極一帯をつんざいた。
すぐその後にバタリと少年が倒れこむ音と仲間らしい死覇装をまとった旅禍たちがかけつけてきた音が聞こえ、は座り込んでいた双極の端からよっこらせとばかりに腰をとんとんと片手で叩きながら立ち上がった。
旅禍たちはあいにくとには気付いていない、そのまま気付いてくれるなとばかりに双極をあとにしようとのんびり歩みを進めていたのだが
「あれ、人がいるよ」
旅禍たちの紅一点に思い切り指を指され大注目されたとあらばそのまま無視をするわけにもいくまい。
と普通は考えるのだがそこはそこ、それはそれ、なにせである。
織姫の突き刺さる指先にも注目の嵐にもひるむどころか無視をする勢いでスタスタスタと彼らの真横を通り過ぎていこうとする。
「あれー?耳が遠いのかなぁ」
「いや、違うでしょ井上さん。あれはあえて無視してるんだと」
「つかソイツいつからいたんだよ!?今!?お前らと一緒に来たわけ!?」
横たわる男からぴゅーとばかりに血がほとばしる、直後わぁと女の子の焦った声やキャアと女の子の涙声や黒崎くぅんと女の子の切羽詰った声が響き渡り。
「ああもう五月蝿い、噴水よろしく血液ぴゅーぴゅー飛ばしながら大声なんて張り上げるからですよ。ついてきなさい、いつまでもここにはいれないでしょう?」
「・・・・・・・つかアンタ誰?」
まあれいぎのなっていないくそがきだこと。
そんな言葉が皆の耳に入ってきた瞬間、黒崎一護はお空の星になった。
「よかったね黒崎くん、匿ってくれる隊長さんがいるなんて。ちょっと傷はさっきよりひどくなってるけど!」
「よかったな黒崎、仮にも隊長を倒したお前を快く匿ってくれる死神がいて。さっきより顔が一段と不細工になっているが!」
「喜べよ一護ッ!とりあえず落ち着ける場所を提供してくれるってラッキーじゃねえか。さっきより大出血だけどよっ!」
ぐっ、ぐっ、ぐっ。
上を向いた親指が三本、一護の目の前に突きつけられる。さりげなくチャドの親指も上を向いていて一護は腫れあがって右側だけやけに重い顔を重力に従わせたまま口の端を引き攣らせた。
お空の星になった一護が地上に舞い戻ってきたときには思い切り見知らぬ死神に殴られた顔の右側はパンパンに腫れ上がっており、一護は素直にすみませんと頭を下げた。
面倒くさいとため息とともに呟いた彼女はとりあえず一護たちに場所を変えなさいと言って、一人すたすたと歩き始めた。
誰もが話しの展開についていけず戸惑っていると「さっさと歩きなさい」とお叱りが飛んできて一護たちは逆らってはならぬとばかりにその場から離れた。
一人マキマキもとい荒巻だけは彼女、の羽織る十二の文字が入った白羽織に首をかしげていたがこの面子で彼の居場所はほとんどなくただ黙々とついていくしかなかった。
「つかアンタ」
「なにかほざきやがりましたかしら」
「えーと・・・オネエサン?・・・ってキャラじゃないだろ、俺ェ!?・・・助けてもらったところ悪いのですが俺たち追われてるっぽいので適当にそこらへんでサヨナラしてくれれば・・・」
岩鷲に支えられながら一護は慣れない言葉と星にする女というトラウマからひどくビクビクとしながらに声をかける。
途端、横からお前らはいつからカルテットになったのだとばかりに「「「えーー」」」と不満そうな三人の声が綺麗にはもりあげる。
「別にどうだって構いませんよ、まあ寧ろ私の目に砂をいれてきた朽木くんをはったおしてくださったみたいですし。うちでお休みになるもよろしいでしょう、どうせ他の隊の死神なんて来やしませんもの」
「はぁ・・・っていうかウチっていうのは、そのぉ・・・」
「ああ、自己紹介がまだでしたわね。どうでもいいんですけど、と申します、本当どうでもいいんですけど」
二回もどうでもいいと言ったの顔は心底どうでもいいと思っているのか生気をあまり感じられないとばかりなダラケ顔である。
織姫たちが自分達の名前を返しながら頭を下げる横で一護は目の前に立つ『自分をお空の星にできる女』の名前にあれとばかりに首をかしげた。
「・・・・・・?」
「ええ、そうです。そのうち必ずや砕と名乗ってやりますが」
「・・・どっかで聞いたような・・・って、ああああ!!」
何かを思い出したらしい一護が大声をあげつつビシリと右人差し指をの顔面につきつけたところで
「あ、黒崎くーーん」
彼は再び星になった。
「人に向かって指ささないと教えてもらわなかったのかしら!まったく礼儀のなっていないお子様ですこと」
「しゅ、しゅみましぇん」
「わぁ、黒崎くん!顔が潰れたカレーマンみたいだよ!!」
「どうしてそこで普通に肉まんとかあんまんがでてこないんだい、井上さん・・・」
右側だけではなく左側も盛大にパンパンに腫れあがった顔のまま一護は満身創痍で再びに頭を下げた。
『学習』それはとても大事な言葉である。
「でもだな、アンタの・・・じゃなくてー、サンの名前俺ココに来る前に浦原サンから聞いてたんだよ」
「えー改めて、わたくし、十二番隊に所属しております第三席の涅ネムと申します。あらいやだ、最近頭の方がどうかしているのでつい間違って違う人の名前を申し上げてしまいましたわウフフ」
「わー、涅さんって言うんですね!改めてよろしくお願いしますっ!!」
つい間違えたと言い張るに織姫以外がしらけた視線を彼女に向けるがウフフと笑いながら織姫と『やり直し』の自己紹介に間を挟む事は一護にはできず
「涅ネムという死神に僕は既に出会いましたが、あなたとは似ても似つかない女性でしたよ?」
雨竜にはそれができた。
指先でくいと眼鏡をあげる雨竜にはチッとばかりに舌打ちをし、すぐさま「ああ」とばかりに一人で納得のポーズをとった。
「マユリさんを液体にしてくださったのは貴方ですか!」
「・・・・・・あの男を、ご存知で?」
「ご存知も何もマユリさんは私の下僕です、手足です、部下です。マユリさんが液体になって戻ってきたものでもう本当私・・・」
もしや自分もこの目の前の女の手によって星になるのだろうかと構えていた雨竜だったが、降ってきたのは拳でもアッパーでもなく何故かお礼の言葉だった。
「ああもう本当、笑いのネタ提供ありがとうございます。おかげさまであれからマユリさんってば二酸化炭素に変身しちゃいまして」
「・・・二酸化炭素?」
「今頃どこぞのお空をぷかぷか浮いているか、もしくは技研のメンバーによって掃除機にでも吸い込まれているか」
「・・・掃除機?」
「はたまた私たちの肺に取り込まれて既に血液の中で漂っているか・・・うふふ、どっちにしてもおかしいったら!」
おかしいのは貴方だ。
織姫以外誰もがそう思ったがつっこめる人は誰もおらず、そして勇者一護は再び
「サンってノリが浦原サンと似てるけど、やっぱり知り合いなんだろ?なんつうかその飄々としたところとか話し方とかソックリーって・・・わわ、タンマ!タンマッ!!」
地雷を踏んだ。
「女王様だ」
「女王だ」
「女王様がいる!」
「・・・・」
ぐりぐりぐりと一護の背中にの足が食い込むのを見ているだけの織姫たちは下手をすればそのまま万歳!など言いそうな雰囲気であった。
チャドにいたっては微妙に手が上を向きつつすらある。
「よいこと?喜助様から何を聞いてきたのかは知りませんけど、私の前で喜助様の名前をだすことは許しません。私の前でだしていい名前は梢綾だけです、梢綾オンリー!私の99%は梢綾でできているのですからっ!!」
「き、喜助様って・・・ゲフッ」
「ああ!!黒崎くんっ!!女王様、どうかその足を!その足をどけてあげてくださいー!」
喜助様って誰だ。
喜助イコール浦原が結びつかなかった一護は意識を飛ばしかけながら自分の血で眼前にどこまでも広がる石床にの名前を書きあげた。
虎徹勇音の天挺空羅の内容を真面目に聞いていたのはチャドと荒巻の二人だけだったが、結局「女王様万歳!」と叫びだした織姫にもダイイングメッセージを書ききって力尽きた一護やどこかを見てウットリしている雨竜やうずくまって「女王怖い女王怖い姉貴怖い」と特定の人物に脅えている岩鷲に真面目に聞けよというのは無理な話なのかもしれない。