「彼の目的こそが朽木さんの殺害なんだ」

雨竜の言葉とほぼ同時に一護の姿が掻き消える。
黒崎くんと織姫が名前を呼ぶも既に彼の姿はなく残されたのは飄々としたまま何を考えているのかわからないと一護以外の旅禍たち。
後を追わなきゃと慌てて一護が向かったであろう双極のほうへと再び走り出す織姫やチャドのあとを追うように走り出そうとした雨竜は結局という名前しか教えてくれなかったわけのわからない死神が動こうとせずにぼうっと瀞霊廷のはずれに目を向けているのを見て「貴方は行かないのか?」と尋ねる。
少しの間をおいてが心底不思議そうにどうして?と振り返ったことに雨竜はぐっと一瞬言葉をつまらせるもすぐに「尸魂界やら死神やらの危機ってやつなんじゃないのか」ともう一度尋ねた。

「藍染の反乱が尸魂界の反乱へと結びつこうがどうでもよいのだけれど、これだけ瀞霊廷のど真ん中でドンパチ繰り広げようとしている男が逃げ道を用意せずにいるとでも思っているの?」
「それは・・・っ」
「先程の伝達で外に散らばった隊長格の死神たちは全員双極の丘へと向かいだした。一つ一つ、数え切れないほどの大きな霊圧が此処へ近づいてきている。ならそれでいいんじゃないかしら」
「だからどうしてそんな言い方を」
「だって私も生粋の十二番隊、自分にとって興味の対象にならないものには見向きもしない。それに・・・」

はそういうとプラプラと両手を雨竜の前に翳し

「私ってば手ぶらなんですもの、さすがに何も持たずにお馬鹿さんたちの前に行くのはね。行っても安心ですよーという状態になったら行ってもいいかなぁなんて」

朗らかに笑った。
雨竜はキッとを眼鏡越しににらみつけると今度は何も言わずに既に走り出した織姫たちのあとを追いかけ始めた。
小さくなっていく雨竜たちの背中を見つめながら双極の丘へと近づいてくる霊圧の一つ一つに探りを入れていく。
総隊長や浮竹たちはいまだ遠く、自分が知らない幾つかの霊圧も程変わらず、一つかなり近い位置にあるのはいつも笠をかぶり顔を隠していた同僚のもの。
少しして双極の丘にあった二つの大きな霊圧が一気に小さくなり、そして顔を知らない同僚の霊圧も然り、そこでは一番近くなった二つの霊圧に思わず眉をひそめる。

「二人仲良くご出勤・・・ああいやだ、こうなるとわかっていても心が追いつかないわ。梢綾、梢綾・・・うう、もう梢綾の顔を2時間ばかりも見ていないわ・・・耐えられないっ!」

それだけ零すと、ふっとの姿はその場から掻き消えた。















双極の丘にが辿り着いた時には既にこの場へ向かっていた霊圧のほとんどが集まっており、その中で先程まで一緒にいた一護は倒れ伏し、久しぶりに見た男は夜一と砕蜂によって捕縛されていた。
笑みを絶えることなく砕蜂に刀を向けられている藍染の姿を視界に入れるや否やの中で彼はブラックリストナンバー2に躍り出る。
言うまでもなく『による梢綾のためのブラックリスト』の一番上には堂々と四楓院夜一の名前が光り輝いている。

「おや、さらに懐かしい顔だ。くん、久しぶりだね」
「お久しゅう、藍染さん。相変わらず眼鏡がさまになってますわね、とてもお似合いですわ」
、おぬし・・・」

はうふふと笑いながら藍染と、そして夜一に向かってペコリと頭を下げる。
顔をあげたは見知らぬ死神たちから不審そうな視線を投げかけられるも気にすることなく頬に右手をそえ、首を横に少し傾ける。

「ところでお話はどこまで進みましたの?」
「いや、なに。君のかつての上司の作り上げたものも失敬させてもらったことだし、あとは好きにしてくれたまえってところだろうか。君にはどうも関係のないものだろうことだし、僕が貰っても構わないよね?」
「あら、構わないか尋ねる前に既に失敬なさったのでしょう?お聞きになる順番が間違えているんじゃなくて?」

ははは。
うふふ。
二人の異様な笑い声が双極の丘に響き渡る。
倒れ伏している一護は両腕を使い上半身をなんとか支えながらも隣に立つの姿を見上げ、さんと彼女の名前を呟いた。

「浦原喜助が姿を眩ませてすぐに君は彼の後釜を埋めるかのごとく隊長へと昇格し、それと同時に誰も入る事のできない場所へと引き篭もってしまった。彼の、崩玉や諸々に関する研究データを処分することなく。やはり自分の兄とも慕う彼に裏切られたことは堪えたのかい?彼の研究室こそなくなってしまっていたが僕の見つけた大半のデータはゴミ箱の中から見つかったよ」
!!おぬし、ちゃんと処分せえと言ったものを単にゴミ箱に突っ込んだだけじゃったのか!?このうつけ!!
「まあ、ゴミ箱から出てきたのはさすがにクズデータに近いものではあったけれど。それでも有意義なものだった、君自身からも話を伺いたいほどにね」
「・・・藍染さん・・・」
「なのに君ときたら二番隊でしか姿を見ることはできないわ、君の研究室にはどうあっても入ることすらできないわ・・・ねえ、君はまだ他に何か隠していることでもあるのかい?」

首に刀を突きつけられたくせによくここまで喋れるものだとはため息を一つこぼした。
そのため息を藍染をはじめ、その場に集まった死神たちがどういう風に受け取ったかはわからないがはおもむろに藍染に向かって口を開いた。

「私、梢綾のことが大好きなんですの」
「梢綾?いったい誰のことだい?それが君の秘密とでも言いたいのかい?」
「まさか!私が梢綾のことを好きで好きで好きで仕方ないことは隠してるつもりはないですわ、ねえ不細工?」

ちらりとが大前田のほうに視線を向けると彼はヒィと顔を青ざめさせコクコクコクと首がもげそうなほど縦に振った。

「ああ、梢綾っていうのは僕にくっついている砕蜂隊長のことか!はは、君は本当相変わらずだね」
「褒めてくださってありがとうございます。まあとにかく梢綾があなたに自分からくっついていることが私、非常に今気に入らなくてイライラしてますの、これでも」
!!!お前あとで覚えているがいいっ!!

砕蜂が顔を真っ赤にしてどなるもはそれすらウフフと笑みを浮かべて楽しみにしてますとのたまう始末。

「とにかく。藍染さんがゴミ箱漁りをなさって何を見つけられたのかはさておき、何を失敬なさったのかは知りたいわ。あなたが百年も機を伺って手に入れたものですもの、それを悠々と奪われたとなると私、隊長職から降格させていただけますかしら」
「ばっかもん、!!!」
「はは、本当君は相変わらずだ。いいだろう、最後の餞別に教えてあげるよ。浦原喜助が此処を去ることになったそもそもの原因、崩玉だ」

藍染が口を開くと同時にタイミングよく彼に一筋の光が舞い降りる。
夜一と砕蜂の衣服の一部を燃やし、反膜の中に包まれた藍染は懐に手をいれ小さな片手に収まるほどの何かをとりだしてにそれを差し出してみせる。

「君には一度も僕の刀の解放を見せたことがなかった、ある意味それが気がかりではあったけれど最後まで杞憂だったようでほっとしているよ」
「・・・・・・・藍染さん」

一護は宙に浮かび上がりつつある藍染と隣のの顔とを交互に見つめながらただ睨みつけることしかできなかった。
目の前でルキアの体の中から取り出した、あの藍染の手の中にあるモノ。
この先程自分たちと一緒に行動していたおかしな死神は自分が思うよりも深くあの小さなモノと繋がりがあるのかもしれない。

「おかしいったら、藍染さん。あなた、やはり私を最後まで浦原喜助の付属物としか見ていなかったのね、私があの男がいなくなってからあの男を恨んでデータを捨てたりしたとでも本当に思っているの?私があの男への寂しさから引き篭もったとでも思っているの?」
「・・・・なに?」
「確かに私は喜助様とほんの百年前まで常に一緒にいたわ、それこそ生まれた時から。それがどういうことかわかる?」

一護が見上げるその先ではおかしそうに笑いながら自分の右手を懐にいれ、そして













「喜助様の考えてること思っていること願うこと、全て私にはお見通しなの。藍染さん、あなたにはわからないでしょうけどね」











藍染がもつモノと同じ形をした小さなモノを右手に、まるで見せ付けるかのごとく上空に翳してみせた。

「な!!それは・・・っ!!」
「藍染さん、貴方のもつその崩玉は私が昨日朽木さんからお先にいただいた、ああ、貴方の言葉で言うと失敬させてもらった代わりに貴方への駄賃として彼女の体に戻した崩玉のダミー。それこそ、名前の如くあといくばくかしたらその玉はバラバラに崩れ落ちるでしょうよ、ちょっとしたオマケでその玉は崩れる時に私がいかに梢綾のことを愛しているかのポエムが録音されているわ。虚たちと仲良く聞くといいでしょう、ちょっと照れますけど」
ど阿呆めがっ!!

高らかに笑い声をあげるの横っ面に砕蜂の飛び蹴りが綺麗に決まり、彼女はそれさえも笑みを浮かべ受け止める。
どこかで見たことのあるような光景に(あとでそうだクラスメートにいたなそんなやつと思い出すのだが)一護は唖然となるも、どうやら宙に浮かぶ藍染の悔しそうな顔を見ていたら自分の体の状況を省みずに笑いがこみ上げてきて思い切りアハハと笑い声をあげた。
突然笑い声とうめき声を一緒にあげだした一護の姿をは眉をひそめ見下ろしていたが、すぐさま空の彼方へと上っていく藍染に向かって顔をあげ

「ごきげんよう、藍染さん。崩玉を手に入れることができなかったことは貴方にとって一生の汚点となるのでしょうね、私にとっての喜助様の存在と同じように

笑顔で手をブンブンと振った。