あの決別の日はハジマリの日であって、そしてオワリの日でもあった。




追い立てられるようにして夜一と二人して去った尸魂界に浦原は夜一ほど心残りはなかったと思う。
両親はとうの昔に亡くなっており家人には自身の『罪』が発覚した際にすぐさま暇を出した。
途中だった研究は場所を変えてもできる、所詮研究命なやつばかりで心をそそぐ部下もいない。
夜一とは比べ物にならないほど心残りが浦原にはなかった。

たった一つ、あるとすれば彼の『罪』が発覚してそして出奔するまで会うことを許してもらえなかった自分の乳兄妹だけで。

サヨウナラもアリガトウもゴメンナサイも
何一つ言えないままあの世界から逃げ出した。





だからあの決別の日はハジマリの日であって、そしてオワリの日なのだ。













あの日いえなかった言葉を自分の口で伝えるのはこの先ないのだろうと薄らぼんやり考え諦めそうになって、でも諦めきれず永い時が過ぎて。
ああほらやはりあの時諦めるんじゃなかったと大きな斬魄刀を抱える少年の背中を見つめながら不謹慎にも喜びそうになっている自分がいる。
そんなことよりももっと世界の危機だとか人の(正確には死神だが)命がかかってんだとか切羽詰っているはずなのに、どうにも押さえ切れない感情がむくむくと湧き上がって来る。
少しでも気が緩めば口の端が引き攣るのをどうにか押さえているものの、きっと夜一にはばれているのだろうと帽子を押さえ込む。
猫の目線からじゃあ帽子を押さえたくらいで顔が見えなくなることなんてありえないのに。

「お気をつけて」

穿界門の向こうへと消えていく少女や少年達の背中にその一言だけを言って終わらせばいいのに、それではどうしてもあの感情を抑えきることができず思わず最後に消えようとしていた俄か死神の少年と幼馴染を呼び止めてしまった。
なんだと言って素直に振り返った一護と違って夜一は浦原が言おうとしていることに想像がついているのか金色の目をすっと細め首だけ振り返るだけにおわる。
別にそれでも構わない呆れられても構わない。
ただ、伝えてさえくれれば。

「黒崎サン、夜一さん。そんなに期待もしていません、希望も持ってません」
「はぁ?アンタ、俺らが今から行こうってのに何を」
「でも諦められなかったんです。ですから向こうでってヒトにもしも出会ったらアタシの言葉を伝えてください」

サヨウナラ。
アリガトウ。
ゴメンナサイ。
言えなかった言葉ではなくて

「元気ですかと」








そして、本当に言いたい言葉でもない。