僕には好きな子がいる。
その子は周りの男子生徒が騒ぐような可愛かったり綺麗な子ではないけど(いたって平凡なんだ)僕の中にすんなりと入ってきてその存在を大きなものにしている。
理由なんていまいちよくわからない。
本当それこそいつの間にかってやつだった。
彼女、に恋するようになったきっかけは半年前の席替えだった。
僕のクラスでは席替えは基本的にくじ引きで決まる。
その日、僕が当てた席は彼女の隣だった。
彼女の存在は知っていたけれど実際に喋るのはその日が初めてだった。
いつも女の子達に囲まれて楽しそうに笑っていたさんとの最初の会話は

「隣は不二くんかぁ、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしく」

だった。
他の女の子と違って媚びてないさんとの会話は本当に楽しくて。
授業中も、休み時間も、気付けば彼女とよく喋るようになっていた。
安心して笑って女の子と喋るっていうことが僕にとってははじめてで、そしてとても新鮮なものだったんだ。
そしていつのまにか彼女を目でおうことが多くなっていって、あぁさんのこと好きなんだと自覚し始めていった。
それと同時に。
さんの僕への態度が少し変わっていきはじめた。
前と同じように喋ったりはするんだけどどことなく違和感を感じ始めた。
彼女はそれを一生懸命隠そうとしているみたいなんだけど、面白いくらいそれが隠せていない。
いつのまにか僕との会話を「自然と」するわけでなく「一生懸命に」する彼女が面白くて可愛くて。
それに気付いた英二から性格悪いとまで言われてしまった。
英二も一度経験してみたらわかるとおもうんだ、僕のこの気持ち。
自分のことで好きな子が一生懸命になってる姿ってすごく可愛いんだから。

「でも不二ぃ?それはちょっと違うにゃー」
「なにが違うのさ?」
「相手の気持ちもわかってて自分の気持ちもわかってるならさっさと付き合うとかしたらいいじゃんか」
「そう?」
「そうだにゃ!両想いだってわかってるクセに女の子が一生懸命な姿見て楽しんでるなんてサドだにゃ!」

それだけでサドにされたらたまらないよね。
でも、ちょっと最近はなんとかしなくちゃなとは思ってるんだよ?
席替えもあれから何回かあってさんとは狙ってるのかってくらい席すら近くならなくて、逆に英二が常にさんの席の近くなんだ。
あの人懐こい英二のことだから案の定さんとはすっかり仲良しで、僕よりもさんと喋ってる。
僕だけの「一生懸命な」さんが英二になびかないか心配だよ。
今も授業中だっていうのに二人はコソコソ手紙の交換なんてやってて、なんの話をしてるの?とか英二といると楽しい?とか聞きたいことはたくさん。
顔と態度にすぐでるさんは英二から手紙がかえってくるたびにコロコロと表情を変えていて。

面白いんだけど、面白くない。

英二は英二で楽しそうに笑いながら手紙にシャーペンを走らせているし。
あとで(英二を)問い詰めてやろうと心に決め授業そっちのけで僕は英二とさんのほうに目を向けていた。
最後の方ずっとソワソワしていたさんは授業が終わって先生がいなくなるやいなや英二のほうに少し涙目になって顔を向ける。

「そんな馬鹿な!!」
「えー、本当の話だにゃ。すっごいわかりやすい!!」
「うそー…ありえない…」

そう言って二人にしかわからない会話をするとさんはよよよと崩れて自分の机の上に突っ伏した。
それを見て、あぁ面白くてかわいいなぁなんて思ったけどそれよりも先に問い詰めなきゃと英二のもとへ僕も向かう。

ちゃーん、そういうのもだめだめ!わかりやすすぎ!!」
「なんの話してるの?」

僕が会話に参加すると机の上に突っ伏していたさんが飛び跳ねて起き上がる。
本当、かわいいよね。

「い、いや。なにもそんなたいしたことじゃないよ、不二くん」
ちゃんって顔とか態度に出やすいよね、って話してたんだにゃ」

頑張って言わないようにしていたさんに反して英二があっさりと答えをばらす。
勿論そんな英二にさんはあたふたと手を動かして黙らせようとしているんだけど、それも面白くてかわいくて仕方ない。
ここまでくると僕もある意味病気かも。

「ふ、不二くんはそんなふうには思ってないよね!?」

どうしてそこで僕にふるんだろとおかしくなってしまい思わずクスっと笑ってしまう。
それを見てさんは肯定ととったのかすごくショックを受けた顔になる。
それを真正面で見てると本当におかしくて、更に笑いがこいあげてくる。

「ほらほら〜不二もそう思ってるんだにゃ!!」
「そ、そんなぁ…」

英二に再び言われてさんは泣きそうな顔になる。
だから。
僕はフォローするつもりで

「でもさんのそういうところ可愛くて、僕は好きだよ」

って言ったんだけど。
どうも逆効果だったみたいで顔をボボボっと真っ赤にしたさんはその顔のまま教室を飛び出していった。
あれ?と不思議そうに出て行った教室の扉を見つめていると横で英二がハァとため息をつくのが耳に入る。

「ふ〜じ〜ぃ。わかっててそう言うのはダメだって言ったじゃん。ある意味ルール違反だぞぅ」
「ん〜、ちょっとからかいすぎたかなぁ…」
「ほーんと、ちゃん可哀想。なーんで不二なんだにゃ??」
「どういう意味?英二」
「べっつにぃ〜〜」
「でも本当可愛いよね。あれ、クセになるんだ」

勿論さんはそんな会話を僕と英二がしていたことなんて知らない。
このサドめ〜という英二に笑い返して、僕はこれからのことをぐるぐると考え始める。

もう少しだけ、キミとの時間、楽しませてほしいんだ。