「いいいいい、なななななな!!!」
「今のはなんだと言っています」
一人羽毛に閉じ込められてしまったグウェンダルをキヨちゃんがフレスヴェルグを小さくしたことでなんとか救出でき、孔雀の羽のような大きな羽毛を体のあちこちにくっつけたままゴッドファーザー愛のテーマは私たちに向かって指をさした。
「い」と「な」しか発音しない兄に代わってコンラッドがにこやかに通訳してくれるのだけれど、どうしてわかるのかさっぱりだ。
その更に弟であるヴォルフラムはどうやらわからなかったらしく、ポカンと口をあけていたけれど私たちの視線に気付いてすぐにキリっとした表情を顔に浮かべ「兄上がそう仰っている!」とごまかすようにして声をはりあげた。
かわいいやつめ。
「フレスヴェルグっていうんだ。彼はちょっと性格が悪いけれどなんでも知ってるすごい鷲だよ」
「わわわわわ、でででで、ばばばばば」
「鷲があんなにでかいわけがないだろう馬鹿にしているのか、と言っています。うーん、確かにあんなに鷲は大きな鳥でしたっけ?」
「コンラッドすっげー!なんでグウェンダルが言ってる事全部わかるんだ!?」
「それはねユーリ、俺たちが兄弟だからですよ」
「おお、俺もそのうち勝利とそうなるのかなぁ。でも仲が良くてちょっと羨ましいな」
にっこりと微笑んだユーリにコンラッドはこれまたにこりと微笑みかえす。
「ちょっと待て!僕も兄弟だぞ!兄上の仰る言葉はどんなものでも理解してるし通訳できるぞ!」
自称だか他称だかは結局わからないけれどユーリの婚約者でグウェンダルとコンラッドの正真正銘の弟であるヴォルフラムが慌てていい雰囲気を醸し出すユーリとコンラッドの間に割り込んでいく。
ぐいぐいと二人の間に体をねじ込んでぎゅーぎゅーと両手を使って二人の体を引き離す。
なんて健気で、あほうな子なんだろう。
「にしても、千石の召喚は使えるのに不二のは使えないのか・・・」
「そういえばそうだね。キヨちゃん、召喚の際何か変わったこととか気付いた事とかなかった?」
「いたっていつもと一緒だよ、魔方陣もしっかり安定してたし俺もちゃんと力使えるし。変わったことなんてないよ」
跡部のふとした疑問にそういえばと私が肩に小さくなったフレスヴェルグを乗せているキヨちゃんのほうに振り返る。
変わったことなんて何一つなかったと断言したキヨちゃんから今度は不二のほうに顔を向ける。
相変わらずどす黒いオーラを背中に背負って、ブツブツと周りの人間には聞こえないような声で何かを呟いている。
どうかただの恨み節だけでありますように、どうか呪詛じゃありませんように、と祈りつつ不二のほうを見ていた全員が全員同じように顔をそむけた。
魔族と人間が同じ感情を共有した、ある意味めでたい瞬間だった。
「ところで、先程彼がみせてくれたのがテンイとかいうものですか?なにやら布陣のようなものを空中に書いて、そこからその鷲がにょきっと飛び出してきましたね?陛下の住むチキューの人間はみんなそのテンイというものをできるのですか?魔族でもできますか?むしろ方法を教えなさい、いますぐに!さあ!」
「・・・・あのぉどなたですか?」
とりあえず一旦落ち着こうということでフレスヴェルグによって机やら椅子やらが押しつぶされてしまい使い物にならなくなってしまったので、更に隣のお部屋に移動したのだ。
本物のメイドさんが席に着いた私たちにお茶のセットをふたたびだしてくれ、ありがとうと口を開くと「ごゆっくりどうぞ」とにっこり微笑み返される。
ここに忍足がいたらアイツは携帯の写真機能とムービー機能をフル活用するんだろうなぁとドアからでていくメイドさんの後姿をみつめながら思う。
『あかん!やっぱりメイド服はこうでなきゃな!』
『ご主人様とか言ってくれへんやろか・・・』
『あとで撮影会開いてもらってもいいか頼んでみよ』
考えたくもないのに忍足がこの場にいたら必ず言うであろう言葉がポンポンと次々頭の中に浮かんでくる。
いかんいかん、これじゃあ私もさして忍足と変わらないじゃないとフルフルと頭を横に何回か振れば、ちょうど目の前で宍戸と跡部も同じように頭を少しだけ青ざめた顔をして横に振っているのが目に入る。
そのことにお互い気付いて、三人揃ってふっと視線を外しあらぬ方向に顔を向ける。
で、だ。
この部屋に移動してやっとこさグウェンダルも落ち着いたようなので(羽毛はいまだにつきまくっているけれど)改めて私たちのことやここにきた経緯とやらを説明しようと思ったのだけれど。
「ア、アニシナッ!?なぜここに!!」
「お黙りなさいグウェンダル、お客人の前でなんてはしたない。これだから男は・・・」
「ぐっ!それよりも本当に何故お前がここにさも当たり前かのように座ってしかもイキイキと会話に参加しているのだ!?」
「大声でうるさいですよ、グウェンダル。私なら普通にこの部屋の中に入りましたよ、コンラッドがどうぞといって椅子も明け渡してくれましたしね!さあ、そんなことよりもそこのヨザックと同じちゃらんぽらんそうな頭の少年、先程のテンイとやらの仕組みをちゃかちゃかと説明なさい」
ビシリとキレイな指先がキヨちゃんにつきつけられる。
真っ赤な、それこそ燃えあがっている火のような髪をした女性がいつのまにかユーリ少年の隣に腰掛けていて優雅にティーカップを傾けている。
隣の部屋にいたときはこんな女性いなかったはずで、彼女の話によるとコンラッドはこの女性がいることに気付いていたらしいのだけれども。
「えーと、お姉さん誰?さっきまでいなかったよね」
「ああ!私としたことが名乗るのを忘れていました、つい思いもがけない研究対象いえいえ興味深いモルモッいえいえお客様に興奮してしまいましたね。私はアニシナ、正式にはフォンカーベルニコフ卿という長ったらしいものもついてきますが。毒女と多くの人に言われています、光栄な事に」
「え・・・毒女?しかも光栄なんだ・・・」
「ちなみにアニシナはグウェンダルの幼馴染で、この眞魔国の三大悪夢、あ、いえいえ、三大魔女と呼ばれているんですよ」
なんだその太一だけが尊敬しそうな肩書き!
思い切り『三大悪夢』とか言っちゃってるよ、しかもこころなしかよくよく見てみればグウェンダルは顔を真っ青にして胃の辺りをおさえてるわ(南くんの仕草とまるっきり一緒なのが笑えるけど)ユーリとヴォルフラムもそっぽ向いちゃってるわ、ギュンターなんて我関せずとばかりにそっぽをむいてしまっている。
まるで、そうまるでこれは
「「「不二の降臨、眞魔国バージョンか・・・」」」
跡部と私と宍戸の声がきれいに重なった。
一国に一人いかがですか?魔王と毒女